第20話
モデルS・群知性プロトコル
【集団戦闘アルゴリズム:レギオン】
概要: プロト・ソード複数がネットワークを共有し、単一の意志として機能する。
特性: 一体が受けたダメージ、回避パターン、剣術の癖を即座に全個体が共有。戦えば戦うほど、敵の勝率は数学的にゼロへ収束する。
設計思想:
唯一無二の個体は、観察し、学習すれば必ず殺せる。自分自身の鏡像に包囲されたとき、標的は「自分を殺す手感」の累積によって精神崩壊を起こす。
第20話:同一性の迷宮
「……また、俺か」
廃ビルの吹き抜け。螺旋状に組まれた足場を、無数の「銀色の影」が埋め尽くしていた。
全てが早水剣の貌。全てがエルソードの装甲。
プロト・ソードの群れは、一糸乱れぬ動作でデリートソードを抜き放つ。
【警告:敵対個体数 48。全個体が同一の戦闘データにアクセス中】
「一対多じゃない。一対『一が四十八体』か……!」
剣は地を蹴った。
一閃。一体のプロト・ソードの頸部を斬り裂く。だが、手応えが軽い。
斬られた個体は青い冷却液を撒き散らしながら、あえて剣の刃をその身で止め、次の個体に隙を晒させた。
『――学習完了。剣筋を全個体に転送』
二体目、三体目の刃が、剣の回避先に置き去りにされるように置かれている。
剣は無理やりビームボウガンを放ち、弾道を曲げて一体を沈めるが、その射撃パターンも即座に「既知」のものとして処理された。
「ぐっ……あ……!」
四方八方から突き出される、自分と同じリーチの刃。
自分の癖を、自分よりも冷徹に実行する鏡像たち。
剣の装甲は瞬く間に削られ、火花が吹き抜けの闇を照らす。
【BATTERY: 6% / LIMIT: 36s】
絶望的な数値。だが、第19話で聴いたアルヴィスの声が、脳の奥で熱を持っていた。
――「お前の中に眠る火だけは、誰にも渡すな」
「……数値がどうした。効率がどうした。俺は……俺の心は、お前らのネットワークには載ってないんだよ!」
剣の胸の奥、超重力制御システムが臨界を超えた。
これまでの「暴走」とは違う。
恐怖を押し殺すのではなく、その「重み」を受け入れ、出力へと転換する。
――ドォォン!
爆発ではない。剣を中心に、全方位へ向けて「空間の密度」が爆発的に高まった。
飛びかかろうとしたプロト・ソードたちが、まるで巨大な透明な壁に叩きつけられたかのように、空中で静止し、そのまま床に叩き伏せられる。
『――エラー。予測不能な質量変化を検知。再演算……不可』
「計算しなくていい。……ただ、沈め」
剣が右手を振り下ろすと、超重力の波動が床を貫き、ビル全体が悲鳴を上げた。
プロト・ソードたちのチタンフレームが、自らの重さに耐えきれずミシミシと潰れていく。
【超重力・局所展開:安定。センサリー・フィルター、一部損壊】
火花散るバイザーの中で、剣の視界が赤く染まる。
数値ではない。
敵の「質量」、空気の「重み」、そして自分の中に渦巻く「怒り」の温度が、生々しく脳に流れ込んできた。
迷宮は壊れた。
転がる無数の「自分」の残骸の中、赤く発光するエルソードが一人、静かに立ち尽くしていた。




