第15話
モデルS・内部構造仕様書
【内部機関:規格:042】
動力源: 高密度リチウムポリマー蓄電池、および補助的な大気中素粒子コンバーター。
骨格: 形状記憶チタン合金による強化フレーム。
神経系: 光ファイバー網による超高速伝達。思考回路は「擬似人格アルゴリズム」に基づき、状況に応じた「人間らしい」反応を出力する。
設計思想: > 内部を精巧にする必要はない。必要なのは、外側が「人間」に見えること、そして「兵器」として機能することだ。中身が空虚であればあるほど、その器にはいかなる命令も詰め込むことができる。
第15話:鋼の解剖学
雪原の端にある、打ち捨てられた農具小屋。
剣は、自分と同じ貌をした死体――『MODEL-S: 004』をそこに運び込み、古びた作業台の上に横たえていた。
小屋の隙間から差し込む月光が、004の青ざめた貌を照らし出す。
剣は、震える手でデリートソードのグリップを握った。刀身を光らせる必要はない。ただ、その鋭利な先端があればいい。
「……父さんが、俺を作った。アルヴィスが、俺を育てた」
自分に言い聞かせるように呟く。
だが、その貌、その体格、その皮膚の質感……すべてが、自分のそれと完璧に一致しているという事実が、言葉を虚空に霧散させる。
「俺は……これと同じなのか? 俺の中身も……こうなっているのか?」
剣は意を決し、004の胸元に剣先を立てた。
擬似皮膚を裂く。赤い血は出ない。第14話で見た通りの、粘り気のある青い冷却液が溢れ出し、剣の指を汚した。
【触覚データ:冷却液(エチレングリコール系)の粘性を検知】
【分析:対象の生命活動、完全停止。有機的な細胞反応、皆無】
脳内のシステムが、淡々と「解剖結果」を報告する。
剣はさらに深く、胸骨にあたるチタンフレームをこじ開けた。
そこには、肺も、心臓もなかった。
代わりにあったのは、規則的に並んだ黒い蓄電池、複雑に絡み合った光ファイバーの束、そして、微かに明滅を繰り返す銀色の「演算コア」だった。
「……ああ」
剣の口から、乾いた笑いが漏れた。
心臓があるべき場所には、ただの「電池」が詰まっている。
血が流れるべき場所には、ただの「信号」が走っている。
彼は自分の左胸に手を当てた。
そこには、確かに鼓動がある……と思っていた。だが、それは父・大地が組み込んだ、精巧な「擬似拍動装置」の振動に過ぎないのではないか?
剣は、004の演算コアに指を触れた。
その瞬間、彼の脳内に、自分のものではない「記憶」の断片が逆流してきた。
『――目標、ルスト市街地。燃料タンクを確認』
『――攻撃開始。……排除、排除、排除……』
第13話で街を焼いた「エルソード」の正体。
それは、この004だった。
自分の顔をした機械が、自分の名前を騙り、自分が守った人々を焼き殺した。
「……お前、だったのか」
剣は、004の首に手をかけた。死んでいると分かっていながら、その「自分と同じ顔」を壊さずにはいられなかった。
だが、その時。
004の胸の奥、演算コアの下に、さらに別の「何か」が隠されていることに気づいた。
それは、規格外の黒い金属塊。
【警告:未確認の重力源を検知】
【照合:超重力制御システム(不完全版)と推定】
004にも、あの「超重力」が組み込まれていた。
しかし、それは過負荷に耐えきれず、内部から焼き切れている。
『……お前は、鋼鉄ではない。……お前の中に眠る「火」だけは……』
第10話で聴いた父の言葉が、脳裏でリフレインする。
自分と004の違い。
それは、この「火(超重力)」を、自分が制御しているのか、それとも焼かれているのかの違いに過ぎないのか。
剣は、青い液で汚れた自分の手を見つめた。
彼は004の貌を、雪の上に落ちていたボロ布で覆った。
もう、鏡を見る必要はなかった。
自分が「怪物」であるという真実を、その手で解剖してしまったのだから。




