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始まりの町ベルルにて  作者: 鼻村鼻太郎
16/20

16 愛する者のために

 紆余曲折ありながら勇者となったコルネは、王様にコルクエイド・ネルスという名前を与えられ、早速魔王討伐の任務を言い渡された。


 しかし、討伐せよと命じられた魔王の名は、自分にとっての命の恩人かつ育ての親のメラトリーネと、その一族だった。


 アレイスト王は隣接する魔女の森を切り開き、自分たちの領土にしたいと常々思っていた。


 しかし、そこに住まうエルフの存在は目の上のたん瘤だった。


 つまり、アレイスト王は若くしてエルフの長になったメラトリーネと、そのエルフの一族を根絶やしにするつもりだった。



 コルネは後に、この国において魔王とは自分たちの王国にとって邪魔な存在を指し、勇者とは邪魔者を討伐するためだけの存在だということを知る。



 アレイスト王国に代々伝わる、古代の神々によって作られた契約により勇者は、神の奇跡とも呼べる加護や力を与えられた。



 しかし、同時に勇者は魔王を倒すまで死ねないという呪いも契約によって受ける羽目になる。



 コルネは迷わず裏切った。



 今までずっと、辛い勇者の試練を一緒に乗り越えてきた、かけがえの無い仲間達を。


 自分の事を慕ってくれた、可愛い後輩達を。守りたいと思ったこの国の人々を。


 誰にも認められなくていい。必要とされなくていい。


 ただ、メラトさえ生きてくれれば。


 例え、この命を差し出すことになっても構わない。


 そう思いながら、コルネは自分の生まれ育った魔女の森へと急いで向かった。


 

 しかし、一足遅かった。



 久しぶりに訪れた彼の故郷は、勇者の仲間達の手によって燃やされ、メラトリーネは無惨な姿で横たわっていた。



 コルネは天に向かって怒鳴る様に吠えた。



 そして、地に向かって呪詛を吐くかの如く叫んだ。


 『どうして、メラトが殺されなければならなかったのか』と。メラトの亡骸を抱きしめながら、自らの不甲斐なさを呪った。



 気が付くと、コルネは自分の仲間を殺していた。



 その場にいた全員を皆殺しにした。



 そして首都アリアに戻ると、兵士や王、そして側近たちを殺した。



 最後に自分を勇者と認め、勇者の契約を施し、メラトリーネを殺す様コルネに命じた司祭、コーネリウスを殺すと、コルネは魔女の森へと帰っていった。



 コルネは千年もの長きに渡り、魔女の森とまだ僅かに生き残っていたメラトリーネの一族を守り続けた。


 勇者としての奇跡や加護の力は失われてしまったが、不死の呪いだけはずっとコルネに付き纏っていた。


 ただ千年という長い時間は、彼の魂をゆっくりと摩耗していき、コルネは徐々に意識を保てなくなっていった。


 ある日、一ヶ月の間意識を失っていたコルネが目を覚ますと、自分が守り続けていた森が燃やされ、灰になっていた。


 そして、自分が千年間、命懸けで守り続けた最後の生き残りのエルフ達も皆殺しにされていた。


 コルネは疲れ果て、生きる気力も希望も目的も何もかも失い、地面に打ち捨てられていた剣で自らの心臓を突き刺した。


 しかしコルネは死ねなかった。痛みが、失われつつある彼の自我を繋ぎとめ、奮い立たせる。


 自分が死ねないという事は、まだメラトの子孫は生きているという事。


 彼は、森の中でエルフを殺していった人間を追いかけ、一人の兵士を捕まえ拷問した。


 そして、その兵士が司祭コーネリウスの命令でやったと吐くと首を切り、止めを刺した。



 コーネリウスが生きている。



 奴もまた、コルネと同じく契約により不死の呪いに囚われていた。


 コルネは思った、司祭コーネリウスを見つけなくては。


 彼女の最後の子孫が奴の手によって殺される前に、俺が奴を殺すと。


 当ても無く森を彷徨うその姿は、まるで魔女の森に住まうと言われていた、化け物の様だった。









 コルネは初めてメルを見た時、こんな偶然あるはず無いと思っていた。


 しかし、今は信じている。


 彼女が、かつて自分が愛したメラトの子孫であると。


 だからこそ、今度こそ守り通す。


 二度と同じ過ちは繰り返さない。


 コルネはそう胸に誓っていた。


 燃え盛る火の中から這い出たコルネを見て、メルは呆然としている。


 アレスは、呆れた様な顔をしてコルネの方を一瞥すると、馬鹿にする様に言った。



「いくら不死身とは言え、痛覚ぐらいはあるでしょうに。まさか火で自分ごと焼いて脱出するとは、いくらなんでも馬鹿すぎる」

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