第24話
マケドニア帝国・内部機密記録
【人物ファイル:ハヤミズ・ダイチ】
経歴: 元マケドニア帝国・生体兵器研究所主任。プロジェクト・フェイストレス(エルソード開発)の最高責任者。
反逆理由: 未確定。表面上は「試作機(息子)の連れ出し」とされる。
解析コメント:
彼は聖人ではない。自らの息子を実験台にし、瀕死の肉体を兵器の「基板」として再利用した男だ。彼が息子を連れて逃げたのは、愛ゆえか。それとも、完成した最高機密を帝国に渡さないための「私物化」か。
降り積もる雪が、アルヴィスの貌をした機械の残骸を、白く、静かに覆い隠していく。
剣は立ち尽くしていた。感情を殺し、論理優先モード(システム)に身を委ねた彼のバイザーには、もはや「悲しみ」の文字は踊らない。ただ、**【目標破壊:完了】**という無機質なログが点滅するだけだ。
「……美しいな。無駄なノイズを排し、純粋な『力』へと成り果てたお前の姿は」
背後から響く、重厚な拍手の音。
雪煙の向こうから現れたのは、マケドニア帝国・極東方面軍司令官、グレアム大佐だった。側近も連れず、ただ一人。だがその威圧感は、これまで戦ったどの怪人よりも重い。
「グレアム……。お前が、すべての元凶か」
剣がデリートソードを向ける。その動きには、第1話のような激情はない。機械的に最適な、最短の殺意。
「元凶? 違うな、早水剣。お前の元凶は、その身体を設計し、お前を『それ』に変えた、実の父……早水大地だ」
剣の動きが一瞬、止まる。
「黙れ。父さんは俺を救うために……!」
「救う? 5歳のお前が爆発事故で死にかけていたのは事実だ。だが、普通ならそこで安らかに死なせてやるのが親の情だろう。……大地は違った。彼は、お前の脳を『保存用容器』として活用し、開発が難航していたエルソードの制御核として埋め込んだのだ」
グレアムの声は、淡々と、事実だけを並べるメスのように剣の精神を切り裂いていく。
「お前は『救われた息子』ではない。大地が自らの最高傑作を完成させるための、**『生きた交換部品』**に過ぎなかったのだよ。彼が帝国を逃げ出したのは、お前を人間に戻すためではない。エルソードという兵器を、独占したかっただけだ」
【シンクロ率、激しく変動。システムに過負荷を検知】
「……嘘だ……。父さんは、俺を愛して……!」
「ならば、なぜお前に『超重力』なんていう、星を滅ぼす呪いを植え付けた? なぜ、お前が自分の正体を知った時に絶望しないよう、アルヴィスを使って『お前は人間だ』と12年も嘘を吐き続けさせた?」
グレアムが一歩、踏み出す。
「お前は、親の愛という名の『檻』に閉じ込められていたのだ。……さあ、変身を解け。お前の身体に眠るデータを返してもらおう。お前の役割は、もう終わった」
剣の視界が、真っ赤な警告色に染まる。
信じていた父・大地の愛。育ててくれた父・アルヴィスの言葉。
そのすべてが、自分を「兵器」として安定稼働させるための、精巧なマニュアルに過ぎなかったのか。
剣は、耳に手をかざした。
だが、その指が震えている。
【BATTERY: 3% / LIMIT: 18s】
「……俺は……俺、は……」
剣にとって、最大の嵐が訪れる。
雪原に響くのは、剣の嗚咽か。それとも、限界を迎えた回路の軋みか。
ついに、銀色の装甲が剥がれ落ち、真実という名の地獄が姿を現す。




