係決め#4
1
「それじゃぁ、今から係決めするわよー」
「なんか、ふうちゃん先生やる気すごくない?」
「何か、元気じゃない」
教壇に立っている桜井先生の様子がいつもと違うと感じたクラスメイトが声をあげる。
「えへへ〜、そうかな」
言われた当の本人は、ニヤニヤしながら栗色の髪を弄る。
「さっき、良いものを見れたからかもねー」
「良いものって……あぁ、あれね」
桜井先生の言ったことに雛森さんが理解を示す。
そして俺と凛に視線を向ける。
雛森さんの視線を追うように他のクラスメイトたちもまた同様に。
凛の方を伺うと机に伏し、顔を腕で覆ってしまっていた。
よく見ると、耳が赤くなっていた。
凛は、大勢に注目されるのが苦手なのかもしれない。
俺が声を上げないといけない。
「……」
しかし躊躇してしまう。
昔の記憶がフラッシュバックする。
友達だと思っていた子を庇ったせいで、俺が次の虐めの的にされた記憶。
「……」
大丈夫だ。
凛は、アイツとは……違う。
凛は俺を信じてくれた。
それはきっと、表面上だけの信頼じゃない。
心からの信頼。
だから、選んでくれた。
だったら、俺はそれに応えたい。
いや、応えなきゃいけない。
「……ふぅ」
動悸を抑えるように、息を吸い、小さく吐き出す。
「俺たちのことは今はいいから、桜井先生、早く係決めを始めてください」
椅子から立ち上がり、桜井先生を催促する。
「そうねぇ、二人の話は後からにしてねー。係決め始めるわよー」
桜井先生はパチンと両手を合わせ、クラスメイトたちの注目を集める。
「瀬野君も凛ちゃんも、ごめんねー」
「あ……い、いえ……大丈夫です」
凛はようやく顔を上げ、桜井先生の謝罪を受け入れる。
休み時間のことも含めて、授業が始まる前から少し疲れてしまった。
2
「それじゃ、改めて始めるわよー」
桜井先生が黒板に、係を羅列していく。
それぞれの教科から始まり、色々な係が書かれる。
「みんな、各々二人一組でやりたい係の横に名前書いてねー」
係の一覧を書き終えた桜井先生が教壇に手をつき教室を見渡す。
「もし被ってたら、ジャンケンで決めてねー。……あ、そうそう、席とか自由に動いていいけど、あんまり騒ぎ過ぎちゃダメだからねー」
「はーい」
「早く終わらせて体育館遊び行こーぜ」
クラスメイトたちは思い思いに動き出す。
桜井先生も教卓の椅子に座る。
俺も席を立ち上がり凛の席に移動する。
凛も俺に気付き近くの空いている椅子を自分の椅子の近くに置く。
「ここ座って」
「ありがと」
俺は凛の用意した椅子に座る。
「もういくつか埋まってるね」
黒板を方を向いた凛が教えてくれる。
凛に言われて俺も黒板を見てみると確かにいくつかの係がすでに決まっていた。
「やっぱり楽そうな係から決まってるね」
「そうだねー」
「委員長と副委員長はまだ決まってないみたいだね」
「じゃあ、もう埋まっちゃう前に私たちが貰っちゃおうよ」
「そうしよ。じゃ、書きに行こう」
「うん」
俺と凛は一緒に、黒板の近くにやって来た。
「あ……そう言えば、私か凪沙、どっちが委員長か副委員長か決めてなかったね」
「あ、確かに」
「どうする、どっちをやりたいとかある?」
凛が俺を覗き込み聞いて来る。
「んー、正直どっちでもいいからなぁ」
「分かる、私もどっちでもいいんだよね」
「ならここはジャンケンで決めよ、勝った方が委員長でいい?」
「うん、いいよ。どっちになっても凪沙のサポートしてあげるからね」
凛は、俺の提案を快諾してくれる。
俺は、凛を抱きしめたくなるくらい嬉しくなってしまった。
当然、クラスメイトの前でそんなことは出来ないが。
「ありがと、俺も凛の手助けするよ」
ここはその気持ちを抑えて、冷静に返す。
凛は俺に嬉しそうに微笑みを見せる。
「じゃあ決めよっか」
「うん、そうだね」
「じゃあ、いくよ」
「「ジャンケン、ぽん」」
俺と凛は同時に掛け声を発する。
その結果。
俺がグー。
凛がチョキ。
「俺が委員長で、凛が副委員長ってことで」
「うん、一緒に頑張ろ」
凛が俺の片手を握る。
俺も握られた凛の手に反対の手を重ねる。
そして、俺たちは委員長と副委員長の欄に自分の名前を書いた。
「あらあら〜、瀬野君と凛ちゃんが委員長と副委員長やってくれるのね〜」
名前を書いて凛の席に戻ろうとしたところで俺たちは桜井先生に声をかけられる。
「え……あ、はい」
少し気の抜けた返事になってしまった。
「いいわね〜、あなたたち二人なら、きっと上手くやれるわよ」
「あ、ありがとうございます」
「まぁ、頑張ります」
凛と俺は、桜井先生の軽い激励に謝意を示す。
「うんうん、頑張ってね。……あ、そうだ、委員長と副委員長の仕事で何か分からないことがあったら、柚葉ちゃんと朱莉ちゃんに聞くといいわよ〜」
「分かりました」
「この後にでも聞いておきます」
俺と凛は桜井先生に軽い会釈をして凛の席に戻った。
3
「全部決まったわね、思ったより早く終わったわー。去年と大違いねー」
凛と雑談をしていると、桜井先生が教卓に立ち、係決めが早く終わったことを褒めてくれる。
「それじゃ、残りの時間は自由時間だから、みんな好きに過ごしてねー」
「よっしゃ、体育館行こーぜ」
「寝よっと」
「ねぇねぇ、図書室に勉強行こうよ」
クラスメイトたちが一気に騒ぎ出す。
「あんまり騒いじゃダメよー。私は職員室か、この教室にいるから、何かあったら呼んでねー」
桜井先生が言い終わると同時にクラスメイトたちが教室から出て行ったり、机にうつ伏せになったり、友達と雑談を始めたり各々好きにしている。
「私たちは、雛森さんと南さんに話を聞きに行こっか」
「そうだね、二人まだ教室に居るしね」
教室には、数人のクラスメイトが残っていた。
その中に、雛森さんと南さんの姿もある。
俺と凛は、教室に残って話し込んでいる雛森さんと南さんのところに向かい、委員長と副委員長の仕事を聞きに行くことにした。




