14 裏切った勇者
「無事に魔王を倒したと思いきや、ある日勇者が裏切った。自分の仲間と善良な国の兵士を皆殺しにし、その時国を納めていた王を殺し、魔王の一族を庇った。勇者の名前は石碑から消され、我々には永遠に解けない呪いがかかってしまった」
司祭はメルの方へと向き直り、穏やかな表情で淡々と言う。
「君はその魔王の一族の最後の生き残りで、ここで死ななければならない。自分の立場が分かって貰えたかな? 魔女の森を焼いた時、エルフは全て皆殺しにしたつもりだったが、一人取り逃がしていた。しかもそれが女で人間と子供を作っているとは思いも寄らなかったよ。しかし、隣町の知り合いから赤い髪のデミヒューマンの子供がこのべルルに向かってるという話を聞いて、私はこれを運命だと感じた」
司祭がアレスの名前を呼ぶと、彼は司祭の横にやって来た。
「彼は殺された王の子孫で本来、この町を含め今は亡きアレイスト王国を治める立場になるはずだった男だ。しかし、千年前の事件以来、国力が落ち隣国に吸収される形で彼の一族は失脚した。故に彼には新たな勇者になってもらい、千年前、かつての勇者が放棄した仕事を行って貰う。そして、彼が再びこの国の王として返り咲くのだ」
「そのために……ずっと私を探していた。殺すために?」
「そうだ。君は本来、生まれてはいけない存在だったのだよ。今日ここで、晴れて君は救われる。忌々しい宿命と共にね」
司祭はそう言って、祭壇に置かれた豪華な装飾のされた一本のナイフを手に取る。
メルは絶望した。
あの司祭の言っている事のどこまでが本当で、どこまでが嘘なのか。
彼女には、はっきりとは分からない。
しかし、今までこの国で生きてきて、どうして自分や自分の家族がここまで人間に嫌われているのか分からなかった。
どうして、お父さんとお母さんが逃げる様に村や町を転々としていたのか、分からなかった。
もし、あのコーネリウスとかいう司祭の言っている事が真実であるのなら、今まで理由の分からなかった事に説明がつくとメルは思った。
「その男の言葉に耳を貸すな!」
背後から聞き覚えのある声がした。
思わず振り向くと、一階に繋がる階段の入り口にコルネが立っていた。
メルは思わずコルネの名前を叫ぶ。
すると、コルネは『もう大丈夫だ』と言ってメルに駆け寄る。
次の瞬間何かがひび割れる音が辺りに響き、コルネが急に壁に叩きつけられた。
突然の事に何が起きたのか訳が分からず、メルは困惑する。
メルが振り返るとアレスが右手の掌をコルネに向かって開き、何かを唱えている姿が見えた。
「コルネ!」
メルは慌てて立ちあがろうとしたが、それをさせまいと何かがメルの両足に絡み付いて立ち上がれない。コルネとメルには、太い縄の様な物が巻き付いていて、それが体の自由を奪っていた。
「これが、勇者にのみ許された神の奇跡だ」
アレスは自信満々にそう言った。
よく見ると、コルネやメルに巻きついている縄の正体は、ひび割れた石壁の隙間から伸びてきた植物の茎や蔓だった。
アレスは、魔法によって植物を意のままに操っている。
それは、魔法を扱えるデミヒューマンのメルでさえも知らない、恐るべき魔術だった。
太い蔓がギリギリと、コルネの首を締め上げていく。
コルネはこめかみに青筋を立てながら、何とか脱出しようと必死にもがいていた。
だが、コルネの努力も虚しく身体中に巻きついた蔓が自由を奪い、首に巻きついた蔓がどんどん締まっていく。
メルは大声でアレスに向かって『やめて!』と叫んだが、それを意にも返さずアレスは笑いながら呪文を唱えていく。
「久しぶりだな、コルクエイド・ネルス」
「コーネリウスっ……!」
司祭は旧友を懐かしむ様にコルネに向かってそう呼びかけ、コルネは首を締められながらも、無理矢理絞り出す様に司祭の名前を口にした。
「司祭様、この男はどうされますか?」
アレスは余裕綽々といった表情で司祭に尋ねると、司祭は一言『好きにしろ』と言った。
するとアレスは、にやりとほくそ笑み、コルネに対してさっきより一段と強く魔法をかける。
ギリギリと音を立てながら、コルネの首を締め上げる蔓がより太くなっていく。コルネはやっとの思いで、声を絞り出すとメルに向かって言った。
「俺に……魔法を……撃てっ!」
それに対して、メルは半泣きになりながら『そんな事出来ないよ!』と訴える様に叫んだ。
コルネは何とか意識を失うまいと踏ん張るが、それもあまり持ちそうにない。
コルネはメルに自分に魔法を打ってくれと、必死に説得する。
メルはコルネが自分の魔法で、コルネの体と首に巻きつく植物を焼いて欲しいと言っているという事は理解出来たが、杖も無く魔導書も取り上げられた今の状態で、魔法を使うことなんて出来る訳が無いと思っていた。
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