第13話
マケドニア帝国・事後処理記録
【作戦名:証拠隠滅】
目的: 標的に協力した、あるいは標的が「守った」という事実を残した地域の完全消去。
手法: 標的の退去を確認後、戦略爆撃による焦土化。同時に「エルソードによる去り際の虐殺」として再編、全世界へ再配信。
設計思想: > 英雄の足跡を消す最も確実な方法は、その足跡が刻まれた「大地」ごと焼き払うことである。救われた人々を死者に変えれば、感謝の言葉が真実を語ることもない。
第13話:空白の焦土
北の国境近く。雪に埋もれた宿場町、ノーゼン。
剣は、安物の一杯のスープを前に、凍えた指先を温めていた。第12話で拾ったカビの生えたパンは、既に腹に消えている。
「……おい、見たか。今入ってきたニュースだ」
店の隅に置かれた古いモニターに、野次馬たちが集まる。
剣は無関心を装いながらも、聴覚センサーの感度を上げた。ノイズ混じりの音声が、彼の脳に突き刺さる。
『――臨時ニュースです。昨日、工業都市ルストが大規模な火災に見舞われ、壊滅しました。目撃情報によれば、街を去ったはずのテロリスト・エルソードが深夜に再来し、街の燃料タンクを破壊したとのこと……』
剣の指が、ピクリと震えた。
スプーンが、木製のテーブルにカチリと音を立てて落ちる。
「……嘘だ」
掠れた声が漏れた。
モニターには、上空から撮影されたルストの惨状が映し出されていた。昨日、彼が爆弾を抑え込み、市民に石を投げられながら守ったあの広場が、今は黒いクレーターと化している。
『犠牲者は数百名。生存者の捜索は……』
剣の脳内に、自分に石を投げた男の顔や、怯えて泣いていた少女の顔がフラッシュバックする。
彼らは、守られたのではなかったのか。
自分が身を呈して熱を呑み込み、泥を被って去ったあの「苦い勝利」は、何だったのか。
【心拍数:160bpm(異常上昇)】
【脳波:不規則。感情回路に過負荷を確認】
「……俺が、壊した……?」
違う。そんなはずはない。自分は雪原を北へ歩いていた。
だが、世界はそう言っていない。
逃げ延びたルストの住人がもしいたとしても、彼らは間違いなく「あの銀色の化け物が街を焼いた」と信じるだろう。
「おい、あんた大丈夫か? 顔色が真っ白だぜ」
店の主人が不審そうに声をかける。
剣は答えず、椅子を蹴るようにして店を飛び出した。
外は、昨日と変わらぬ冷たい雪が降っている。
守っても、死ぬ。
耐えても、焼かれる。
自分がエルソードとして存在し、誰かを救おうとするたびに、世界はその善意を逆手に取って「死」を積み上げていく。
「父さん……アルヴィス……俺は、何をすればよかったんだ……!」
雪の上に膝をつく。
エルソードの装甲は、今この瞬間も、主を護るために100%の充電を終えようとしている。
だが、その装甲の中にいる「心」を護る方法は、どこにも記されていなかった。
吹雪の向こうから、一人の「男」がゆっくりと歩いてくる。
「いい加減、認めろ。早水剣」
漆黒のコンバットスーツ。ダークマスクだ。
彼は戦いを挑む風でもなく、ただ剣の絶望を鑑賞するようにそこに立っていた。
「お前が動けば、世界が壊れる。お前という『道具』には、誰かを救う権利など、最初から与えられていないのだ」




