第二十四話、世界と破壊と決められた未来
次の日、お兄様が帰るというので
見送りに来た。
「やぁ、アスナ。
また掃除をサボらせてしまったね」
小屋で、キマイラの身体を撫でながら、
アークは振り返った。
「いえ、今日はジルが、
快くかわってくれました」
頼むから早く帰ってもらってくれ、
との事だった。
「ニーナはどうだい?」
「新しい小屋を作ってもらいました。
今はそこで遊んでいます」
「それは良かった」
「ラウルはいないんですか?」
「あぁ。見送りたいとは言ってたが、
お前と、二人で話がしたかったんだ」
と、アークは笑う。
やさしい、兄の顔で。
「昨日は無理させたな」
「本当ですよ。死ぬかと思いました」
「正直、切り抜けられるとは、
思ってなかったんだ」
「じゃ、どうする気だったんですか。
素っ裸になった妹、助けるお兄ちゃん。
やりたかったんですか?」
「いや、追い詰めたら、」
と、アークが一段低い声で、
「青い炎が、見られるかと」
シンと、空気が冷えて、
キマイラがこっちを向いた。
「……知って、らっしゃったんですか?」
「ラウルから聞いた。
バジリスクの死に方がおかしい、と」
あ……だから、ラウル、
バジリスクの後、姿が……
「だから、覚醒、したんじゃないかと」
アークの顔が笑ってなくて、
視線が突き刺さる。
「青い炎が、ルシファルスの物だと?」
「知ってる。生まれつき、
お前の身体にあるもんだからな」
「どうして……こんな物あるんですか?」
キマイラがビクリと反応して、
アークが目を細めた。
「俺たちの父親が、そう願い、
実行したからだ。
お前が母親のお腹の中に居る時に、
魔族を移植して、生まれた」
「お……父様が。生まれる前から?
その為だけに育てられて、否応なく
未来を決められて……そんなの!」
そんなの酷すぎる!
「そうだな。だから『アスナ』は逃げた。
その身体から。
それが唯一の方法だったからだ」
え?
ふっと、アークが笑う。
相変わらずのお兄ちゃんの顔で。
「え? 知って……」
「お前が誰かは知らないが、
アスナじゃないのは知ってる」
「な、そんな、」
「まぁ、知ってるのは俺だけだ。
魂だけになったアスナが、
最後に挨拶に来たんだ。
『お兄様、先に逃げる無礼を
お許しください』って」
なにそれ怖い。
「それと『もし、私の次の人がいたら、
助けてあげて』ってな」
……アスナちゃんめっちゃ優しい。
「ラウルの報告では、
多少別人ちっくではあったが、
かわらずやってるようで、それどころか
魔獣の世話はちゃんとするし、
実技の成績も良いし、
良い奴が『入った』なーって」
「新しいバイトみたいに、
言わないでください」
「テストはだいぶ酷いが」
「ほっといてください」
「しかし、おかげで、
マナスの摂取も進んで、覚醒もした。
感謝しかない」
「そりゃ、どうも……って、マナスって、
もしかして、力の覚醒も進めます?」
「ありとあらゆる力を増幅させるからな」
マジか! だからアスナちゃん、
魔獣に近づきたからなかったし、
学校も拒んでたんだ。
「だから、父上は無理にでも、
お前をこの学校に入れた」
「そ、そこまでして、
復活を早める理由はあるんですか」
「魔族ってのは、元々、自然界の
パワーバランスを調整するものだ。
火の魔獣が増えて困ったら、
氷の魔族を復活させて、
外大気を冷やして減らす」
え? それって、
「そう、お前のクラスメイトがそうだ。
昨日話してたな『氷狐』」
「ココ……」
「炎系の魔獣のバランスが崩れてる。
バジリスク二体が良い例だ。
普通はこの時期に、二体も起きない」
ドクンと心臓が鳴る。
そんな、事のために、ココは。
「だから『氷狐』の復活が必要なんだ」
「そんなの! だれが、どんな権限で!」
ココだって生きてるのに!
何の罪もないのに!
アークが悲しそうな顔をして、
視線をそらして。
「それを実行できる力をもった誰かが、
そう決めて、そう実行したんだ。
俺たちの場合は、親父だ」
父親が、まだお腹の中にいる
何もできない娘に、
こんな悲しい未来が待っていると
知ったうえで。
「……ルシファルスも、
そのバランスのためですか?」
「青い炎はすべてを焼き尽くす。
バランスというより、
すべてを破壊するためだ」
「すべてを? え?」
「ほとんどの生き物を殺しつくし、
新たな進化を促す」
「は?」
「破壊からしか、創造は生まれない。
そう考えた父親がいたんだ」
心臓がもう一度鳴って、
背筋が波打つ。
この世界を壊すために、
私が存在している。
「九割の生き物を殺しつくしたくらいで、
俺がお前を封印する」
「封印って、そんな簡単に」
「あぁ、多分俺はそれで死ぬ」
「いっ……」
言葉が詰まって、声がでない。
アークが、また息をはいて、
天井を見上げた。
「お前には、
酷な運命を背負わせたとおもってる」
「ほ……んとうですよ、酷い」
「だが、お前なら、
なんとかなるかも、とも思ってる」
ん?
アークの視線が戻ってくる。
ふんわり笑顔の、お兄ちゃんの顔で。
「昨日、お前は切り抜けた。
グレムリンもディアバラスも。
『アスナ』じゃ無理だった。
でも、お前なら出来るかもしれない」
私なら……
「まぁ、気休めかもしれないが。
期待はしてる。
立場上、お前の覚醒を促すのを
止められないが、それでも」
ふと、アークの顔から笑顔がきえて
──この運命を変えてくれ!
それが声とは違う、悲痛の叫びで、
心に響いて、刻み付けられる。
悲しみに満ちた願いが、
反響を繰り返す。
吐き出した息が、重く足元に広がった。
アークは、またふんわりと笑って。
「それと」
と、続けた。
「今でも、お前は俺の可愛い妹だ」
「……へ?」
「いつでも、何でも言ってこい。
なんでも買ってやるし、
お前を悲しませる奴は
兄ちゃんが許さないからな」
「お……おにい、さま」
「ほら、お兄ちゃんが、
ギューってしてやる。だから元気だせ」
「いや……あの」
両手を広げて、笑うその顔は、
やっぱりお兄ちゃんのそれで。
傷心の心が揺れる。
「ほら、おいで」
優しいその言葉に、引かれるように、
腕の中に飛び込む。
遠慮なく抱きしめてく暖かさは、
まさしく家族のそれで。
「いつまでも、何があっても、
俺の可愛い妹だからな」
耳もとで呟かれて、心にしみる。
そのに含まれる、期待と悲しみを
同時に感じ取った。
「あの……おにいさま」
「ん?」
「そろそろ……放してくださっても
大丈夫ですよ」
「いや、もうちょっと」
「は?」
「いや、『アスナ』は、
いつもこんなに長くさせてくれなくて」
「ちょ! 放して!」
「いやー、いつもはあご殴られたり、
足ふまれたり大変で」
「私がそれをしないと思ったら、
大間違いですからね!」
「はっはっはっ、可愛いなぁアスナは」
「もしかして、分かったうえで、
昨日の最初のハグが長かったり、
チューしようとしたり」
「『アスナ』が
チューさせてくれる訳ないからな」
「グレムリンの時も、
中身は妹じゃないと知ってて……」
「身体は妹だから、
さすがに発情はしないがな」
「こ、こっちの気持ちの問題です!」
「あと、パンツは俺が選んだとかも嘘だ」
「は? はぁー?」
「意外と可愛いパンツ
履いてるんだなーって」
「具体的に言わないで! 恥ずかしい」
「はっはっはっ、可愛いなぁ我が妹は」
「誤魔化されませんからね!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『次回予告』
「あの、状況分かってます?」
「カルアに壁ドンされてる」
「無理矢理やってるみたいで嫌なんです」
「別に嫌いじゃないくせに」
毎日更新!
今日も
お仕事お疲れ様!
モフモフー




