第11話
帝国情報統制プロトコル
【情報戦:フェイズ「C」】
目的: 標的の社会的・精神的抹殺。
手法: 虚偽の戦場記録に、真実の「犠牲者の声」を合成する。大衆に「正義の行使」という快楽を与え、標的への攻撃を誘導する。
設計思想: > 弾丸一発よりも、百通の非難の声の方が、兵器の心を確実に破壊する。物理的な盾は、他人の「憎悪」という質量を持たない攻撃を防ぐことはできない。
第11話:世界が敵になろうとも
煤煙に覆われた工業都市、ルスト。
剣は、帝国の自走爆弾ロボットが街の広場に仕掛けた「爆縮弾」を、その身を挺して抑え込んでいた。
【BATTERY: 35% / LIMIT: 210s】
【装甲表面温度:急上昇中。爆発エネルギーを内部吸収中】
銀色の装甲が真っ赤に焼け、熱波が周囲の空気を歪ませる。
「……っ、逃げろ! 早く、ここから……!」
バイザー越しに叫ぶが、広場に集まった市民たちは動かなかった。いや、彼らは逃げる代わりに、手に手に「石」や「瓦礫」を持っていた。
彼らの視線の先にあるのは、街の巨大スクリーンに映し出された捏造ニュースだ。
『――現在、テロリスト・エルソードがルスト市街地を占拠。住民を人質に、大規模爆破の準備を整えています。帝国軍は現在、彼らの暴走を阻止すべく急行中……』
「嘘だ……! 俺は、この爆弾を止めてるんだ!」
叫びは、拡声器でかき消された。
「人殺し! 帝国軍を追い出したのはお前だろう!」
「その銀色の化け物を、今すぐ停止させろ!」
ヒュッ、と風を切る音がして、何かがエルソードの頭部に当たった。
カツン、という軽い金属音。
【衝撃検知:頭部右側。圧力、微小。ダメージ 0%】
投げられたのは、道端の小石だった。
ダメージなどない。物理無敵の盾にとっては、羽毛が触れたようなものだ。
だが、その音は、剣の脳内に雷鳴のように響いた。
一人が投げれば、それは合図となった。
雨のように、石、空き缶、泥が銀色の装甲に降り注ぐ。
「やめろ……。動けないんだ、今離せば、街が……!」
剣は歯を食いしばり、爆弾のコアを抱え込み続けた。
第2話で学んだ教訓が、呪いのように脳を支配する。
――「殴れば映像になる。抵抗すれば、それが虐殺の証拠になる」
彼は無抵抗を貫いた。
飛んできた石がバイザーを汚し、泥が銀色の輝きを覆い隠していく。
救おうとしている人々に石を投げられ、呪われながら、彼はたった一人で爆弾の熱に耐え続けた。
【爆縮プロセス:強制停止。周囲への被害、零。……作戦、成功】
シュゥゥゥ……と白煙を上げ、爆弾が沈黙した。
剣が膝をつき、肩を落としたその瞬間。
「今だ! やっちまえ!」
一人の男が棍棒を振り上げ、剣の背中に叩きつけた。
【衝撃検知:背面部。ダメージ 0%】
効いていない。何も痛くない。
だが、剣はそのまま動けなかった。
エルソードの装甲は無傷でも、その内側にある「早水剣」という魂が、修復不能なほどに砕けていた。
「……俺は……」
彼は人々の怒号の中、泥だらけの姿で立ち上がった。
反撃もしない。釈明もしない。
ただ、自分を汚した泥の重みだけを感じながら、彼はゆっくりと広場を去った。
背後から飛んでくる罵声は、もはや「数値」としてすら処理できなかった。
世界が敵になろうとも。
父が遺した「嘘」の答えが何であっても。
彼はまだ、その鋼鉄の腕で、誰かを救わなければならない運命にいた。




