19 優しい勇者様
「コルネ……しっかりしてよ」
コルネは死にかけていた。
空欄だった魔王の部分に自分の名前を書き込み、自ら殺される事でその呪いを解いたのだ。
次第に弱っていくコルネの様子に、メルは必死になって揺さぶって彼の名前を呼んだ。
それに応える様に、コルネは虚な瞳で確かにメルを見た。
もはや、朧げにしか認識出来ない意識の中でコルネはメルの頬にそっと手を添える。
それに応える様にメルはコルネの手を握りしめた。
「コルネが優しい勇者様だったんだ。せっかく出会えたのに……もっと一緒にお話ししたかったのに」
メルは涙を流しながら、コルネに向かってそう言った。
涙が、雨の様にコルネの頬を濡らしていく。
朧げな意識の中でコルネは思い返していた、自分が森に捨てられたあの時の事を。
その日は雨がしとしと降っていた。
コルネは体がびしょびしょに濡れていて、寒さに体を震わせながら森の中を這っていたら、目の前に誰かが急に現れた。
精一杯空に向かって顔を上げると、雨粒が頬に当たって流れてく。
『大丈夫? 君どうしたの? お父さんとお母さんは?』
その質問に、コルネは首を横に降って答えた。
『大丈夫、安心して。私が、貴方のこと絶対助けるから』
そう言うと、少女はコルネのことをおぶって歩き始める。
コルネが救われた日、初めて誰かの優しさに触れる事の出来た日だった。
「私が、コルネのこと絶対助けるから」
そう言ってメルは必死にコルネの体を起こし、自分の背中にコルネをおぶろうとしていた。
本当は肺が焼け爛れた様に苦しくて、立っているだけでも精一杯だというのに。
それでもメルは諦めずに、コルネのことを懸命に助けようとしていた。
コルネはメルにとって大きすぎて、背中に背負うどころか立ち上がる事さえ困難だというのに。
「もういい……ありがとう。やっぱり君は優しすぎるよ」
コルネは、朦朧とした意識の中で静かにそう言った。
もはや、目の前のメルの事さえ認識出来ないくらい、夢と現実が混濁していた。
メルはコルネの言葉を聞いていないフリをして、必死に彼を持ち上げようと、うんうん唸っている。
「あの日、君が俺のことを見殺しにしていれば。あの日、俺が森を出なければ」
コルネの口から、後悔の言葉がぽつりぽつりと口から溢れていく。
それに対して、メルは声を振り絞ってコルネの後悔を払う様に言った。
「コルネがいなかったら、私は生まれていないんだよ? ずっと苦しくて、何のために生きているのか分からない毎日だったけど、それでも私には、お父さんとお母さんと一緒に過ごした幸せな日々があったの。お母さんから、寝る前に優しい勇者様の話を聞くのが幸せだったの。コルネがいなかったら私は、そんな当たり前の幸せに気付くことすら出来なかったんだよ」
コルネはメルの言葉を聞いて、静かに涙を流していた。
朧げな意識の中で、確かにメルの言葉はコルネに届いていた。
「そうか。生きてて良かったんだ。誰かの役に立てたんだね」
コルネは心底安堵したように言った。
それを聞いて、メルは『そうだよ。だから、いつも私のことを救ってくれた優しい勇者様を、今度は私が助けるの!』と言って力強く引っ張る。
しかし、メルはついに背負いきれずその場で倒れてしまう。
メルは地面に横たわるコルネに向かって必死に声をかけた。
コルネはすでに事切れていた。
穏やかな表情で、楽しい夢でも見ているかのような優しい顔だった。
コルネに寄り添う様に、浮遊岩が彼の顔の隣に落ちている。
まるで、今までの彼の旅の終わりを見送る様に。
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