コスプレイヤー
(さて彼のサークルはどんな感じかな?確かこの辺のはずだが・・・)
何故か見つからない。
もう一度、周辺を見回ってみるが、彼の姿が見つからない。
(あれ?合ってるよな・・・。)
もう一度カタログで場所を確認すると、今までは絶対にありえない光景が見えた。
なんと彼のサークルブースに人だかりが出来ていたのだ。
(どういう事だ?)
人波に入っていくと、彼の姿・・・ではなくコスプレした女性の姿が見えた。
「西方」の主人公の一人である「幽夢」のコスプレである。
彼女はキャラの巫女姿を完璧に表現していた。
艶やかな黒い髪に赤いリボン、白と赤を基調としたスカート風の巫女服・・・顔立ちも化粧?でキャラの顔立ちを再現している・・・流石と言うほかない。
人だかりが出来るのも納得である。
「新刊お買い上げありがとうございます。」
彼女は笑顔で同人誌を売っていた・・・俺のよく知っている「金の豚」の4コマ漫画だ。
その隣には俺のよく知った顔・・・ダルダルTシャツの作家が座っていた。
(売り子を、雇ったのか?)
「完売しました!ありがとうございました!」
俺が驚いている間に完売してしまったらしい。
周囲からは温かい拍手が送られる。
「これからもよろしくお願いします!」
最後の挨拶と共にサークルの名刺を配り、アフターフォローも完璧だ。
俺はその人込みがなくなるまでボンヤリと見ていた。
その間もコスプレイヤーと作家は親しげに何か話していた。
たまにボディタッチも入り、楽しそうだった。
(どうゆう事だ・・・売り子・・・にしては距離が近すぎる。まさか彼女なのか?)
俺は彼女いない=生きてきた年数の男である。
真実はどうかわからないとしても、どす黒い感情を抑えられない。
(俺は女性とは全く縁がないのに・・・あんな小汚い恰好をした男にはあんな綺麗な子が・・・)
ハッキリ言ってショックだった。
しかし彼らには彼らのコミュニティがあり、その中で出会いがあるのだろう・・・俺と違って。
「すみませんお客様。」
「えっ・・・あっ!」
俺はあまりのショックにサークルブースの前で立ち尽くしていたらしい。
目の前のコスプレイヤーが心配そうな顔で見つめていた。
「ああ、すみません。邪魔でしたよね・・・すぐに移動します。」
「ではこれを・・」
そう言って渡して来たのは、今回の新作本だった。
「えっ・・・完売だったのでは?」
「いつも来てくれるので、お受け取り下さい。」
(覚えてくれていた?いや彼女とは初対面だ・・・という事は・・・作家から聞いていた?)
たしかに俺は顔を隠しているが、イベントに行くときは同じ格好をしていたので、体系と雰囲気を照らし合わせれば気付いてもおかしくはない。
ただ、彼女が知っているという事は・・・作家と彼女は深い仲の可能性が高い。
(同士や女友達の線もあるか・・・いや、不毛な思考はやめよう。)
「あ・・・ありがとうございます。ではお金を・・・」
「いえいえ、これは差し上げます。」
「と・・いう事は無料?」
「もちろんです。」
俺は作家の方を見ると、ウンウンと大きくうなずいている。
さすがに無料は・・・とも思ったが、同人仲間では無料で配るのは結構あるとは聞いた事がある。
ここは受け取るのが礼儀なのかもしれない。
「ありがとうございます。」
「また来てくださいね。」
彼女は笑顔で答えてくれた。
コスプレイヤーはあまり好きではないが、彼女は魅力的だった。
熱中する人の気持ちがわかった気がした。
俺は離れて、遠くからそっと彼らを観察した。
まだ何か親し気に話している。
(楽しそうだな。俺は彼らを下に見て優越感を持っていたが、何もない俺よりリア充じゃないか。今まで買ってきた人たちもそうなのかな・・・。)
それを考えると、急激に自分がみじめになってきた。
(可愛い彼女もいて、好きな事もやって・・・なんだよ。)
俺は、無気力感に襲われながら・・・その場を後にした。




