第16話
マケドニア帝国・近接殲滅仕様書
【個体識別:ダークソード】
種別: 殺戮人造人間(キング階級・ダークマスク直属)
ベース: モデルS(早水剣と同一の規格)
兵装:
リバースソード: デリートソードのプラズマを「負のエネルギー(重力干渉)」へと反転させた黒刃。
設計思想:
「心」というバグを完全に消去し、戦闘アルゴリズムのみを限界まで最適化した個体。同じ貌、同じ声を持つ者が、躊躇なく自分を殺しに来る――その絶望こそが、標的の精神を崩壊させる最大の武器となる。
第16話:偽りの心、真実の鋼
農具小屋の中、青い冷却液の匂いが充満していた。
剣は、解体された004の残骸を前に、汚れきった自分の手を見つめていた。
「俺は、こいつと同じなんだ……。回路が燃えれば、ただのゴミになる機械なんだ」
その自嘲を、冷たい風が切り裂いた。
小屋の扉が、凄まじい衝撃と共に吹き飛ぶ。雪煙の中から歩み寄るのは、漆黒の装甲に身を包んだ「自分」だった。
「――同期を確認。対象:早水剣。……廃棄処分を開始する」
声まで同じだった。だが、そこには第1話から剣を苦しめてきた「迷い」も「悲しみ」も一切含まれていない。
**ダークマスター(ダークマスク)**の忠実な部下、ダークソード。
「お前も……俺と同じ顔をしているのか」
剣は立ち上がり、耳に手をかざした。
――バチィィッ!
銀色の装甲が身体を包む。だが、今の剣には「無敵」の充足感はない。この装甲が、自分を人間から遠ざける「檻」にしか感じられないからだ。
『迷いは処理効率を著しく低下させる。お前は失敗作だ』
ダークソードが抜いたのは、光を吸い込むような漆黒の刃、リバースソード。
激突。
銀と黒。同じ貌、同じスペックを持つ二つの剣が、火花を散らす。
【警告:外部衝撃を検知。ダメージ 12%】
【警告:精神波の乱れにより、出力が安定しません】
「黙れ! 俺は……俺はまだ、人間だ!」
剣は叫びながらデリートソードを振るう。
だが、ダークソードの動きには一切の無駄がない。剣が第8話で「論理優先モード」に強制された時のような、冷徹なまでの最適解。
『人間? その定義は、何行目のコードだ?』
ダークソードの蹴りが、剣の腹部を正確に捉える。
キック力:2t。同じ出力。だが、痛みを感じ、躊躇する剣と、ただ衝撃を「数値」として処理するダークソードでは、実戦での速度が違った。
「ぐああっ!」
吹き飛ばされた剣は、先ほど解体した004の残骸の上に叩きつけられた。
砕けた演算コアが、剣の装甲に突き刺さる。
『お前の中にある「心」は、プログラムのエラーだ。アルヴィスという老人が、壊れたおもちゃにかけた呪いに過ぎない』
ダークソードが黒い剣を振り上げる。
【LIMIT: 300s】
時間はまだある。だが、剣の心は既に折れかけていた。
目の前にいるのは、自分だ。
迷いを捨て、効率を突き詰め、父の嘘を「合理」で上書きした、完成された自分。
「……俺は、壊れているのか……?」
ダークソードの冷徹な眼差しが、バイザー越しに剣を射抜く。
救おうとした街は焼け、父は嘘を吐き、自分と同じ顔をした死体が積み上がる。
その現実に、剣の魂が「論理的限界」を迎えようとしていた。




