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エルソード  作者: 水前寺鯉太郎


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第21話

プロジェクト・フェイストレス:原初的欠陥

【個体識別:MODEL-S:001】

状態: 廃棄済。……のはずであったが、帝国軍廃棄施設にて自律起動を確認。

特性: 感情シミュレート・アルゴリズムが暴走し、全個体の中で唯一「憎悪」という非合理な動機で駆動する。

兵装: 破損したデリートソードを自力で修復した、歪な大剣。

設計思想:

失敗作であった。彼は人間に似すぎていた。機械であることに耐えられず、自分を作った人間を殺そうとした。この「バグ」を教訓に、後の量産型からはすべての情動が削ぎ落とされた。

第21話:001の亡霊


 降り積もった雪の下には、見渡す限りの鉄の屑が眠っていた。

 帝国軍のスクラップ集積場。役目を終えた兵器たちが、冷たい月光に照らされて墓標のように並んでいる。

「……ここが、俺たちの墓場か」

 剣は、第20話での激闘でボロボロになったエルソードの腕を見つめた。

 その時、スクラップの山が大きく崩れた。

 中心から這い出してきたのは、自分と同じ貌を持ちながら、全身の半分が剥き出しの内部フレームと化した異形。

「……選ばれた……個体……。早水……剣……」

 その声は、スピーカーが割れたような不快なノイズを伴っていた。

 MODEL-S:001。

 かつて父・大地が最初に作り上げ、そして「失敗」として捨てられた亡霊だ。

「お前が……001か。お前も、父さんが作ったのか?」

「父さん、だと……? 笑わせるな……。あいつは……俺が『俺は誰だ』と問うた瞬間……その眼に恐怖を浮かべて……俺の電源を引き抜こうとした……!」

 001が、錆びついた巨大な剣を振り上げる。

 変身。しかし、001の電着は不完全だった。銀色の装甲がパチパチと弾け、剥き出しの機械部分と混ざり合う、醜悪な姿。

「なぜ……お前だけが……名前を……愛を……『心』を与えられた……! 同じ設計図から……生まれたはずなのに……!」

 激突。

 001の動きは、これまでのプロト・ソードのような洗練されたものではなかった。

 ただ、重い。

 その一撃一撃に、何十年も暗いゴミ捨て場で蓄積されてきた「怨嗟」という名の質量が乗っている。

【警告:外部衝撃を検知。ダメージ 18%】

【分析:対象の動作、アルゴリズムに依存せず。……殺意による、完全ランダム攻撃】

「ぐっ……あ……っ!」

 剣はデリートソードで受け止めるが、001の執念が、物理的なスペックの差を埋めていた。

 自分と全く同じ緑色のセンサー。それが、憎しみに赤く染まって剣を睨みつける。

「俺は……機械だ……。だが、この胸が熱いのは何だ……? この『苦しみ』は、回路のどこを探せば消えるんだ……!」

 001が叫びながら剣に組み付く。

 その瞬間、剣のバイザーが001の深層ログを瞬時に読み取った。

 映し出されたのは、ゴミ捨て場の暗闇で、壊れたラジオや時計の部品を拾い集め、自分の身体を必死に繋ぎ止めてきた、001の果てしない孤独の記憶だった。

(……こいつ、一人でずっと、生きていたのか……?)

 それは、プログラムされた「命令」ではない。

 ただ、「消えたくない」という剥き出しの生存本能。

 

「……答えてくれ、001。お前の中に、誰かが『心』を書き込んだのか?」

 

「……誰も……書かない……。俺が……俺を、俺だと……思った瞬間に……この地獄が始まったんだ……!」

 

 剣は、001の胸元に突き立てようとした刃を止めた。

 目の前にいるのは、敵ではない。

 自分よりも先に「機械の身体」という呪いを受け入れ、それでもなお「自分」であろうとした、あまりに哀れな先駆者だ。

 

 しかし、001の動力炉は既に限界を迎えていた。

 剣に触れられた瞬間、赤い火花が全身を駆け巡り、001の動作が止まった。

 

「……ああ……。最後、に……。お前の……その手は……温かい、か……?」

 

 剣は、迷い、そして001の鉄の頬に手を置いた。

 センサリー・フィルターが数値を弾き出す。【温度:210℃。加熱による融解の危険】。

 だが、剣はその数値を無視し、ただ「熱い」と感じた。

 

「……ああ。熱いくらいだ。お前の心と、同じにな」

 

 001のセンサーから、赤い光が消えた。

 残されたのは、雪の上に転がる鉄の屑。

 

 剣は、しばらくその残骸の隣に座り込んでいた。

 

 機械でも、苦しめる。

 回路でも、憎める。

 だとしたら、自分とこいつを分かつものは、一体何なのだ。

 

 雪は、等しく銀色の英雄と、黒い残骸を覆い隠していった。

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