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公爵家の男装令嬢は、  作者: とりふく朗
第三章 バルダット帝国編

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滞在2時間ちょいで。

 竜小屋に騎竜を繋いだ後、泊まらせてもらう部屋へと案内される。

 邸内も最低限の掃除はされているようだが、窓枠に埃が溜まっていたり、壁の装飾品に蜘蛛の巣が張ってあったりと、貴族の邸と言うにはあまりに雑な手入れである。

 といっても、使用人が1人だけなので、こうなってしまうのも無理はないのだが。

 マリウスとルイーゼの後ろを付いて行きながら、稲光を起こす遠くの空を横目で流し見る。

 灯りは点いているものの、この荒れた天候のおかげで夜の様に薄暗く、地味に不気味だ。


「――さぁ、着いたよ」


 直ぐ近くで雷雲が大きく光り、大きな音を立てた。

 それがマリウスの声と重なって、思わずビクリと肩が跳ねる。

 ルイーゼが部屋の扉を開けてくれて、中を見せてくれた。


「こちらは、2人部屋で御座います。隣は1人部屋。滞在中は、この二部屋でお寛ぎを」

「……すまないね。部屋は無駄に余っているとはいえ、現在直ぐに使える客室はこれだけなんだ。何分、客人が来ることなど滅多にないものだから、あまり手入れをしていなくて……」


 申し訳なさそうに謝罪をするマリウスの言葉を聞きながら、部屋に入って中を見回す。

 サイドテーブルを挟んで、ベッドが二つ。

 1人掛けのソファや書き物をする机など、最低限の家具がいくつか置かれ、……まぁ、一般的な貴族の邸にある普通の客室だ。

 客人用だからか、廊下のように隅の方で埃が溜まってる……なんて事はなく、それなりに掃除は行き届いている様子。

 ちょっと安心した。

 エルには1人でベッドを使ってもらうとして、私はポアと一緒に寝ようかな。

 隣の部屋には、クロとジークで一つのベッドを使ってもらおう。シロは床でも問題ないし。

 うん。余裕だね。

 私は満足気に頷いてマリウスへと振り返ると、お礼を伝えた。


「十分だよ。ありがとう。子供が多いパーティーだから、ベッドが足りなくても何とかなるし」

「そう言ってもらえると助かるよ。何か要り様の物があれば、遠慮なく言ってくれ。可能な限り対応させてもらおう」

「ふふ。では、泊めてもらう身で厚かましいのだけれど、隣の1人部屋の方に、シロの寝床を作ってもらってもいいかな?床に毛布を敷くとかで構わないんだけど……」

「その程度、お安い御用だ。……ルイーゼ、頼んだよ」

「畏まりました。後程、御用意させて頂きます」


 静かに頭を下げるルイーゼ。

 これで、シロの寝床も完璧だ。


「それじゃ、僕はこれで失礼するね。仕事がまだ残っているもので。話はまた昼食の時にさせてもらおう」

「忙しい中、すまなかったね。色々ありがとう」


 私達は、手をひらひらと軽く振りながら去っていくマリウスの背中を見届けて、部屋の奥へと入って行く。

 そろそろ野宿も飽きてきた頃だったし、このインターバルは正直有難い。

 貴族生活に戻ったみたいで、ちょっと懐かしいし。


「昼食の御用意が整い次第、お声を掛けさせて頂きます。それまでどうぞ、お寛ぎ下さいませ。御用の際は、いつでもお申し付け下さい」

「ありがとう。昼食、楽しみにしているよ」


 ルイーゼは相変わらずの無表情で深々と頭を下げた後、踵を返して扉へと歩を進める。

 ドアノブに手を掛けて扉を開け、部屋を出るその刹那、……ボソリと、彼女はこちらを流し見ながら呟いた。


「――帰るか死ぬか。御忠告、申し上げましたからね」


 それだけ言って、目を瞬く間もなく、ルイーゼは扉の奥へと姿を消した。





「……ヤバいわよ、レオ。絶対ヤバいわよ」

「まぁまぁ。落ち着きなって」


 ルイーゼが部屋を出て直ぐ。

 自身の肩を抱きながら、エルが青い顔で「ヤバイ。ヤバいわ」を繰り返す。


「とりあえず、部屋割りを発表するね。私とスーちゃん、エルとポアがこの部屋で、クロとシロとジークが隣の部屋だ。男女で別れられて丁度いいね?何か質問がある人はいるかな」

「おい!!」

「はい、ジーク。何だろうか」


 元気よく手を挙げてくれたジーク君。

 「お嬢と一緒の部屋じゃ、ない……」という、悲痛に満ちた顔で呟くクロを無視しつつ、ジークへと視線を向ける。


「隣はベッドが一つしかないんだろう?こいつも床で寝るのか?」

「え……」


 クロを親指で指しながら、ジークは悪びれる様子もなく小首を傾げた。

 ……そうか。ジークの頭には、クロと一緒に寝るという選択肢はないのか。

 自分が幼児だという自覚はあるんだろうか……。


「ジークには、クロと一緒のベッドで寝てもらおうと思ってたんだけど、嫌かい?」

「な……っ!?ふざけるな!!」


 だそうです。

 更に、ジークはこう仰る。


「こんな薄汚いボロ小屋に泊まってやるのだぞ!?その上、下等な人間と同室であるどころか、ベッドまで同じだなどと……!!豚小屋で豚と密着しながら寝ろと言っている様なものだぞ!!」


 だそうです。

 竜車では問題なく寝ていたというのに、ジークの基準がよく分からん。

 うーん……。どうしようかなぁ?

 クロとシロもこっちの部屋に移すか?


「それじゃあ、ジークは隣の部屋を一人で使っていいよ?こちらは、エルとクロのベッドに、私とポアが潜り込む形で寝るとするよ。シロの寝床も、こちらに変更してもらうように、後でルイーゼに話しておくね」

「やった!お嬢と一緒の部屋!」

「ふふ。ベッドがちょっと狭くなるけど、エルもクロも我慢してね?」

「もちろんよ!!レオは、その、……どっちのベッドで寝るの?良ければ、私のベッドに……」


 部屋割が決定し、わいのわいのと盛り上がる。

 エルが1人もじもじしているが、トイレでも我慢しているのだろうか?

 そういえば、まだトイレの場所聞いてなかったなぁ……。


「お、おい」

「ん?」


 トイレとお風呂の場所、後でルイーゼに聞かなきゃなと頭の中にメモしながら、ジークの声に振り返る。

 ジークは何故か、俯いて肩を震わせていた。

 どうかしたのだろうか?


「し、仕方がないから、同室は許可してやってもいいぞ」

「え?別にもういいよ?ジークは隣で、私達はこの部屋。みんなも納得しているし、ジークは気にせず隣を使いなよ」

「……レ、レオだったら、俺様と一緒に寝てもいいんだぞ?貴様は人間にしては強いからな」

「ふふ。高評価で嬉しいけれど、遠慮しておくよ。折角の1人部屋なんだから、ジーク1人で寛ぐといい」

「だ、だが……」


 口籠るジーク。

 自分だけで部屋を使う事に、流石に罪悪感でも疼いたのだろうか。

 竜車と比べれば断然広いから、私達はこの部屋だけでも本当に構わないのだけど……。

 結構、優しいとこあるんだね!

 私はにっこりと笑みを浮かべながら、「気を遣ってくれてありがとう。優しいんだね?でも、本当に大丈夫だから!」とジークの肩をポンッと叩いた。


「さて、この話はもう終わりだ。嵐で外にも出られないから、ここは素直に食っちゃ寝生活を楽しませてもらおうか」


 パンパン!と手を叩き、話を打ち切る。

 それからベッドにダイブして、影から取り出した本を広げた。

 そんな私の様子を見てか、エルも漸く安心した様にマントを脱ぐと、ベッドに腰かけて寛ぎ出す。

 シロは睡眠を再開し、クロとポアは窓から荒れる天候を見つめながら、「お嬢お嬢!雷スゲェ!!」「ひゃぁ!雨もスゴイですぅ!!」とテンションが上がっていた。


「ふふふ。窓は開けないでくれよ?」


 全く、嵐になるとやたら元気になるお年頃か。

 私は横目でクロ達を一瞥し、苦笑する。

 ……ん?


「おや。ジークは隣の部屋に行かなくていいの?どんな部屋か、見に行くだけでもしてきたら?ここは人数多いし、騒がしいだろう?今日も人間の餌で申し訳ないけれど、昼食までまだ少し時間もあるし、ゆっくり寛いできなよ」

「……!!」


 所在無さげに1人立ち尽くし、先程よりも酷く肩を震わせていたジーク。

 自分の部屋に行きたいが、勝手に離れていいのか判断に困っていたのだろう。

 気付かなくてごめんね?

 私は申し訳なさそうな顔で微笑みながら、部屋の出入り口となる扉の方を目差しした。


「……バ」

「バ?」

「――バーカバーカ!!狭いから部屋に入れてくれと言われても、もう誰も入れてやらないんだからな!!バーーカッ!!」


 突然大きく顔を上げて口を開いたかと思えば、怒声と共に部屋から飛び出していった。

 ちょっと涙目だった気がする。


「……いじめ過ぎたかな」

「やっぱり態とだったのね、レオ……」


 エルが悲しそうな笑みを浮かべながら、哀愁漂う視線で見つめてきた。

 さぁ、何のことでしょう?




*******


 それから、1時間と少し。

 軽快なリズムを刻みながら扉が鳴ったかと思えば、ルイーゼの「失礼致します」という声が響いた。

 慌ててマントを羽織ろうとするエルとクロに、マントはもういいよと苦笑しながら伝える。

 ずっと素顔を隠しているのも疲れるだろうしね。

 何より、泊めてもらう以上、顔は見せられませんでは失礼だ。

 エルの種族はもうバレてるし、亜人のポアにも偏見は無さそうだった。

 他種族に寛容な様だし、クロの赤い目についても、生まれつきだとでも言えば誤魔化せるだろう。

 今は、ジークが魔王軍幹部の1人であるとバレる方がヤバイ。

 最近じゃ、ジークの存在が大きすぎて、クロの秘密が霞んでいる。

 喰種なんて隠す程の秘密でも無くない?とか思い始めている。

 クロの種族がバレて騒ぎになっても、「こいつ魔王軍幹部です!」ってジークを生贄に差し出せば、喰種騒ぎなど一瞬で忘れ去られる事だろう。

 ……あ。それいいな。スファニドの喰種事件みたいに面倒な事になったら、その手を使おう。

 うんうん、と頷いていると、扉が静かに開いて、ルイーゼが頭を垂れた。


「お寛ぎのところ、申し訳御座いません。昼食の準備が整いましたので、御案内致します」


 お、待ってました!

 久々に貴族の食事かぁ。わくわく。

 この頃は、自分で作った庶民派な手料理ばっかりだったから、ちょっと楽しみ。

 私達はぞろぞろとルイーゼの許へと集合すると、彼女が動くのを待った。

 人数を数えているのか、暫し私達の顔を目で一巡するルイーゼ。

 顔が露わになっているクロを見た時、一瞬目が見開いていたが、また直ぐに無表情へと戻り、人数の確認を再開する。

 そして、それを二巡程繰り返した後、ルイーゼは怪訝そうに眉を小さく顰めて口を開いた。


「一人、足りませんね?」

「ん?ジークなら、隣の部屋じゃないかな?」

「隣は既に確認済みです。誰もおりませんでした」

「……あれ。じゃあ、トイレかな?」


 でも、トイレの場所とか知らないよね……。

 邸内で迷子になってないといいけど。


「はぁ……。分かりました。後程、邸内を探して参ります。貴方方は、一先ず食堂へ。マリウス様もお待ちですので」

「すまないね。迷惑を掛ける」


 無表情でも伝わる、苦々し気な溜息。

 私は乾いた笑いを零すと、我関せずと外を見つめた。

 今頃何してるのかな、ジーク……。

 イタズラとかしてないといいけど。

 魔王軍幹部のイタズラとか、洒落になってなさそうで笑えない。

 



 ――その後、ルイーゼに案内された先で、マリウスと一緒に食事をする事暫く。

 食堂の扉が勢いよく開いて、ジークが御機嫌な様子で登場。

 私の魔力でも辿って来たのだろう。

 機嫌も直ったようだし、何事もなくて良かった良かった。

 ほっと、胸を撫で下ろした……のも束の間。

 自慢気に鼻を高くするジークの様子を見て、安堵は直ぐに懸念へと変わっていった。


「聞いて驚け、下等生物共!!俺様は、凄いものを見つけたぞ!!」

「……何故だろう。嫌な予感しかしない」

「私もよ、レオ……」


 そして、その予感は見事に的中。

 ジークが物凄い爆弾を投下してきた。


「――この邸の地下、人間の死体がゴロゴロだ!!ゴロゴロのバラバラだぞ?あははははっ!!」


 ……マリウスの笑みが、凍り付く。

 丁度タイミングよく戻ってきてしまったルイーゼもまた、ジークの背後で目を見開いて固まっていた。


「滞在2時間ちょいで秘密暴いてんなよ……」


 私は額を押さえて項垂れると、深く長く、吐息を吐いた。



明日も更新します。

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