第14話
■ まえがき:マケドニア帝国・生体資源標準化構想
【プロジェクト・コード:フェイストレス】
目的: 兵器としての「個」の排除、および心理的攪乱の最大化。
手法: 身体能力に優れた特定の個体データ(オリジナル)を基に、外観および骨格を規格化。同一の顔を持つ「消耗品」を大量生産することで、敵対者の戦意を削ぎ、兵器の交換可能性を担保する。
設計思想: > 唯一無二の英雄など不要だ。必要なのは、誰が欠けても代わりがいる、美しく統制された「同一の恐怖」である。
第14話:残響する貌
雪は止まず、視界は白一色に染まっていた。
工業都市ルストが灰になったというニュースに打ちのめされた剣は、ふらふらとノーゼンの裏路地を歩いていた。
ふと、前方、ゴミ捨て場の影に一人の男が座り込んでいるのが見えた。
厚手のコートを纏い、力なく項垂れている。その背中は、どこか見覚えのある、言いようのない孤独を漂わせていた。
「おい……あんた。大丈夫か」
剣は、反射的に声をかけた。
第11話で石を投げられ、第12話で追放され、第13話で守った人々を死なせたと知ってもなお、彼は「誰か」を放っておけなかった。それが、彼の中に残った最後の「人間らしさ」だった。
男は答えない。
剣は、恐る恐るその男の肩に手をかけた。
「おい、聞こえるか? ここで寝ていたら凍え死ぬぞ……!」
グイ、と肩を引く。
男の身体は驚くほど軽く、糸の切れた人形のように、そのまま仰向けに雪の上へと倒れ込んだ。
「あ……」
剣の息が止まった。
雪の上に晒されたその貌は、鏡を見るまでもなく知っているものだった。
自分と同じ、少し吊り上がった眉。
自分と同じ、無骨な鼻筋。
第9話で鏡を叩き割った時、そこに映っていた「早水剣」の顔が、そこにあった。
だが、その貌には生気がない。
半分開いた瞳には、自分と同じ緑色のセンサーが埋め込まれているが、今は光を失い、曇ったガラスのようになっている。
裂けた首筋からは、赤い血ではなく、粘度の高い「青い冷却液」が漏れ出し、雪を毒々しく染めていた。
【警告:近距離に同一型番の通信プロトコルを検知】
【分析:プロト・ソード(試作04型)。機能停止を確認】
脳内に流れるシステムの声が、目の前の「死体」を冷酷に定義する。
「……何だよ、これ。プロト……試作……?」
剣は、震える手で自分自身の顔を触った。
鏡の中の自分。今、雪の上に転がっている自分。
自分は、父アルヴィスに愛されて育った、唯一無二の「早水剣」ではなかったのか。
この顔は、大地という父がくれた、世界に一つだけのアイデンティティではなかったのか。
「俺は……俺、は……」
倒れた死体のコートを剥ぎ取ると、その胸元には、無機質なシリアルナンバーが刻まれていた。
『MODEL-S: 004』
目の前の自分は、004。
ならば、自分は何番だ? 005か? 001か?
自分が感じてきた絶望も、苦しみも、この雪の上に転がっている「部品」の一つとして、あらかじめプログラムされていたものに過ぎないのではないか。
剣は、立ち上がろうとして、足に力が入らずに膝をついた。
第13話で街を焼いたのはエルソードだとニュースが報じた。
もし、その「エルソード」が自分ではなく、自分と同じ貌をした、別の「番号」だったとしたら。
吹雪の音が、冷笑のように周囲を包み込む。
雪原に横たわる、二人の「早水剣」。
一人は命を失った機械。もう一人は、魂を失いかけている機械。
その境界線が、白銀の闇に溶けて消えていった。




