第17話
まえがき:エルソード・システムログ
【システム警告:シンクロ波形の異常】
状態: 装着者の情動不安定により、出力グラフが予測不能なスパイクを記録。
エラー内容: 恐怖、怒り、悲しみが混濁し、戦闘アルゴリズムと衝突。通常であれば「機能不全」に陥るレベルのノイズ。
設計思想: > 演算は0か1だ。だが、人間の心は0と1の間に無限の階調を持つ。その「揺らぎ」が戦場に持ち込まれたとき、機械はそれを単なる『エラー』として切り捨てる。しかし、切り捨てられた端数にこそ、勝利の鍵が隠されている。
第17話:エラー・ログの反撃
「……終わりだ、早水剣。お前の演算は、すべて読み切っている」
ダークソードが放つ漆黒の刃、リバースソードが剣の首筋を撫でた。
銀色の装甲は各所が凹み、火花を散らしている。
【BATTERY: 12% / LIMIT: 72s】
【ダメージ:48%。左腕部駆動系、出力50%に低下】
バイザーの内側で、死への秒読みが刻まれる。
ダークソードの動きには一切の「揺らぎ」がない。剣が右に動けば、その0.001秒前には既に黒い刃が先回りしている。自分と同じ思考回路を持ち、かつ「感情」という不純物を排した相手に対し、剣の勝率は、システムによれば零に等しかった。
『なぜ、死なない? その損壊率ならば、活動停止が最適解だ。早水剣、お前を動かしているものは何だ』
ダークソードの無機質な問い。
剣は、血の混じった唾を吐き捨てた。
「……何、だと? 教えてやるよ。お前の……そのクソ真面目な回路には一生かかっても理解できない……『往生際の悪さ』ってやつだ!」
剣は、右腰のビームボウガンを抜いた。
だが、狙ったのはダークソードではない。
自分自身の「足元」だ。
――ドォォォン!!
光の矢が地上のガソリン缶を爆発させ、農具小屋が炎に包まれる。
爆風で吹き飛ばされる二人。
『不合理だ。自身を爆辞に巻き込むのは、勝利条件に含まれない』
ダークソードが炎の中から冷静に立ち上がる。
だが、剣はその隙を見逃さなかった。
彼はデリートソードのプラズマを最大まで引き上げた。通常、バッテリー残量10%を切った状態では「緊急停止」がかかるはずの禁じ手だ。
【警告:バッテリー残量、臨界。強制シャットダウンまで残り 10秒】
「シャットダウンを……拒絶する!」
剣は叫んだ。
脳内で、父アルヴィスとの記憶、石を投げられた痛み、見捨てた男の顔、すべてが混沌としたエネルギーとなって、エルソードの回路に叩きつけられる。
システムが「不可能」と弾き出した数値を、執念が上書きする。
エルソードの装甲から、銀色ではない、激しい**「赤」**の閃光が噴き出した。
「おおおおお!」
剣は、防御を一切捨てて突進した。
ダークソードがリバースソードを突き出す。本来なら、剣はそれを避けてから反撃すべきだ。それが「最適」だからだ。
だが、剣は避けない。
あえて黒い刃を自分の肩で受け止め、肉を切らせて、ダークソードの懐に飛び込んだ。
『――計算外。ダメージ許容範囲を……超越……!?』
ダークソードのバイザーが、初めて激しく点滅した。
至近距離。剣は、プラズマを纏った右拳を、ダークソードの「顔」――自分と同じ貌をしたバイザーへ叩き込んだ。
バキンッ!!
五感のすべてを込めた一撃が、ダークソードの演算コアを粉砕する。
漆黒の戦士が、崩れるように雪の上に膝をついた。
【SYSTEM DOWN / 変身解除】
剣の装甲も同時に霧散した。
極寒の風が、生身の皮膚を刺す。
目の前で、ダークソードのバイザーが砕け、その下の「貌」が露出していた。
やはり、自分と同じ貌。
だが、機能停止したその表情には、何の感慨も残っていない。ただの「壊れた部品」だ。
「……お前には……この、腕の重みはわからなかっただろうな」
剣は、震える手で自分の腕を抱きしめた。
痛い。寒い。苦しい。
だが、その「エラー」があるからこそ、俺はまだ、止まっていない。




