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第二十三話、医務室で白衣で眼鏡の先生

「やぁ、僕はハイズ」

 医務室で、眼鏡の先生だった。


「魔獣申請に来たのは君だよね」

 と、椅子に座ったまま話し続ける。


「はい、アスナです」


「アーク様から話はきいてるよ。

 申請するのはその子?」

 私の足元のニーナを指して。


「そうです。今は人に擬態してますが」


「ガウ! ゥゥゥゥゥ……」

 ニーナは先生に向かって、

 威嚇を続けている。


「さすが野生!毒もあるし、

 ちょっと大人しくさせるか」


 ハイズ先生は両手を伸ばして、

 ニーナの肩をガッシと掴むと

 真っ直ぐ顔を覗き込んだ。


「へ? ひっ!」


 先生が目を見開くと、

 威圧感が波紋で広がって、

 思わず声を上げる。


 ビリビリと、圧を感じて、

 背筋が波打つ。


 ニーナの動きが止まって、

 先生を見ている。

 ニーナの瞳から、光がなくなっていく。


「大丈夫、君は言うことを聞くよねー

 良い子だもんねー」


「……ガウ」


 ニーナが大人しく、

 頷いた。


「じゃ、ベッドに寝てー」


「……ガウ」


 光の無い目で、

 ふらふらとベッドに上る。


「せ、先生、これって」


「うん『強制的使役』つまりテイムだね」


「先生の能力ですか?」


「まさか、違うよ。マナスを吸ってれば

 君もできるようになる。成功するかは、

 自分と相手の強さによるけど」


「マナスを?」


「あれは、持ってる能力を高める。

 テイムは人が生まれもった、

 相手を魅了する力」

 

 ビーストテイナーには必須の能力。

 だから下級生は魔獣の世話が多いのか。

 マナスを吸い込ませるために。


「実は一目ぼれとかは、軽いテイムなの」


「そうなんですか?!」


「相手に好意があると、かかりやすい。

 多かれ少なかれ、人はかけたり、

 かけ合ったりしてるのよ」


 あ、だからこの学校、

 女子が居ないのかも。


「まぁ、テイムで恋人になっても、

 トラブルにしかならないけどね」


 お兄様とジルのお姉さんって、

 もしかしてそれなのかな。


「さ、もう良いよ。体おこしてー」


「……ガウ」


 ニーナは相変わらずボーっとしていて、

 ふらふらしてる。


「この子の能力は、

 新緑系の毒と、人型擬態、

 あと、昏睡魔法だねー

 じき、言葉も覚えるよ」


「先生、このテイムって解けるんですか」


「僕のはほっといても解けるけど、

 そうだね、君がほっぺ触りながら、

 目を見たら、すぐ解けるよ」


 言われて、やってみる。

 ベッドに座ってるニーナの

 ほっぺたを触りながら、

 目を見る。


 本当、よく見ると美少年で、

 よく見るとお兄様に似てる。


「ガウ……ガウ……ガ……ワン!」


 ニーナの目に光が戻って、

 抱きついてくる。


「ちょ! 重い、重い」


「それは、テイムの上書き相殺って特性。

 より好きな相手にかけられる事にで、

 前のテイムが解ける。」


 なにそれ、テスト出そう。


「はいこれ、首輪ね」


 黒くて、太い、

 革製の首輪を渡される。


「え? コレ付けなきゃダメなんですか」


 こんなに太い、苦しそうな。


「そうだね。規則ではあるけど、

 規則以前に、彼の身を守るには

 大事な事なんだ」


「身を守る……」


「誰かの所有物だと、分からないと、

 捕食されたり、駆除されたりする」


「……なるほど」


「あと、彼には危険な場所も、

 入っちゃいけない場所も分からない。

 グリフォンの中に入って食べられたり」


「たしかに……」


「だから、必要なんだ。

 大丈夫。アーク様が『お金は出すから、一番良い首輪を』って言ってたから、

 苦しくないし、伸縮もする。

 人でも、犬型でもつけてられる。」


 首輪をギウと握りしめる。


 所有物の証。


 一瞬、カルアの顔が浮かぶ。


「自由にさせる事は優しさじゃない。

 首輪も、しつけも、大切な愛情」


 首輪を開いて、ニーナに見せる。


「付けて……くれる?」


「ワン!」


 ニーナが金色の光を放って、

 犬の姿に戻る。


 あごや顔を撫でてあげると、

 気持ちよさそうな顔をする。


「良い子」


 首輪を丁寧につけてあげると、

 嬉しそうにまた声を上げた。


「いいね。じゃあこれから最後の指導ね」


 ハイズ先生は向き直ると

 真っ直ぐ私を見て続けた。


「これから、彼の責任は君が持つ。

 ビーストテイナーの心得を知ってるね」


「はい、心得ております」


「彼の罪は、

 そのままそっくり君の罪になる」


「はい」


「彼を飼えなくなって、

 誰にも譲渡できなかったら、

 君が彼を殺す事」


「はい」


「そしてもし、彼が、

 君より優位に立ちだしたら、

 学園から彼の処刑命令がでる」


「わかっております」


「うん。じゃ、大丈夫。

 君は、良いビーストテイナーになる」

 にっこり、先生が笑った。


「頑張ってね」


「ありがとうございます」


 ニーナを抱っこして頭を下げる。

 動物を飼うというのは、

 命を引き受ける事。


 責任の重みを刻み、

 医務室を出た。


 廊下を歩きながら、

 抱いているニーナの首輪を触る。


 カルアの細い指を思い出す。

 それが、私の首を掴んだ感触を、

 鎖骨まで伸びた手を思い出す。


 首の後ろを触る。

 カルアがつけた痕。

 もう消えちゃったよ。


 あれから、姿を見てない。


 このままじゃ、どっかいっちゃうよ。


 黒い煙が目の前を横切った。


「え? その犬、飼うとか、

 言いませんよね?」


「は? え?」


「嫌ですよ。犬は苦手です」


 真横でカルアが浮いていた。

 コウモリ羽根で、スーツで、長い手足。


「カルア?」


「なんです? 幽霊みたような顔して」


「いや、今! しばらく見てないなって」


「私だって、修復とか

 いろいろかかったんです」


「ジルに負けてたもんね」


「負けてませんよ」


「ボロボロで、死んじゃうかと思った」


「心配してくれたんですか?」


「……そうね」


「私がいなくて寂しかったんですか」


「まぁ、そうね」


「いやに素直ですね」


「他に私に言うことあるんじゃない?」


「謝りませんからね、

 あなたが悪いんです」


「口に指突っ込むのは、ほんとやめて。

 あれ、すっごく恥ずかしい」


「まぁ、外じゃ、やめときます」


「部屋でもやめて!」


「ワン!」


 ニーナが嬉しそうに鳴いて、

 カルアに飛び上がる。


「ほんとに飼うんですか」


「一応、魔獣の部屋は外って規則」


「夜は外に出してくださいね」


「あんたも似たようなもんでしょ」


「違いますよ」


「あ、今日の夜、羽根、触るからね」


「やめてください、

 せっかく修復したのに」


「私の体は好き勝手触ったのに?

 後ろから服に手を突っ込むの

 マジやめて」


「わかりました、外じゃ、やめときます」


「部屋でもやめて!」


「ワン!」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 『次回予告』


「炎系の魔獣のバランスが崩れてる」


「そんな、事のために、ココは」


「だから『氷狐』の復活が必要なんだ」


「そんなの! だれが、どんな権限で!」



 毎日更新!


 今日も

 お仕事お疲れ様!

 モフモフー

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