新たな交友#1
1
「雛森さんと南さん、少しいいですか?」
クラスメイトと雑談をしていた雛森さんたちに声をかける。
「ん、何?」
「委員長と副委員長の仕事について教えて欲しくて。……今、大丈夫ですか?」
「あー……」
雛森さんは友達を見渡し、少し迷った様子を見せる。
「私たちのことは、気にしなくていいよ」
「そうそう、待ってるから大丈夫だよ」
「ありがとー」
友達の配慮に、雛森さんが安心した様な笑顔になる。
「ここで話すのもなんだし、場所変えようよ」
南さんが場所を変えようと提案する。
「そうだね、この教室は少し騒がしいからね」
「じゃ、図書室とか静かでいいんじゃない?」
凛と雛森さんが、南さんの提案を受け入れる。
そして、俺たちは四人で図書室に移動することになった。
2
「そういえば、二人はなんで委員長と副委員長になったの?」
俺たちの前を歩いていた雛森さんが、不意に振り返る。
「なんで……って?……あー、えーと」
凛が言い淀み、軽く俺に視線を向ける。
「えっと、今までやってこなかったことを、やってみようってことになって、それで」
「それで、面倒な係を選んだんだ?」
「まぁ、そうですね」
「へぇ、なんか二人変わってるね」
「そ、そうですか?」
雛森さんの隣を歩いていた南さんも俺と凛に対して、怪訝な眼差しになる。
「付き合い始めたから、変わったんじゃない」
「あー、そういうことなの?」
「だってさ、付き合い始めた頃ってなんでも出来るような気になりそうじゃない?」
「そういう……ものなんだ」
雛森さんの考えに、南さんが小首を傾げている。
実際に雛森さんの考えは、当たっていると思う。
今の俺には、凛が隣に居てくれるという安心感がある。
そんなことを考えていると、制服の袖を軽く引っ張られる。
「……」
凛が前を歩く二人にバレないように袖を引っ張っていることに気付く。
凛も雛森さんが言ったことに自覚があるのだろうか、黒紫の髪をかけている耳が少し赤く染まっていた。
「まぁ、私も誰かと付き合ったことなんてないから、分かんないけどね」
「そうなんですか?」
雛森さんが自白した内容に驚いて、つい聞き返してしまった。
「うん。告られたことは結構あるけどね」
「全部断ってるんでしょ、もったいないなぁ。でも柚葉らしいといえば、らしいけどさ」
「雛森さんは結構遊んでるイメージがあったから、なんか意外」
凛も驚いた様子で、自身の雛森さんのイメージを語る。
「あはは、まぁこんな見た目してるから、そんな風に思われてたのも納得」
雛森さんは凛の抱いていたイメージに対して、否定せずに肯定する。
雛森さん自身の言う通り、彼女の見た目は派手だ。
金髪のロングウルフで、右耳にはイヤーカフを付けている。
そして両手の爪には、可愛らしい赤いペディキュアが塗られている。
この学校はある程度の進学校だが、割と見た目に関しての校則は緩く、違反となるのはピアスや刺青といったものだけだ。
見た目が派手なのは雛森さんだけではない。
この学校の生徒の男女問わず半数以上が、何かしらのオシャレをしている。
その中でも、雛森さんは別格だと思わされる。
見た目が可愛いからだけではない。
雛森さんが纏っている雰囲気と、誰に対しても優しく接してくれる懐の広さがあるから、みんなから人気になり、人が集まるのだろう。
「……って、私の話はこれくらいで終わり、終わり」
少し恥ずかしくなったのか、雛森さんが手をバタバタ振りながら、顔を逸らす。
「早く図書室行こ」
そう言って、今までよりも足早になって歩く。
「まったく……、私たちも早く行こう」
南さんがため息を吐きながら振り返る。
「そうですね」
「急いで行こっか」
俺も凛も、南さんに頷き、足早になる。
俺たち三人は、雛森さんを追いかける様に図書室に向かった。
3
俺たちは、三階の教室から二階にある図書室に辿り着いた。
「他の組の人が、何人かいるね」
先頭にいた雛森さんが、扉のガラス部分から、中を覗き込み呟いた。
「まぁ、いっか。別に聞かれて、困るような話じゃないし」
「そうですね」
雛森さんに続き図書室に入り、空いている四人用の机に腰を下ろす。
俺と凛が隣に座り、その対面に雛森と南さんが座る。
一番窓側の机ということもあって、窓から差し込む陽の光が眩しく感じる。
それは他の三人も同じらしく、各々が陽の光を遮るように、手を瞼の上に置いている。
「カーテン閉めますね」
俺は立ち上がり、窓際の側面の固定されているカーテンを閉める。
「あはは、ありがと」
「ありがとね」
「ありがと」
三人の感謝に、軽い会釈を返す。
「じゃ、先に委員長の仕事から教えるね」
俺が席に着いたことを確認した雛森さんが切り出す。
「お願いします」
「まず一つ目ね」
雛森さんは、言いながら人差し指を立てる
「毎日、放課後に三階と四階の各教室の窓と廊下の鍵閉めの確認ね」
「三階と四階だけなんですか」
「うん、それ以外の階は他クラスの仕事だからね」
「分かりました」
「次に二つ目。毎週金曜日に、その週の出席情報のプリントを生徒会室に持ってくことね」
生徒会室……か。
そういえば、入学してから一回も生徒会室には、入ったことがないな。
「生徒会室の場所は分かってる?」
「一応、知ってます」
「それなら良かった」
雛森さんが俺の返答を聞き、可愛らしく笑う。
「出席情報のプリントは、ふうちゃんせんせーに貰ってね」
「分かりました」
そこで雛森さんは少し考える素振りを見せる。
「最初は慣れてないと思うから、私も手伝ってあげるね」
雛森さんが身体を机に乗り出し、俺に顔を近づけて微笑む。
「あ……ありがとございます。助かります」
俺は急な出来事に、驚いてしまった。
「ちょ、ちょっと……雛森さん!」
横に座っている凛は、俺以上に驚いて、声を上げる。
「あははは、ごめんごめん」
凛の抗議に雛森さんは、笑いながら元の体勢に戻る。
「柚葉ったら、まったく……。あんまり二人を揶揄ったらダメだって」
「えー、だっていいリアクションしてくれるから面白いじゃん」
南さんの注意に雛森さんは、拗ねたように口を尖らせる。
「そんな顔したってダメ」
「む〜」
「ま、まぁ……、雛森さんも悪気があった訳じゃないと思うので。それに、時間ももったいないので……その辺で」
「そ、そうだよ。瀬野君の言う通りだよ〜」
雛森さんは、俺が味方に付いたことで、嬉しそうな声色になる。
「はぁ……。もう、分かったって」
南さんは、諦めたようにため息を吐く。
俺は、少しだけ雛森さんと南さんのことが分かってきた気がする。
今までは、あまり話す機会が無かったが、こうして話してみると、新しい発見がある。
"誰かの内面を知っていく"というのは、良いことなのかもしれない。




