20 いつか貴方みたいになれたら
かつてアレイスト王国と呼ばれる国が有り、その隣には広い樹海が鬱蒼と広がっていた。その森を人は恐れと畏敬を込めて、魔女の森と呼んでいた。
しかし何度かこの森は焼かれ、その度にこの森に住む多くの生き物が死に絶えた。
この森を長い間守り続けていたエルフ達も、一人を残していなくなってしまった。
今日も誰かがこの森に子供を捨てていく。
千年の時が経ったというのに、今だに人減らしのために子供をここに捨てるという風習は、無くなってはいなかった。
「大丈夫? 君どうしたの? お父さんとお母さんは?」
森に捨てられ、途方に暮れ、弱っていた男の子に一人の女性が心配そうに声をかける。
男の子は黙って首を振った。
ボロボロの布切れを着た男の子はお腹が空いているのか、お腹を抱えてその場でうずくまっていた。
「お腹空いてるの? でももう大丈夫! 安心して。私が貴方のこと絶対助けるから」
およそ二十二歳くらいの、赤い髪で色白の長い耳をした綺麗な女性はそう言って、男の子をおぶって歩き出した。
「どうして?……」
男の子は不思議そうに尋ねた。
それに対して赤い髪の女性は『ん? どうしたの?』と聞き返す。
「どうして僕を……助けたの?」
男の子は、純粋に疑問に思った事を女性に尋ねた。
今まで彼を道具扱いしてきた人はいっぱいいたけど、助けてくれた人はいなかった。
それは男の子より年上の兄弟の方が、男の子よりもずっと優れているから。
家は貧乏だから毎日食べる物にも困っている生活をしていて、とてもじゃないけど家族が役立たずの自分を養っている余裕は無いと、子供ながらに男の子は知っていた。
だから男の子は自分なりに、この森へと置き去りにされる事になった状況を受け入れていた。
だからこそ、不思議に思ったのだ。この女性はどうして自分を、何の得にもならないのに助けようとするのか。
「君は、優しい勇者の話って知ってる?」
それに対して、女性は唐突に男の子に聞き返してきた。
男の子が一言『知らない』と応えると、女性は『私は優しい勇者様に救われたの』と言った。
「私も昔一人ぼっちで、ずっと寂しかったけど優しい勇者様に救われたんだ。だからね、私も困っている人がいたら助けたいの。優しい勇者様みたいに」
男の子は、赤い髪の女性の話を黙って聞いている。
女性の背中から感じる温もりに、男の子は段々と心が安らいでいく様な気がしていた。
「いつか君も、生きていて良かったって思える日がきっと来るから。辛くて悲しくても、手を差し伸べてくれる人は必ずいるって知って欲しいの。そして、いつか君も困っている誰かに手を差し伸べてくれたら、私は嬉しいな」
女性は穏やかな、優しい声で男の子にそう言った。
男の子は、返事をする代わりにゆっくりと頷く。
「お姉ちゃんの名前、なんて言うの?」
男の子の問いに、女性は一呼吸置いて答えた。
「私はメル。この森を守っているハーフエルフなの。君の名前は?」
「僕は……アル」
背中に揺られながら男の子は眠くなってしまったのか、そのまま目を閉じてメルの背中に頭を預ける。
かつて焼かれ、切り倒され、朽ちた大木の間からは、新しい草木が芽吹いていた。
夏の日差しが木々の間から差し込み、まるでメルの歩く道を照らしているようだった。
男の子をおぶっているメルの首元には、あの日コルネから貰った浮遊岩がぶら下がっている。
かつて魔女の森と呼ばれた場所は、一人のエルフを中心に多くの人々が集まっていた。
もうすでに、この森は人々が恐れる魔女の森ではなく、多くの人が助け合い、自然に寄り添って暮らす平和の森となっている。
メルがこの地に来ておよそ十年の時が経ち、彼女は立派な大人へに成長した。
魔法も、もうすでに母の杖と本を使わなくても制御出来るようになっている。
「でもまだ火の魔法は苦手なんだ」
メルは独り言をポツリとつぶやいた。
「でも、あれから私頑張ったんだよ? 今はもう一人ぼっちじゃないよ。沢山友達も出来たんだ。だからね」
メルは首元にかけた浮遊岩に向かって語り掛ける様に言った。
「私、コルネみたいになれたかな?」
メルがそう言うと、首元でゆらゆらと揺れている浮遊岩が微かに光る。
それは、周囲の光をたまたま映しただけかもしれないし、太陽の光がたまたま反射しただけかもしれない。それでもメルは、コルネが確かに返事をしてくれたように感じて嬉しくなり、思わず微笑んだ。
ここまでお読みくださり、誠にありがとうございました!
よろしければ、感想をくださればとても嬉しいです。
また、機会があれば私の作品を読んで頂けると幸いです。




