同人即売会
「こういう所は落ち着くなあ・・・」
地元で大きめの同人即売会に来ていた。
同人即売会とは、基本アマチュアが自分で作った本(同人誌)をその場で販売するイベントである。
今回は「西方」というゲームの即売会で、同人誌以外にもゲームや音楽、グッズなど色々と販売していた。
俺は帽子とマスクで顔を隠し、キャラTシャツを着てイベントに来ていた。
キャラTシャツで歩いていると・・・おっさんになると恥ずかしい気持ちが先行して、つい顔を隠してしまう。
もちろん友達も知り合いも別にいないので、バレたところで何があるわけでは・・・いや、会社の人にバレたらさすがい気まずいかもしれない。
「さて、全体的に軽く見ていくか・・・」
目当ての同人誌をイベント前にチェックしておき、急いで売切れる前に購入する。
その後で全体的に周り、イベントを楽しむのが普通だと思うのだが・・・。
俺の楽しみ方は普通とはまるで違う。
何故なら売れっ子作家にはまるで興味がなく、売れない作家を見て回る事が楽しみだからである。
別に通好みというわけではない。
売れない作家の同人誌を購入した時の喜ぶ顔を見るのが楽しみだからである。
「よし、全体的に見たな。気になったのはこことここと・・・」
気になったサークルにチェックを付けて順番に回っていく。
「これを一冊下さい。」
「え・・・あ、ありがとうございます!」
「ではこれを・・・」
「はい!ありがとうございます!」
「ください。」
「あ・・ああ、ありがとうございます!」
購入した作家たちは、みんな驚きながらも感謝してくれる。
(これだよ、これ・・・これが気持ちいいんだよ・・・俺はこのためにきてるんだよ・・・)
俺は仕事では怒られてばかりだし、家族からも嫌がられている。
最近は店員すら冷たく感じる。
だからこそ、感謝される事がとてつもなく嬉しいのだ。
それに支援してやってる感があり、優越感に浸れる。(たった一冊しか購入してないけど)
要は単なるエゴである。
(じゃあ締めはいつも購入しているサークルに行くか。)
実は俺が目をかけているサークルがある。
内容は即売会に合わせたキャラで、時事ネタを盛り込んだ四コマでそこそこ面白い。
いつも地元の何かしらの同人即売会に行くとたいていは出展しており、やる気は凄いのだが・・・
(売れているところは見たことがないんだよなあ・・・っと着いたな。)
「サークル:金の豚」
凄く儲けられそうな名前であるが・・・思った通り誰も周りにいない。
目の前には長机に何の装飾もなく同人誌を積み、ボンヤリと座っている作家の姿だけであった。
そして、彼はいつものように帽子とメガネとマスクをつけて顔を隠し、灰色で大きめのヨレヨレTシャツとズボン姿である。
近寄るだけで臭そうである。
ある意味、作品だけで勝負するカッコいいスタイルと言えるかもしれないが、まず近づく事を敬遠するだろう。
(相変わらずだなあ・・・もうちょっと綺麗な恰好をして、机に装飾をするなどの工夫をすればもう少し人がくるだろうに・・・)
ただ、俺はそのストイックな姿に何か感動を覚えてしまう。
まあ・・・間違っているけど・・・。
臆することなく俺は彼に近づき声をかける。
「これ新刊かい?」
「・・・・・・・」
彼は何かボソボソと呟いて頷いた。
「一冊もらえるかい。」
「・・・・・・」
一冊500円と書かれているポップを指さして、またボソボソと言った。
「じゃあ、貰うね。」
「・・・・・・・・」
俺が金と交換で本を持っていくと、立ってボソボソと言いながら深くお辞儀をしてくれた。
おそらくは、感謝はしてくれているようだ。
不自然なやり取りだが、いつもの事である。
(そりゃ、作品云々以前の問題だよなあ・・・そりゃ売れないよ・・・)
俺は残念だと思いながら、その場を後にした。




