昔話⑧【同盟】
自室にて、アルファは嘗てない程に焦っていた。
目の前に対峙するは、気弱そうな白髪の男、魔王バレット。そして、その従者である二人の男、ギルーラとキール。
この中だと、見た目的に一番の年長者はギルーラだろうか。赤毛の髪に、ガタイのいい体格をした中年男性だ。
逆に、一番若い者はキールだろう。三つ編みにした長い黄土色の髪を、後ろに垂らした少年。悪戯に瞳を細め、生意気な視線を向けてくる辺り、精神的な未熟さを感じざるを得ない。
(はぁ……。まさか俺が去った直後に、このような事態が起こっていたとは……)
あと数分あの場に留まっていれば……と、アルファは悔し気に歯噛みする。
着替えをしている最中に、「お客様よ、アルファお兄さま。魔族の王様ですって」と呑気にノックをしてきたディアナの声を思い出しながら。
(何故連れて来た……。しかも魔王って……。初の客人が魔王って……)
予想だにしない超大物の来訪に、アルファは内心、頭を抱えて項垂れた。
けれどもちろん、警戒心も怠らない。
対面するソファに腰かけ、ディアナの淹れた茶に視線を落とす彼らを流し見ながら、アルファは弱味を見せまいと、出来るだけ落ち着いた態度で紅茶を啜った。
「バレットとか言ったか。……それで、貴様はこの様な場所にゅ、……何用か?」
ちょっと噛んだ。
しかし、アルファは真顔フェイスを貫く事で、これを見事に誤魔化した。
伊達に何百年も長男をやっていない。これまで、弟妹達に恰好を付ける為だけに磨いてきた数々の技が、よもやこの様な場面で生かされるとは。
堂々とし過ぎて、逆に「あれ?聞き間違いかな?」とさえ相手に錯覚させる事が可能なのである。――と、信じたい。
「……偉大なる吸血鬼殿。早朝からの突然の訪問、勝手ながらお許し願いたい。しかしどうしても、急ぎ貴方方にお伝えしたい事があったのです」
バレットは眉を顰めて瞳を伏せると、僅かに震える自身の手を、固く握りしめた。
心痛に胸を痛める様に。何かに恐れ、悲しむ様に。
その姿は弱々しく、とても魔王とは思えない程に儚く映る。……思わず、彼が魔王である事を忘れ、緊張感を解いてしまいそうな程。
けれどアルファは、そんなバレットの様子に警戒心を更に強めると、馬鹿にするなよと言うかの如く嘲笑を返した。
「くくくっ。……ほぅ?それは楽しみだな。何百年にも亘る沈黙を破り、魔族の長が直々にやって来る程の話とは、一体何だろうか。…………いいだろう。聞いてやる。だが、詰まらぬ話であれば即刻殺す。魔王如きが何を企んでいるのかは知らんが、その旨、重々心に刻め」
瞳を細め、まるで小者でも見るかのような蔑みを含んだ視線を、かの魔王に浴びせるアルファ。
この様な態度、およそ万人には出来ぬであろう。
当然の事ながら、バレットの両脇に腰かけていた二人の従者は、アルファの不遜な態度に僅かな殺意を滲ませた。
しかし直ぐに、バレットが片手を挙げて両者を制止した事で、その場は直ぐに鎮静化する。
「ギルーラ。キール。……弁えよ」
「……はっ」
「チーッス」
殺気を霧散させ、静かに瞼を閉ざすギルーラと、三つ編みの先をくるくると弄りながらソファに凭れ掛かるキール。
バレットは申し訳なさそうに眉をハの字に寄せると、「部下が大変失礼致しました。……申し訳ありません」と、深々と頭を下げた。
「ふふっ。腐っても魔王……かと思いきや、その態度。やはり唯の腑抜けか?よく分からん奴だな」
バレットが一瞬だけ見せた、あの突き刺すようなオーラ。
けれど今は、その片鱗すらも感じさせない程に、唯々気弱そうに謝罪する青年の姿が残るのみ。
アルファは含み笑いを強めながらも、可笑しそうに小首を傾げた。
家族以外の者と会話をしたことなど、殆ど無かった。その背景性もあってか、何故だかとても、可笑しく思えた。
この城に、この部屋に、家族以外の者がいるという不思議な感覚。
アルファを吸血鬼だと知った上で、面と向かって会話を重ねてくるそれ。
「す、すいません……」
弱々しく謝罪するバレットを一瞥し、アルファは紅茶啜った。
喉元から胃袋へと、熱を伝導させながら落ちてゆくその液体は、まるで込み上げてきた感情諸共、内へと流し込むかのようであった。
幼き頃、世界に興味を抱いた結果、自身が招いてしまったあの惨劇。その過去が、アルファの僅かに芽生えた好奇心を、無意識の内に心の奥底へと押し留める。
(悪い癖が出た。……よりによって、魔王相手に)
アルファは表情を引き締め直すと、脚と腕を組んで瞳を細めた。
油断は、禁物である。
「……まぁいい。だが、次はない。雑魚は雑魚らしく、精々下手な芝居で殺意とやらを隠していろ」
「すいません……」
「……」
――何だこいつは。
これでは調子が狂うじゃないかと、アルファは眉は顰めた。
思わず、溜息が零れる。
「はぁ……。もういい。さっさと用件を言え。そして帰れ。母上が起きる前に、な。……っ、」
はたと、目を見開く。
自分で言って、漸く気付いた。というか、思い出した。
(そうだ……。母上が起きる前に、事の処理を全て終えなければ……)
絶対にこいつらとは会わせたくない……。
アルファはバレットらをもう一度流し見ると、窓の外へと視線を向けた。
先程よりも、大分明るくなってはきたが、まだまだ朝霧に包まれた早朝。
その薄暗さに、アルファはほっと安堵する。
万が一、母上が起きたとしても、ディアナやルナ達が時間稼ぎをしてくれている……筈だ。
その辺りは流石のあいつらも分かっているだろうと、弟妹達を信用して前へと向き直る。
けれど、再び見たバレットの顔は、僅かに青褪めていて。
アルファは怪訝そうに顔を顰めると、首を傾げた。
「……どうした?」
「っ!!……いえ、何でもないです」
申し訳なさそうに微笑んで、緩く首を振るバレット。
それから、「では。お言葉に甘えて、本題に移らせて頂きましょうか」と姿勢を正した。
「――異世界人、については御存知ですか?」
「異世界人?」
どこかで聞いたことあるその言葉に、アルファは記憶を辿る。
確か、買い出しに行った村で、誰かがそんな単語を口にしていたような……。
あまり関わり合いにならないよう、買い出しを終えたら直ぐに帰宅する為、長々と聞き耳を立てる様な事はしなかったが。
「はい。この世界とは異なる世界から来た人間、“異世界人”」
「異なる、世界……?」
「何でも、私達がいるこの世界とは別の次元に、こことは異なる他の世界が存在しているそうです」
「……は?」
あまりに突拍子もない話に、呆けた声が零れた。
一瞬、馬鹿にしているのかとも思ったが、バレットの表情は至極真面目で、そんな様子もない。
「ええ。信じられない気持ちも分かります。私とて、それを聞いた時は耳を疑いましたから。……けれど残念な事に、これは事実なのです」
「そ、そうか」
世界って、広いなぁ……。
若干、現実逃避に近い内言が、アルファの脳裏を過ぎった。
けれど同時に、冷静な思考が疑問を浮かべる。
「という事は、異世界人がこの世界に来たのか?或いは、この世界の者が異世界へと行ったのか」
そうでなければ、説明がつかない。
その存在を誰かが確認していなければ、事実とは言えないだろう。
「……答えだけを言うならば、前者です。召喚魔法というのは御存知でしょうか?」
「それは流石に知っている。馬鹿にするな」
生活に必要な魔法以外は碌に使えないし、世間知らずも認めよう。
だが、アルファとて長く生きている。
世界との繋がりを殆ど断っているとはいえ、最低限の知識はやはり身に着けざるを得ない。
「し、失礼致しました。……それで、その、召喚魔法なんですが、……異世界から人間を召喚させられないかと、100年程前から人間達の間で研究が進められまして――」
「100年前?それだけあれば、俺も情報ぐらいは掴んでいる筈だが……」
「極秘密裏に行われていましたからね。都心部に住む民衆でさえ、この事を知る者はいなかった筈です」
「ふむ。……という事は、今は違うのか。人間でさえ多くが知らなかったその情報を、魔族であるお前が知っているのはおかしい」
「はい、仰る通りです。およそ2年前、その研究は完成しました。僅か1年半で、人間共は次々と異世界人を召喚し、その数は現時点で5人」
苦々しい顔で視線を落とすバレットの様子に、アルファは眉間の皺を濃くして首を傾ける。
確かに、異世界の存在は驚くべき話だったが、だから何だというのだろうか。
5人という数も、大したものでは無い筈だ。
「……話が見えんな。そもそも、何故人間達はそんな研究を始めたのだ。人間が人間を召喚して、何か得する事でもあるのか?」
「異世界人は、我々の常識を遥かに超えた、神の如き力を持っているそうです。故に人間は、その力を求めた。……貴方方、吸血鬼を滅ぼす為に」
「っ、俺達を、……滅ぼす為?」
「ええ。ですから私は、この情報を急ぎ伝えたかったのです。5人とはいえ、その力は強大です。彼らが集えば、国の一つや二つ、滅ぼす事など容易いでしょう。或いは、魔族を滅ぼす事さえ出来るやもしれません……。そして、国は彼らを纏め上げ、吸血鬼討伐隊を組織しました。情報では、今日か明日。時刻は日も昇らぬうちの早朝からと聞いています。……転移距離が限られている事もあり、来るのが遅れてしまいましたが、どうにか間に合って良かったです。今日は恐らく来ないでしょうが、どうぞ油断することなくお気を付け下さい」
憂いを込めた瞳で、こちらを心配するかのような視線を向けてくるバレット。
けれどアルファには、そんな視線に気を留めている余裕は無い。
(……そういう、事だったのか)
バレットの言葉に目を剥いて、そして同時に納得する。
この世界で、吸血鬼である自分達に勝てる者はいないだろう。目の前にいる、この魔王でさえも。
ならば、他の世界に希望を見出すのも無理はない。
そして何より――、
「……く、くくく。……なるほど、な」
腑に落ちたとばかりに頷いて、アルファは部屋の開けた空間に視線を向けた。
「5人、と言ったな」
「……?はい」
小首を傾げるバレットを尻目に、アルファは笑みを深めた。
そして、――先程殺した5体の亡骸を、部屋に出現させる。
「っ!?」
言葉を失うバレットに、アルファは悪戯が成功した子供の様な、何とも楽しい心地を味わった。
バレットが言う、常識を超えた神の如き力。
それが本当ならば、恐らくこの者達こそが“異世界人”。
アルファも魔法に詳しい訳ではないが、それでも彼らの力は異常であったと思えてならなかった。
「良かったな?どうやら全て、お前の杞憂に終わったようだ」
口角を吊り上げて、横目で意地悪くバレットを見遣る。
「……す、既に、遭遇していたのですね」
「ああ。俺達に恩でも売りたかったのかもしれんが、一足遅かったようだ。無駄足御苦労。お引き取り願おうか」
「ま、待ってください!!」
ソファから立ち上がり歩き出すアルファを見て、悲鳴染みた声を上げるバレット。
その必死な様子に、アルファは「何だ」と立ち止まった。
そして、バレットの放った次の言葉によって、驚きで目を瞠る事となる。
「――同盟を!!どうか、魔族と同盟を結んでは頂けないでしょうか!?」
曰く、異世界人に対抗し得る為、吸血鬼の力を貸して欲しいのだとか。
――以上。
「……は?」
数秒経って、漸く出たアルファの言葉がこれである。
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窓から差し込む、優しくて暖かな日の光を顔に受け、ルクスはゆっくりと目を開けた。
ぼんやりとする頭で、朝の訪れを理解する。
身体を起こし、さらりと流れる白銀の髪を背中へと追いやると、小さな欠伸を一回。
それから、静かな動作で最低限の身支度を素早く済ませると、部屋の前に今日もいるであろう彼女を想い、その扉を開けた。
「ケト。……それだけじゃ、風邪を引くぞ」
「……」
扉を開けた直ぐ真横。
薄いショールに包まりながら、両膝を抱えて座り込む小柄な少女、ケト。
長い前髪を顔に垂らし、ボサボサと伸びた後ろ髪を床に敷きながら、ケトは口を閉ざしたままルクスを見上げた。
髪ぐらい梳かしなさいだとか、返事ぐらいしなさいだとか。そんな説教を言うでもなく、ルクスはただ静かな瞳でケトを見つめ返す。
「……おはよう、ケト」
「ん……」
こくりと頷き、ケトはのそのそと立ち上がると、ルクスの服をちょこんと摘まんだ。
その動作に、ルクスは何を思うでもなく、無表情のまま歩き始める。
「明日も来るなら、もう少し厚手の物を羽織ってこい」
「ん……」
原初の吸血鬼の子。
第十六子――九男、ルクス。
第十七子――八女、ケト。
既に何千、何万と繰り返された、彼らの日課。
こうして2人の一日は、今日も始まるのである。
――が、しかし。
今日は少し、いや、大分。
いつもとは違う出来事が、この日常にプラスされた。
「……う?」
急に立ち止まるルクスによって、その背中で鼻をぶつけるケト。
一体何だと言わんばかりに、ケトはルクスの横へと移動して、顔を見上げた。
何やら、怪訝そうな顔で前方を凝視しているルクス。
釣られてケトも、その視線を辿る事となる。
「……アルファ、にーに?……それと、……??」
首を傾げるケト。
前方には、長兄の部屋より出てきたアルファと、見知らぬ3人の人物。
家族以外の者を見た事がないケトとルクスにとって、それは未知との出会いであった。
こちらの存在に気付いたアルファが、片目を引き攣らせながら「うげっ」と呟いているのが分かった。
後ろに知らない3人を引き連れて、こちらへと歩いてくるアルファ達。
正直、焦った。
ケトはおろおろと視線を彷徨わせると、ルクスの服をきゅうっと握りしめながら後ろに隠れる。
「お前ら、もう起きたのか……」
「ふふ。初めまして。私はバレットと申します」
「あ、こら。……弟妹達に気安く話しかけるなと、さっき言っただろうが」
「す、すいません。つい……」
しゅん、と肩を落とす白髪の男、バレット。
ケトはルクスの背中越しにバレットを覗き見るが、目と目が合った瞬間にまた隠れるを繰り返す。
それが微笑ましく映ったのか、バレットは可笑しそうに微笑んで、くすくすと笑っていた。
「お前たちも、今はまだ詮索するな。説明は後でする。そして何より、母上には絶対にこの事を悟られるな。俺から話すまで、絶対にだ。……分かったか?」
こくりと頷くケト。
けれどルクスは、無反応。
「おい、ルクス?聞いて――、……あー、駄目だこりゃ」
顔の前でひらひらと手を振るが、それでも固まったままのルクスを見て、アルファは肩を竦めた。
ケトは前方に回り、背伸びをしてルクスにぴとりと張り付くと、その胸に耳を当てて小さく頷く。
……心音が、半端なく早かった。
「にーに……」
ルクスの背中に隠れ直し、憐れむ様にその背に抱き着く。
物静かなルクスは、家族に対してでさえ時折コミュ障を発揮する。それが家族以外の者となれば、尚更だろう。
「あー、もう!やっぱり帰れ、お前ら。弟妹達が起き始めてきた。これ以上はややこしい。城の案内は、あの話が纏まったらだ」
「そ、そうですか……。噂に違えぬ美しい城でしたので、是非とも見て回りたかったのですが、……仕方ないですね。我儘に付き合わせてしまい、申し訳ありませんでした。良い返事が頂ける事を、心より願っております」
残念そうに眉尻を垂らしながら微笑んで、バレットは優雅に腰を折る。
そして最後にルクスとケトをもう一度流し見ると、「さようなら」の言葉の後、従者と共に姿を消した。
――それから、僅か3日後。
吸血鬼と魔族による同盟が、ここに結ばれた。
魔族側の望みは、“人間の侵略行為において、その戦力を融通し合う事”。
つまりは、共闘。
しかしこの場合、吸血鬼の力を借りる魔族側の方が、明らかに多くの益がある。
アルファとて、無知ではあっても馬鹿ではない。これだけの内容では、反芻する間もなく彼らを追い返していただろう。
そこで、その反応を見越してか、待っていたとでも言わんばかりに提案されたのが次の約定だ。
一つ、“魔族側は、過去、原初の吸血鬼に対して行ってきた全ての迫害行為を認めると共に、これを正式に謝罪する。同時に、吸血鬼に対しての武力行使は、今後一切、半永久的に行わない事を固く誓う。
一つ、“魔族側は、吸血鬼が望む全ての物資、情報等を、可能な限り提供する事に努める。また、要望等に於いても、魔族側はこれを叶えるよう最大限に尽力する事を誓う。”
これはつまり、事実上の隷属化と言っても過言ではない。
戦力の融通など、この上ない力を持つ吸血鬼にとっては造作も無い事。にも拘らず、たったその程度の願いを呑むだけで、そこに付随する益は余りに大きい。
魔族側は、吸血鬼という最強の戦力を手に入れて。
吸血鬼は、豊かな生活と、魔族という配下を手に入れた。
因みに、アルファによって開かれた、同盟の賛否を求める家族会議では。
――満場一致で、“賛成”。
恐らく、同盟の意味を深く理解した者は少なかっただろうが、変わらぬ平穏と狭い世界に暇を持て余していた吸血鬼にとって、この出来事は非常に刺激的だった。
原初の吸血鬼も、最初は憂いを帯びた表情で事の様子を見守っていたが、アルファによる説得と、子ども達の答えを聞いて、彼女もまたそれに追従した。
普段のアルファであれば、その約定がどれ程益のある内容であろうとも、家族会議を開くまでもなく跳ね除けていただろう。
しかし今回の件に関しては、魔王の訪れたタイミングが素晴らしく良かったとしか言いようがない。
事実、問答無用で強襲してきた異世界人の後に、あの気弱で紳士的な魔王の態度。それはもう、その場にいた4名の吸血鬼達にかなりの好印象を植え付けていた。
そうでなければ、ディアナも城内に招くような事はしなかっただろうし、ましてやアルファの部屋へと案内した挙句、紅茶を振舞うなど有り得ない。
そんなディアナの受け入れモードは、少なからずアルファの緊張を緩め、他の弟妹達に知られてしまう事を危惧したアルファもまた、彼らの入室を許可する他なかった。
その後はもう、成すがまま。場に呑まれ、魔王の話しを聞く破目となる。
とはいえ、魔王の態度が決して不快なものではなかったというのも、大きな要因であろう。それは多少なりとも、ある程度は聞いてやろうという気をアルファに起こさせた。
更には、あの三つの約定。
こちら側を上に立てた、敬意さえ感じる内容だ。
何より、母に対しての謝罪が盛り込まれていたことが、アルファの心を大いに動かした。
世界は、今まで母に対して行って来た非道を当然の事として見做し、過去を振り返る者などいなかった。けれどこの魔王は、それを見てくれた。
もちろん、まだ完全に信用した訳ではない。
……だが、しかし。
この男ならば、少しは信じてもいいのでは――と、アルファは思ってしまった。
――けれど世界は、どこまでも非道で。
どこまでも残酷で。
そして、どこまでも救いがない。
影より出てきた蝙蝠が持ってきた、書状。
それを広げ、同盟を結ぶ旨が書かれた文を読み、バレットは思わず口角を釣り上げる。
急ぎ、玉座の傍に控えていたギルーラに、既に準備していた返しの文を持ってこさせる。
「ありがとう、蝙蝠君。それから、これを君の主に」
蝙蝠は、優しい笑みを浮かべるバレットから返しの文を受け取ると、再び影に潜って消えていった。
そしてバレットは、にこやかにその様を見届けて――、
「――っ、くく、く、……あっはははははははは!!…………バーーカ。くく、くくく……」
額を覆って天井を見上げ、一頻り大声で笑った後。
バレットは、アルファから送られてきた先程の書状を握り潰し、静かな嘲りを口にした。
バレット「え、せこいって?……何もしていない奴等に言われたくはないのだが(ニコッ)」
こんな感じの言葉で、バレットは魔族を黙らせたそうです。




