新たな交友#2
1
「後は、体育祭、文化祭とかの学校行事の手伝い、かな」
「学校行事の手伝い……ですか?」
「うん、そう。……って言ってもこっちはそんなにすることないと思うよ」
体育祭や文化祭は、各々の担当の係がいる。
主な仕事はその係の生徒がするのだろう。
「分かりました」
「去年までの仕事内容しか知らないけど、とりあえず委員長の仕事はこのくらいかな」
「ありがとうございます」
「また何かあったら私に聞いてね」
一通りの話を終えた雛森さんが、握り拳を作り自身の胸元に当て堂々とした態度を見せる。
その態度は、全てを受け入れてくれる器の広さを感じさせる。
「ありがとうございます。困ったことがあったら頼らせてもらいます」
「うんうん、ばっちこい」
お礼を言うと雛森は満足そうに頷いた。
「じゃあ、次は副委員長の仕事ね」
雛森さんの話が終わったのを皮切りに、南さんが口を開く。
「うん。お願い」
「そんなに大変な仕事はないから、そこは安心していいよ」
「そうなんだ」
「主な仕事は、登校したら出席簿を職員室から持ってくるのと、授業が終わった後の黒板消しね」
黒板消しも副委員長の仕事なのか。
今まで、気にした事がなかったから知らなかった。
俺も手伝えそうだな。
「後は、委員長の仕事の手伝いとかね」
「さっき雛森さんが言ってた事でしょ」
「そうね」
「凪沙の手伝いは元々するつもりだったから」
「そう。……なら説明は要らないよね」
南さんが一度、俺に視線を向けすぐに戻す。
「説明が要る事はこのくらいね」
「ありがとう」
仕事内容の説明が終わり、俺たちはそのまま図書室で授業が終わるまで、雑談をして時間を潰した。
2
「それじゃあ、これでホームルームは終わりよ。……あ、そうだ。瀬野君はちょっとこっち来てねー」
「すぐ行きます」
俺は帰る準備をしていた手を止めて、桜井先生の側に行くことにした。
「急に呼んじゃってごめんね」
「いえ、大丈夫です。それで何の話ですか?」
「委員長の仕事は柚葉ちゃんから聞いたよね」
「はい、聞きました」
「そう、なら良かった。それから委員長の仕事は今日からお願いねー」
「分かりました」
「うんうん、これからよろしくねー」
俺が快諾すると、桜井先生が嬉しそうに頷き、俺の手を取り上下にぶんぶんと振る。
「ちょっと桜井先生」
するとすぐ後ろから声が響く。
振り返ると少し怒ったような顔をして腕を組んでいる凛がいた。
「あ、凛ちゃん、どうしたのー」
「どうしたのじゃなくて、その、……わ、私の、か……彼氏にあんまりベタベタしないで」
「あらあら、うふふ。ごめんねー」
桜井先生は凛の抗議を聞き、ニヤニヤしながら俺の手を離した。
「凛ちゃんもこれからよろしくね」
「……はい」
凛はまだ少し怒った様子を見せている。
「じゃ、そういうことだから、また明日ね」
「はい、また明日」
そうして桜井先生は教室から出て行った。
「もう、そんなに怒らなくても大丈夫だから」
「それは分かってるけど……」
「俺の大事な人は、凛だけだよ」
教室にクラスメイトが減っていることを確認して凛に俺の想いを伝える。
「……ありがと」
「少しは落ち着いた?」
「……うん」
「じゃあ、行こう」
俺は凛と一緒に委員長の仕事である鍵閉めの確認に向かうことにした。
「瀬野君、橘さん。ちょっと待って」
教室から出ようとした俺たちを呼び止める声がして振り返る。
すると雛森さんが急いでこっちに向かって来ていた。
「私も委員長の仕事、手伝うよ」
「ありがとうございます」
雛森さんに感謝しながら、俺は横目で凛を見る。
「ありがと、一緒に行こ」
凛は意外にも雛森さんを受け入れている。
「そう言ってくれて良かったー。じゃ、行こっか」
雛森さんを入れて俺たち三人は教室を後にした。
3
「後は、そこの教室の窓で最後だね」
鍵閉めの確認は雛森さんの手伝いのお陰ですぐに終わった。
「ありがとうございました」
「こんなの全然大丈夫だよー」
確認しながら手伝いをしてくれた感謝を伝える。
「意外と早く終わったね」
一緒に来ていた凛が呟きを落とす。
「元々そんなに大変な仕事じゃないし、私たち三人だからね」
「凛も雛森さんもありがとう。……俺と凛はもう帰ります」
「雛森さんは部活とかあるの?」
「あー、……まぁ、大丈夫でしょ」
雛森さんが少しだけ考えてから開き直る。
俺の記憶が正しければ雛森さんはバレー部だったはずだ。
「バレー部の顧問って、厳しくないの?」
凛の疑問は俺も思っていたことだ。
「そんなに厳しくないよ。うん、……多分大丈夫」
「多分って、本当に大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫、ほら早くカバン取りに行こ」
そう言って雛森さんは俺たちを急かす。
「雛森さんがそれでいいなら私たちは気にしないよ」
「そうだね」
「二人とも、ありがと」
雛森さんは凛と俺に微笑みを溢す。
俺たちは雛森さんの後に続き、教室に戻った。
4
「二人ともこの後って暇?」
校門から出て、少し歩いてすぐに雛森さんが聞いてくる。
俺と凛は、一度目を合わせた。
「まぁ、暇です」
凛も俺と同じようで頷いている。
「ならさぁ、ちょっとゲーセンとか行こうよ」
「良いですよ」
「やったー、楽しみだー」
雛森さんが嬉しそうな声をあげる。
「確か、駅の近くにあったよね」
「うん、行こ行こ」
「あそこですね」
十分ほど歩いて、目的地であるゲーセンが視界に入る。
「久しぶりのゲーセン、ちょーあがる」
雛森さんは子供のようにはしゃいでいる。
こんな様子の雛森さんは初めて見た。
普段、学校で見る雛森さんの印象とは少し違う。
いや、今までの俺は他人のことを知ろうとしていなかった。
俺が知らなかっただけで、学校での雛森さんもこういう一面を出していたのかもしれない。
「ほんとに何も知らなかったんだな」
俺は無意識のうちに呟いていた。
「どうしたの凪沙」
「いや、何でもない」
どうやら俺の呟きは凛に聞こえていたようだ。
そんなに大きな声ではなかったが、凛は隣を歩いていたから聞こえていたのだろう。
「ふーん、まぁいいや。それよりゲーセン楽しみだね」
俺の耳元で凛が小声で呟いた。
「うん、楽しみだね」
「もー、すぐにイチャイチャしないの」
雛森さんが振り返って俺たちをジト目で見ている。
「すいません、俺たちもゲーセンが楽しみで少しテンションが上がってしまって」
「ほんとに?」
「ほんとですよ」
「それより、もうすぐゲーセン着くよ」
凛が俺を助けるように雛森さんの興味を逸らそうと話題を変える。
「そうですよ」
俺も凛に便乗する。
「分かったよ。じゃあ、ゲーセン楽しもー」
そうこうしているうちに、俺たち三人はゲーセンにたどり着いた。




