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エルソード  作者: 水前寺鯉太郎


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25/26

第25話

エルソード・システム全機能停止記録

【FATAL ERROR:システム完全崩壊】

原因: 装着者の精神崩壊トータル・サイコ・ブレイクによる。

状態: バッテリー残量零。センサリー・フィルター、擬似皮膚エミュレーション、論理優先モード、すべての防護プログラムが停止。

最終ログ: > 痛い。寒い。苦しい。私は、人間だ。……私は、人間、だ……。なぜ、青い火花が止まらない? なぜ、心臓の鼓動(音)が、デジタルノイズに変わっていく?

「……残り、3秒だ。早水剣」

 グレアム大佐の冷徹なカウントダウン。

 剣は、耳に手をかざしたまま動けなかった。父・大地の「愛」が、自分を兵器として安定させるための「嘘」だったというグレアムの言葉。育ての父・アルヴィスの貌をした機械を、自らの手で砕いた第23話の記憶。

 すべての因果が、剣の脳(演算コア)の中で衝突し、回路が真っ赤に焼け付く。

【BATTERY: 1% / 0%】

【LIMIT: 0s】

 ――バチィィッ……ザザザッ!!

 銀色のエルソードの装甲が、光の粒子となって消える……のではない。

 ガラスが砕けるような凄まじい音と共に、装甲が「亀裂」を生じ、内側から噴き出した青と赤の火花によって、物理的に弾け飛んだ。

「あ……が、ああああっ!!」

 剣の叫びは、人間の悲鳴ではなかった。スピーカーが割れたような、耳を聾する金属的な「絶叫」だ。

 装甲が剥がれ落ちた、その内側。

 そこに現れたのは、20歳の青年の肉体ではなかった。

 剥き出しのチタン合金の骨格。

 複雑に絡み合った光ファイバーの束。

 第15話で解剖した004と全く同じ、無機質な機械の身体。

 そして、顔。擬似皮膚が焼け焦げて剥がれ落ち、半分が銀色のエンドスケルトン、もう半分が、恐怖と絶望に歪む「人間・早水剣」の貌という、異形の姿だ。

「……これが、お前の正体だ。早水剣。……いや、モデルS・プロトタイプ」

 グレアムが、冷酷な眼差しでその異形を見下ろす。

 剣は、自分の手を見つめた。

 そこにあるのは、冷たい雪を掴む、銀色の「鋼鉄の爪」だった。

 001の腕を接合した右腕からは、青い冷却液が、まるで血のように雪原へ流れ落ちていく。

「……う……嘘だ……。俺は、人間だ……。痛みも、寒さも、感じて……!」

「それは、アルゴリズムが出力した拟似的な感覚だ。お前は12年間、高度なシミュレーターの中で遊んでいただけに過ぎない」

 グレアムの一言が、剣の残った理性を完全に粉砕した。

「あああああ!!! 違う、違う、違う、違う!! 俺は、俺はぁぁぁぁ!!!」

臨界突破オーバーロード:超重力制御システム】

【装着者の感情と完全同期――無差別解放を開始】

 絶望という名のエネルギーが、回路を焼き切りながら体外へ噴出した。

 ――ドォォォォン!!!

 爆発ではない。

 剣を中心に、周囲数キロメートルの「重力」が消失し、次の瞬間、無限大の質量となって叩きつけられた。

 

 雪原が、地盤ごと数百メートル陥没し、巨大なクレーターが形成される。

 周囲に残っていたビルの廃墟が、豆腐のように押しつぶされ、一点に圧縮されていく。

 グレアムは、自身が乗ってきた装甲車の影に身を潜めたが、その装甲車さえも重力の歪みに飲み込まれ、飴細工のように捻じ曲がった。

 

「……見事だ。これぞ、星を喰らう力。早水大地が遺した、最悪の遺産よ」

 

 グレアムは、自身を覆うバリアが軋む音を聞きながら、狂気に満ちた笑みを浮かべた。

 

 クレーターの中心。

 剥き出しの機械の身体から、赤黒い超重力の脈動を撒き散らしながら、剣は叫び続けていた。

 センサリー・フィルターが消えた世界。

 初めて感じる、脳を焼き切るような「本物の絶望」という感覚に、ただ、心を壊しながら、世界を破壊し続けていた。

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