表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルソード  作者: 水前寺鯉太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/27

第19話

エルソード・深層同期ログ

【領域「L」:第2階層アクセス許可】

状況: 装着者が「自己の存在」を強く肯定したことにより、封印プログラムが一部損壊。第2の音声ファイルが自動展開。

同期率: 92%(危険域。精神と回路の境界が消失しつつある)

設計思想: > 嘘は時として薬になる。だが、薬の効き目が切れたとき、患者は自分の脚で立たねばならない。真実とは、立ち上がるための杖ではなく、歩き続けるための「痛み」そのものである。

第19話:遺言の第2節


 幻影の街が消えた後、残されたのは静寂と、アンテナから噴き出す青い火花だけだった。

 剣は、アンテナの残骸に背を預け、荒い呼吸を繰り返す。

 変身は解けている。だが、耳の奥ではエルソードの駆動音が止まらない。いや、それは回路の音ではなく、彼の脳に直接響く「記憶の波」だった。

【深層メモリ:第2節の再生を開始します】

『――剣。……第2の断片を聴いているということは、お前は「檻」を壊そうとしたのだな』

 アルヴィスの声が、今度はノイズなしに、驚くほどクリアに響く。

 剣の視界が歪み、かつて父・大地に連れられ、瀕死の状態でアルヴィスの元へ運ばれた5歳の頃の映像が、オーバーレイ(重畳)される。

『お前は、自分が機械に変えられたことを恨んでいるかもしれない。センサリー・フィルターが、お前の「人間としての感覚」を奪っていると……そう思っているだろう』

「……当たり前だ。俺は、匂いも、温度も、痛みも……あの日から、まともに感じられないんだぞ!」

 虚空に向かって叫ぶ剣。しかし、録音された声は、その嘆きを予見していたかのように、優しく、そして冷徹に続けた。

『逆だ、剣。あのフィルターは、奪うためではなく……お前を守るためにある』

「……守る?」

『お前の中に眠る「超重力」……あれは、生身の脳が耐えられる負荷を遥かに超えている。もし、お前が本物の「痛み」を感じ、本物の「怒り」に身を任せれば、そのエネルギーの奔流でお前の精神は一瞬で焼き切れるだろう。……だから大地は、お前の感情を「数値」に置き換えた。お前が絶望で壊れないように、感覚を「冷やした」のだ』

 剣は、自分の両手を見つめた。

 震えている。その震えすら、システムが「震え(振動)」というデータとして抑制しようとしている。

『エルソードは盾ではない。お前の「魂」が、その強すぎる力に飲み込まれて消えないようにするための、冷却装置なのだ。……だが剣、いつかお前がその力と共鳴し、自分の意志で「自分」を定義できたとき……フィルターはその役目を終える。そのとき、お前は……』

 ザッ、と再びノイズが走る。

『――お前は……ただの「早水剣」ではなく……新たな種族の……』

【シンクロ率、低下。接続維持に失敗しました】

「……新たな、種族? 父さん、何なんだ、それは!」

 答えは戻ってこない。

 だが、剣の中にあった「スーツへの憎しみ」が、奇妙な色を変え始めていた。

 自分が「不便な機械」だと思っていたものは、実は父たちが自分を生かすために必死に作り上げた「ゆりかご」だったのか。

 その時、アンテナの影から、無数の「緑色の瞳」が現れた。

 自分と同じ貌。

 自分と同じ骨格。

 だが、その瞳には光がなく、ただの殺戮機械として完成された「モデルS」の量産型、プロト・ソードの軍団だ。

『標的を確認。シンクロ率の異常を検知。これより「共食い(カニバリズム)」を開始する』

「……ゆりかごの中に、閉じこもっている時間はなさそうだな」

 剣は立ち上がった。

 父が自分を「冷やして」守ろうとしたのなら。

 今、この胸で燃え上がっている「熱」こそが、檻を壊す鍵になる。

 ――バチィィッ。

 その光は、かつてないほど強く、そして、少しだけ「赤み」を帯びていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ