暗転。
更新、遅くなりました。すいません。
木々に隠れ、見えなくなった竜車の背。
錆び付いた金属音を奏でながら、ルイーゼは無遠慮に門扉を閉めていく。
「――行ってしまったね。中々に面白い客人達だった」
閉まりゆく門を見届けながら、マリウスが静かな笑いを零す。
「本当に、帰してしまって宜しかったのですか?彼らが、この邸の事を外部に漏らさないという保証はありませんが。いっそ、殺してしまった方が良かったのでは」
扉を閉め終えたルイーゼが、無表情に小首を傾げてマリウスを見つめる。
マリウスは眉尻を下げて小さく笑いながら、「物騒な事を言うなぁ」と邸の方へと踵を返し、歩を進めた。
「そうは言っても、貴方様とてその選択肢が浮かばなかった訳ではないでしょう?……あの時、何故お止めになったのですか?」
あの時――。
邸の地下にある研究室を明かされて、ルイーゼがジークを殺そうとした時。
「……」
マリウスは静かに足を止めて振り返ると、意味深な笑みを浮かべた。
「大丈夫だよ、ルイーゼ。これでも、人を見る目には自信がある」
「答えになっておりませんが」
「ふふ、そうだな……。敢えて言うなら、臭い……かな」
「臭い?」
「僕と似た、同族のね。だって彼等、死体が見つかったというのに驚いた顔1つしないんだよ?寧ろ、面倒臭いもの見つけて来やがって――って顔をしていた。真面な反応をしていたのは、亜人の子供ぐらいだろうか。……いや。死体のある邸にその後も平然と居座り続けている辺り、あの亜人の子も相当か。外が嵐だったとはいえ、普通逃げ出さない?……あはは!全く、面白いね!ひょっとすると、僕なんかよりも酷いかもしれないよ。特にあの、レオという子供。……あれは、生だとか死だとか、そういう理の中では生きていないように感じる。人の生死に無頓着――というより、寧ろ死に焦がれているとでもいうのだろうか。だからこそ、誰かの生き死にに対して興味がない。……君が彼らを殺そうと殺意を向けた時のレオちゃんの顔、見たかい?あの反応は、ふふ、おかしいでしょ。ぷ、くくく……」
「……なるほど。彼らにとって、この邸での出来事など些事であるという事ですか。だから、言いふらす事もしないだろうと」
「くく、……うん、まぁ、そんなところかな」
「分かりました。信じましょう」
ルイーゼは無表情にこくりと頷くと、マリウスを追い越し玄関の扉へと手を掛けた。
邸の中へと今まさに入らんとする彼女の背を見つめながら、マリウスはやれやれと吐息を吐く。
そして、
「――まぁ、それだけじゃないけどね。本当の理由は」
ぼそりと呟かれたその言葉は、果たして彼女の耳には届いたか。
一瞬、玄関を潜るその足が僅かに強張ったように見えたのは、唯の思い過ごしだろうか。
マリウスは眩しそうに瞳を細めながら、嵐が去った後の、青く晴れ渡る空を見上げた。
本当の、理由は――
――君も、分かっているんだろう?ルイーゼ。
「本当、何者なんだろうね。彼らは……」
吐き出されたその言葉は、澄み切った青い空へと溶けていき、マリウスは邸の玄関へと再び歩を進めた。
彼らが来た初日。部屋へと案内した後――、マリウスは万が一にも地下室が見つからない様にと、術式を何重にも掛け直していた。
それはもう、腕のいい魔導士であっても破る事は不可能な程の厳重振りである。
――まず第一に、人払いの魔法を邸の至る所に張り、“何となく”という無意識レベルで、地下への入り口がある方へは近付けないようにした。
この魔法は初歩的故に、魔力の痕跡も残りにくい。大抵の者は術式の存在にすら気付かずに、“何となく”地下室がある方向とは別の道を選んで自ら遠ざかっていくだろう。
地下室や術式の存在に一度気付いてしまえば意味を為さなくなる魔法ではあるが、一日二日程度なら時間稼ぎにはなる。
バレたとしても、第二段階として認識阻害の術式も、地下室の入り口周辺に張り巡らしてある。
更には、迷った挙句にルイーゼの部屋付近にまで戻ってきてしまう仕様にしてある為、人払いの魔法が破られた事が直ぐに分かり、こちらの対処もしやすい。
地下室への扉も視認出来ない様に魔法で隠してあるので、数日そこらで見つかる事など万が一にも有り得ない。
例え見つけても、扉の奥にも認識阻害魔法が当然の如く厳重に張られ、おまけに防壁魔法によって物理的に先へと進めないだけでなく、暴発魔法のトラップまで仕掛けられている有り様。
にも拘らず、あっさりと地下の研究室へと辿り着いてみせたジーク。
数時間経たずして、事もあろうに幼児に突破されるなど、誰が予測出来るだろう。
何であれ、只者ではない事だけは確かだ。
あのまま、ルイーゼが斧を振り下ろしていたならば、死んでいたのは彼女の方だったに違いない。
そして今朝方、新たにやってきたフリードという男。
あれも相当ヤバイだろう。色んな意味で。
庭に空いた大穴を避けて通りながら、マリウスはそっと穴の底へと視線を落とす。
埋めるのが大変そうだと感想を抱きつつも、そんな彼を一瞬で撃退したというレオの姿をもう一度想い描いた。
そして、
「ふふ。……何故だろう。君とは近々、また会えそうな気がするよ」
そう最後に呟いて、マリウスは邸の奥へと消えていった。
*******
マリウスとルイーゼ。
彼らが抱える秘密は、恐らくかなりドス黒い。
完全にアウトなレベルのものを隠している。
だって、エルとクロの奴隷首輪を見ても眉一つ動かさなかったからね、彼ら。
平然とスルーだったからね、彼ら。
何か思う処はあったかもしれないが、それを態々言及してこなかった辺り、「秘密はお互い様だよね」という事だろう。
いくつか秘密を明かしてくれもしたけれど、私達が知った事なんて、ほんの表面的なものに過ぎない。
ヒリュズバウムとバルダット帝国、その両国間における闇の部分。そこにマリウスが深く関わっている事は、まず間違いないだろう。
まぁ、大して興味もないから、探る気はないけれど。
国の裏事情に首突っ込んでも、良い事なんてないだろうし。
触らぬ神に祟りなしってね!
――さて。
変わり過ぎる程に話は変わるが、迷いの森の攻略法は次の通りだ。
マリウスの邸から北と南の方角に、それぞれ10個の岩が目印として置かれている。
北へ行けばバルダット帝国が。
南へ行けばマリウスの治める小さな町が。
目的の方角へと進みながらも、目印となる岩が現れる度に、正しい方向へと向きを変えて走り続ける。
『北に行きたいのに、どうしてこの方向?』とか思ってはいけない。
認識阻害魔法の術式が至る所に仕掛けられたこの場所では、自分の感覚など当てにはならない。寧ろ真っ先に疑うべき対象だ。
重要な事は、唯ひたすらに無心となり、メモだけを信じて突き進む事である。
「――ふぅ」
森を抜け、開けた視界が周囲に広がる。
そこで漸く、エルは安堵の吐息を吐き出した。
「お疲れ様、エル。昼までには抜けられて良かったよ。ありがとう」
御者台の隣に腰かけて、エルへと労いの言葉を掛ける。
途中でクロと操縦を代わる事もせず、話し掛けないでオーラを纏いながらの無言の完走であった。
「……」
「ふふ。まだだんまりなの?」
「……別に、そういうんじゃないけど……」
口籠り、目を泳がせ、諦めた様に息を吐く。
それからエルは、「やっと帝国領ね」と肩を竦めると、小さく笑った。
私は苦笑交じりに相槌を打ちながら、エルの手に握られた“→↑←←↑↓→←↑→”と書かれたメモ用紙へと静かに視線を落とす。
……何かのコマンドかな?
ルイーゼに森の抜け道を教えてもらいはしたものの、まさかこんな適当なメモが渡されるとは……。
使用人1人だと大変な事も多いだろうし、料理に掃除、庭の手入れなんかが雑になっても仕方がないだろうと思う事でスルーしてきたが、やっぱ性格の問題だわ。
「お昼はどうするの?あの村を超えたら辺りから帝国領になるらしいんだけど、国境超える前に村で食べていく?」
エルが指さす前方の小村へと視線を向ける。
あと数分もしない内に到着してしまう程の距離である。
「んー……。いや、このまま通り過ぎよう。大した店もないだろうし。多分、国境警備が目的の村だと思う」
そうでなければ、こんな辺鄙な場所に村なんておかしい。
迷いの森を南に抜ければ町があるというのに、そこを避けて、わざわざ危険な国境線沿いに集落なんて造らない。
ここの辺境伯が余程の馬鹿でなければ、だが。
私は、隣でなるほどと頷くエルを横目に捉えながら、「それに――」と言葉を繋げた。
「どっちにしろ、あれを連れて村にだなんて無理だよ。面倒臭い事が起こる予感しかしない」
「……確かに」
エルと一緒に振り向いて、そっと竜車の中を覗き込む。
「――いいですか、坊っちゃん。もう一度言いますが、人間は糞です。ゴミクズなのです。死んで良し。殺して良し。生きる価値無し。それが人間なのです。確かに、極々稀に強い個体が生まれる事は事実ですが、そんなものは全体の1%以下。つまりは、他の99%以上の人間が雑魚の群れで御座います。人間共が魔族より勝っている点など、雑魚の癖に数だけは無駄に多いという一点のみ。流石はゴミで御座いますね。数の暴力という品性の欠片もない御下劣な戦法。彼らにプライドというものはないのでしょうか?ないのでしょうね。雑魚故に仕方のない事なのかもしれませんが、少々強い程度の個体共が数人がかりで1人の魔族を殺しにかかり、それで勝っただなどと強者面されるのは些か――いえ、かなり不快で御座います。全く、人間の思考というのは理解に苦しみますね。数十年、数百年に一度の頻度で、勇者を筆頭に大軍を率いて攻めてきますが、マジでいい加減にして欲しい。侵略者の癖に、あの正義面はマジで何なんでしょうか。魔物の被害?知るか。魔物の隷属化が出来るからといって、その全てを面倒看きれる訳ないでしょうが。そもそも、魔物如きに対処できない雑魚である自分達が悪いというのに、魔族が魔物を操っているだとか、魔族が消えれば魔物も消えるだとか、よく分からん都市伝説に踊らされて攻めてきおってからに。というか、魔物の討伐だとか素材集めだとかで、ちゃっかり一儲けしている癖にどの口が言うか。特に勇者。魔物がいなくなれば、戦う事しか能のない貴様等なんぞ唯のニートだぞ。魔物のお陰で仕事に在り付けてる、無駄に正義感だけが強い戦闘狂野郎の癖に、寝言は寝て言えよ馬鹿が。クッソ腹立たしい。マジで。いや、もう、マジで。……おっと、私奴としたことが、少々取り乱してしまいましたね。コホン。……兎に角です、坊っちゃん。人間は糞です」
「あははははっ!!埋まる!シロの毛に埋まるぞ!!あははははっ!!」
「聞いていますか、坊っちゃん?いいですか、もう一度言いますが――」
呪詛のように聞こえ続けるフリードの愚痴。
色々溜まっているようだ。
ポアは毛布を頭に被りながらプルプル震え、クロは闇落ちしそうな瞳でどこか遠くを見つめている。
私は「ふっ」と小さく笑ってその様子を見守った後、前へと向き直って、青い空を仰ぐ。
それからエルと2人、爽やかな笑みを浮かべ合いながら、静かに村を通過した。
*******
「さぁ、坊っちゃん。出来ましたよ」
星空の下、闇で創られたテーブル上へと夕食が置かれていく中、フリードが私達とは別で調理した食事をジークのもとへと運んでいく。
人間と共に食事などあり得ないという事で、テーブルも別だ。
その辺にいた中型の魔物を四つん這いにさせてテーブルとし、その辺にいた小型の魔物を四つん這いにさせて椅子とする。
……流石は魔族。魔物をああも道具の様に使うとは……。凄い光景である。
昼食時も見たけれど、まだ慣れない。当然だ。というか、この光景に慣れたら負けだと思う。
食事前のお手拭き用に、スーちゃんをみんなで回しながら私は強く頷いた。
「おい!俺様もあっちのを食べたい!」
「いけません、坊っちゃん。あの様な蛮族が作った食事など……。それに何ですか、あの怪しげな能力は。そんなもので出来たテーブルに、坊っちゃんをお連れする訳には参りません」
「魔物の上で食事を摂らせるのは抵抗ないんだね?」
変わった価値観である。
背中に乗せた食事が零れないよう、一切動く事を禁止されたその様は、まるで拷問。
ここで、くしゃみでもしようものなら――。
「――ぐぎゃっ!?」
「貴様。坊っちゃんの食事が零れたらどうしてくれる」
物凄い剣幕で、両頬をフリードによって鷲掴みにされ、「次やったら殺す」と脅される。
……いや。脅しというか、忠告か。有言実行。
そして、恐怖やら手足の痺れなんかで身体が震えようものなら――。
「――ぶぎゃっ!?」
「貴様。坊っちゃんが食べ辛いだろうが」
物凄い剣幕で、顔面をフリードに鷲掴みにされ、「次震えれば、手足を氷漬けにして固定する」と無茶苦茶な脅しを――、否。有言実行。
手足、固定されました。
もういっそ、殺してやって。
「レオのが食べたいー。う~……」
フリードの食事を口へと運びながら、ジークが頬を膨らませてこちらのテーブルへと視線を向ける。
「な、何故ですか坊っちゃん!?私奴の食事に何か不満でも!?」
「んー……」
「く、口に合いませんか?」
「んー。……いや、フリードのも美味しいんだけどさぁ。レオのは何か、……何だろう。……懐かしい、味?」
生まれて数年の幼児が何を言うか。
お前、懐かしさを覚える程、まだそんなに生きていないだろうが。
「懐かしい、ですか……」
思いもよらないワードに、怪訝そうな顔で首を傾げるフリード。
それからチラリと、こちらの料理へと視線を送ってきた。
「でも、分かる気がするわ。レオの味付けって、何だかホッとする味よね」
「まぁ、家庭料理だからね」
異世界風のだけど。
「貴族が食べる食事ももちろん美味しいけど、私はこっちの方が好きよ」
「高級料理より好きだなんて、嬉しい事を言ってくれるね。作り甲斐があるよ。といっても、調理のほとんどはエル達で、私は味付けぐらいしかしてないけれど」
「俺も!!俺もお嬢の料理の方が好き!!」
「ポ、ポアも、レオさんのご飯、美味しいと思います……!こ、高級なご飯は、食べた事無いけど……」
「ふふ、2人もありがとう」
食事を食べながら、わいのわいのと料理の感想で盛り上がる。
照れますね……。
「むぅ。やっぱり俺様、あっちに行く」
「んな!?だ、駄目です!!いけませんよ、坊ちゃま!?」
「朝も昼も、フリードの料理で我慢したじゃん」
「が、我慢、ですか……」
よっ、と椅子(魔物)から飛び降りて、こちらのテーブルへとやって来るジーク。
フリードは、テーブル(魔物)の上に載る食べ残された自身の料理を、呆然とした表情で見つめていた。
「おい!!俺様にも寄越せ!!」
シロの背を足場に、ジークがテーブルを叩いて食事を要求する。
背後には、ショックの余りに未だ固まるフリードの姿が……。
「……駄目だよ。悪いけど、君にはあげられない」
「は!?何故だ!?」
「フリードが作ってくれたものがあるだろう?料理を無暗に残すのは感心しないね。食べ物を無駄にする人は嫌いだ」
「レオが真面な事を言ってるわ……!」
口元を覆って感動を表現するエルを無視して、「むぐ……」と口を噤むジークへと冷たい視線を浴びせた。
それから、「フリードのを食べ終えてから出直しておいで」と鼻で笑った後――、
にやぁ……っと。
下種顔を浮かべながら、見せびらかす様に料理を口へと運んだ。
そう。唯の嫌がらせである。
他人が作った料理が無駄に捨てられようが、正直どうでもいい。
エルは私の笑みを見て「あ……」と声を漏らすと、先程とは打って変わって、遠い目をしながら静かに食事を再開した。
「お、お前!!俺様が、食べてやると言ってるんだぞ!?さっさと寄越せよ!!」
「おやおや、逆切れですか坊っちゃん。正論を言われて逆切れですか坊っちゃん」
「幼児相手に大人げないわ、レオ……」
私も幼児ですが?
「ぐぬぬ……。お前、俺様が寛容だからって調子に乗るなよ。……死ねぇぇぇえええ!!!」
襲い掛かって来たので、正当防衛で吹っ飛ばしておいた。
「坊ちゃぁぁぁあああんっ!!?……き、貴様ぁぁああああああ!!!」
襲い掛かって来たので――以下略。
*******
力を込めて吹っ飛ばしてもほぼ無傷だし、魔族って本当に丈夫よね。
闇で創った特設の風呂場から出て、エルが淹れてくれた水で一息入れる。
「――ふぅ。ありがとう。次、エルかクロか入って来なよ」
「俺、後ででもいいぞ」
「そう?じゃあ、今日は私が先に入るわね」
テーブルの上に置いていたお泊り用カバンを漁り始めるエル。
私は椅子に腰かけて、ひんやりとしたスーちゃんを枕に熱を冷ます。
本当、この能力便利過ぎ。
闇で創った風呂場を、これまた闇で創った壁と床で囲えば、最早唯の浴室だ。
脱衣所も隣接して創っている。
湯船のお湯は、エルの水魔法で水を溜め、火炎魔法で程良い温度に沸かしてもらえば出来上がり。
ああ……。これもう、唯の露天風呂……。
旅とは思えない贅沢さ……。
スーちゃんに顔を埋めてゴロゴロしていると、隣に座っていたポアが申し訳なさそうに話し掛けてきた。
「あ、あの。……一番風呂、ありがとうございました」
「さっきも聞いたよ、その台詞。それに、お風呂の順番は毎日交代してるでしょ?明日の一番風呂はクロだし」
「そ、そうですね。ごめんなさい……」
「ふふ。そこで謝っちゃうんだね。……一番風呂は気持ち良かった?」
「……っ!!うん!!」
「それはよかった」
年下の幼児相手に、そんな畏まらなくてもいいのに。
因みに、ポアの年齢は9歳。兄様の一つ下だ。
小型種だからか、年齢よりもずっと幼く見えてしまう。
最初聞いた時は驚いたものである。てっきり、5歳ぐらいかと思っていたから。
「――おや。ジークは寝たのかい?」
竜車から、フリードが姿を現す。
いつもならジークはまだ起きてる時間なのだが、坊っちゃんはもう寝る時間だと、有無を言わせず竜車へと引き摺って行った。
子守唄を歌いながら、ジークの身体を絶妙なリズムでポンポンと叩くフリードの姿は、中々に見物であった。
「様を付けろ、下等生物」
「……ふふ、そうだったね。坊っちゃんは寝たのかい?」
「当たり前だろう?気安く話しかけるな、劣等種が」
「……ぶれないねぇ。お風呂ぐらい入らせてあげればいいのに」
「貴様が造った得体の知れない風呂になど、坊っちゃんを入れる訳ないだろう。そうでなくとも、人間と同じ風呂場になんて――」
「ああ、はいはい。分かったよ」
「フン。魔法で洗浄はさせて頂いた。問題ない。――さて」
シャツの第一ボタンを外して首元を緩め、こちらへと歩を進めながら、不機嫌そうに髪を掻き上げるフリード。
食事も、空間魔法で収納していた自分の調理器具と材料で料理していたし、風呂場の事といい、本当に徹底している。
共有しているものは、移動と寝床代わりに使う竜車ぐらいだろうか。
毛布すら借りようとしないからね。
その辺にいた獣タイプの魔物を洗浄して敷布団代わりとし、自身の上着をジークへと掛けてやれば、立派な寝床の完成である。
本当、徹底してるわー。(棒)
身体が温まって眠気を帯びてきた瞼を擦って、欠伸と共に大きく伸びをする。
今日は早朝からフリードの所為でハッスルしたし、その後もフリードの存在に困惑する皆を気遣ってお昼寝もしなかったから、流石に眠い。
まだいつもの就寝時間より少し早目だけど、私もそろそろ寝ようかな。
フリードも何だかんだ言って害は無さそうだし、皆も多少は慣れてきた感じだし、多分大丈夫でしょう。
そう思って、椅子から立ち上がろうと――する手前。
――――パンッ。
一瞬、嫌な違和感が身体に走ったかと思えば、次の瞬間、何が何だか分からないままに、私の意識はそこで途絶えた。




