表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
征服のユースティア  作者: 廃くじら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/26

第6話

「ふざけてるのか?」


侵略者ユースティアに自分のモノになれと告げられたジンの反応は至極真っ当なものだった。


しかしそれはあくまで彼から見ての話。主導権を握った勝者は常に非常識に振る舞う。


「ふざけてなどいない。貴様の腕は素晴らしいものだ。それを無為に朽ちさせるのは惜しいと言っている」

「それをふざけてると言うんだ。俺たちの土地に攻め込んでおいて、何を勝手なことを──」

「しかし貴様以外の村人は皆私に従うことを受け入れたぞ?」


揺さぶりをかけるユースティアをジンは鼻で笑った。


「はっ、選択肢を潰しておいてよく言う。まともな人間はそれを受け入れたとは言わん」

「そうか?──まぁ、そうかもしれん。だがそれが分かっているのなら、貴様にも選択肢などないと分かりそうなものだがな」


揺さぶりの次は脅迫。勿論ユースティアもこんなやり方でジンが素直に従うとは考えてはいない。ただ彼がどんな反応をするのか見たいだけだ。しかし彼の反応はユースティアの予想とは異なるものだった。


「村の人たちを人質に取るつもりか?」

「──クハッ」


思わず吹き出したユースティアに顔を顰めるジン。


「……何がおかしい?」

「ククッ……いや、すまん。まさかそちらを気にするとは思っていなかったのでな。普通は自分のことを気にかけるものだがその反応、よほど命が惜しくないと見える。いやあるいは──」


ユースティアは笑みを納めて冷たく探るような目でジンの目の奥を見つめる。


「──この状況ですら自分の命が危ういと認識していないのか。果たして貴様はどちらだ?」

「…………」

「まあいい」


ジンの眼差しに何を読み取ったのか、ユースティアはそれ以上踏み込むことなく続けた。


「安心しろ。奴らは既に我がマケドニアの民。貴様を従わせるためにそれを人質にとるようなこすい真似はせん」

「…………」


ジンはユースティアの言葉に嘘がないことを感じとり、ほぅと小さく息を吐く。それに目ざとく気づいてユースティアは言葉を続けた。


「とは言え、貴様と村人との歪さは些か気にかかるな」

「歪さ……だと?」


心当たりがないのか、ジンはその言葉に眉を顰める。


「そうだ。そもそも何故貴様は村長(あの男)に唯々諾々と従っている? 貴様がその気になればこの村の人間を力で従わせることなど簡単だろう」

「は?」


それはジンにとって耳を疑う言葉だった。


「少なくとも貴様が力を誇示していればああもふざけた扱いを受けることはなかった筈だ。貴様はあの時、私という侵略者から奴らを守るために弓を取ったのだろう? それを守ろうとした筈の者たちから責められて、我々に身柄を引き渡された。理不尽だとは思わないのか? そんな扱いを受けて、何故貴様は黙って奴らに従っている? 捕まれば殺される可能性が高いことは貴様も理解していた筈だ。奴らに何か弱みでも握られているのか?」

「そんなんじゃない」


ジンはユースティアの疑念をキッパリと否定する。


「というか、力で従わせるってなんだ。お前ら帝国の人間は腕っぷしで上に立つ人間を決めるのか? だとしたらどんな野蛮人の集まりだよ」

「ハハッ! まさか未開地の蛮族に野蛮人呼ばわりされるとは思わなかったな」

「……っ!」


罵倒を嘲笑で返され、ジンは苛立ちに顔を歪める。しかし彼が言い返すより早く、ユースティアは薄ら笑いを浮かべて続けた。


「貴様は一体どんな頭のわいた楽園で生きてきたんだ? この世の道理を定めるのは常に強者であり勝者だ。力のある者、より優れた者が上に立つのは当然のことだろう」

「違う! 争うことしかできないお前らと一緒にするな! 力で何かを解決するなんてのは獣の理屈だ! まともな人間のやることじゃない!!」


激しく否定するジンの姿に、ユースティアは彼の瑕は此処かと直感した。


「ふむ? しかし貴様も力で我々を退け、問題を解決しようとしたではないか。それは貴様の言う獣の理屈と何が違う?」

「それは……」


ジンは痛いところを突かれた表情で目を逸らし、噛みしめるように呻く。


「……俺が間違えた」

「ほう?」

「村長が話し合いで解決しようとしてたのに、俺が邪魔をして、台無しにするところだった……だから罰を受けたんだ」

「……なるほど。まぁ、筋は通っているな」


──は。これはまた重傷だ。


ユースティアはジンの歪みに触れ、表情には出さず嘆息する。


この少年が何故村人に従っているのか、今のやり取りで凡そのところは分かった。蓋を開けてみれば珍しくもなんともない、ただの洗脳の類だ。


切っ掛けは恐らくジンという少年の頭抜けた技量を村人たちが知り脅威を感じた、といったところだろう。それは村人たちの器の小ささからきたものかもしれない。それともジンが元々余所者ということが影響しているのか、あるいはその両親が亡くなった辺りのことで後ろめたい事情があったのかもしれない。


理由はともかく村人たちはジンを頼もしい味方とは考えず潜在敵として扱った。排除は出来ない。だから教育せんのうし、支配した。ユースティアも散々見た、よくある手口だ


──恐らく村人たちが奴を飼い殺しにするため、自分たちに都合の良い倫理観を刷り込んだのだろう……全く、胸糞の悪い。


ユースティアは胸中で吐き捨てる。何が一番腹立たしいかと言えば、村人たちの行動が決して間違ってはいないところだ。


「──しかしジン。それは筋が通っているだけで何の価値もない理屈だ」

「何……?」


ユースティアは怒っていた。これだけの才能と力を、ただ間違っていないだけの矮小な器に閉じ込めようとした村人たちに。そしてそんな連中に何の疑問も持たず従っているジンに。


「話し合いで解決と言うが、私がそれに応じる保証があったか? 貴族の中には平民など同じ人間とは思って居ない連中が山ほどいる。もし私がそんな人間で、気まぐれに村人を皆殺しにしようとしていたら、貴様の暴力以外にそれを止める手段があったのか?」

「それは……」


ある筈がない。他ならぬジンがそれを理解していたからこそ、力でユースティアたちを排除しようとしていたのだ。


「だけど、人間は言葉で分かり合える生き物だって──」

「それは対等の()()()()でのみ成立する理屈だ。勿論、弱者と強者とが手を取りあうことはあるだろう。だがそれはあくまで強者の寛容の上に成り立つものでしかない。強者が語るならまだしも、弱者が語れば戯言にも劣る乞食の屁理屈だよ」

「そんな、ことは──」

「目を覚ませ」


弱弱しく反論しようとしたジンの言葉を遮り、ユースティアは真っ直ぐに彼を見つめて言った。


「無力な人間の戯言に耳を貸す者などいない。分かり合いたいと望むならまず力を示せ。叩きのめし、どちらが上かはっきりさせてから言葉(じひ)をかけてやれ。貴様にはその為の力があるのだから」

「おれ、は──」


──火事だぁっ! 山が燃えているぞぉっ!!


『!?』


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「ワーレン副司令官。包囲、完了しました」

「うむ、ご苦労」


ルマーン共和国ザザの集落がある山の斜面の麓側、山を流れる沢のほとりの台地に、武装した一団が陣取っている。


数はおよそ一〇〇。その鎧にはドルネシア軍を示す大鷲の紋章が刻まれており、彼らが単なる民兵ではない職業軍人であることを表していた。


彼らの眼前の斜面では炎が煌々と燃え盛っており、更に斜面を伝って上へ上へと勢いよく燃え広がっている。


唯一沢沿いの道だけは燃える物が少なく水気もあって火勢が弱い。火事から逃げてくる者がいるとすれば、十中八九ここを通ってくることになるだろう。


トゥール伯爵軍の副司令官であり別働隊の指揮を任されたワーレンは肌を焼く炎の余波に顔色一つ変えず、部下に指示を下した。


「煙を吸わぬよう注意しながら逃げてきた者がいれば射殺していけ。無理はせずとも良い。下手に追い詰めて逆撃を喰らっても詰まらんからな」

「ハッ! その……ルマーンの山の民が逃げてきた場合は──」

「殺せ。視界が悪い中一々区別する余裕はないし、その必要もない」

「…………」


他国の民間人を虐殺せよとの指示に、部下は咄嗟に言葉を返すことが出来なかった。


ワーレンはその若い部下にジロリと視線を向ける。


「不満か?」

「い、いえ! そのようなことは……!」


慌てて答礼する部下から視線を逸らし、ワーレンは独り言のように続ける。


「麓で見つかったマケドニア軍と思しき足跡は山峰の集落に続いていた。山の民にはマケドニア軍と結託した嫌疑がかかっている」


だから容赦する必要はない、とワーレンは言いたいのだろうが、部下の表情は晴れない。


「その……それだけでは結託したとまでは断定できないのでは? マケドニア軍が一方的に山の民を占領した可能性も──」

「仮にそうだったとして、貴様は蛮族のために我らがこの身を危険にさらす必要があると思うか?」

「それ、は……」


彼がどう思うかに関わらず、この場における権力者はワーレンであり、答えは既に決まっていた。


「何をしでかすか分からん蛮族など害獣と変わりない。丁度良い機会ではないか。マケドニアの狂犬と一緒に焼き尽くしてくれる」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ