13 司祭コーネリウス
メルはアレスに杖の先を向けて威嚇するが、頭の中では彼の言っている事が正しいと感じていた。
メルは、お母さんの杖と魔導書が無ければ、まだ魔法を制御する事が出来ない。
杖は左手に持っているが、魔導書は背中に背負ったリュックの中に入ったままだ。
アレスに右手を掴まれているこの状況下では、とてもじゃないが魔法は使えない。
仮に魔法が使えたとしても自分の腕ではアレスを追い払うことが出来ない事も、メルは薄々感じている。
けれど、このままアレスのなすがままに教会の中へと連れて行かれる事だけは、何とか避けたいとメルは考えていた。近くに誰かが……コルネが隣にいてくれたのなら。
その時やめたほうがいいと言って、メルのことを引き留めようとしてくれたコルネの顔が脳裏に浮かぶ。
コルネの言葉をもっとちゃんと聞いていればと、メルは後悔して涙が零れそうになる。
「おら、とっとと来い!」
アレスはメルの右手を掴みながら、反対の手で教会の扉を開けて引きずる様に中へと引き込もうとした。
メルは必死に抵抗するも、力では敵わずジリジリと引きずられてゆく。
その時、首にかけ胸にしまっていた浮遊岩が衝撃で外に出た。
それを見てメルは思い出す。『誰かに助けて欲しい時、思いっきりそれを地面に叩きつけろ』というコルネの言葉を。
メルは左手に持っていた杖を離すと、首に掛けていた浮遊岩を掴み、思いっきり引っ張って取る。
「何のつもりだ?」
アレスはメルの不審な行動を警戒する。
メルは、左手に持った浮遊岩を思いっきり自分の足元の石畳に投げつけた。
すると、浮遊岩は衝撃で跳ね上がり、その勢いのまま空高く宙を舞う。
「貴様!」
アレスが気付いた時にはもうすでに遅く、浮遊岩は空を飛ぶように高く舞い上がっており、メルの行動に憤りを覚えたアレスは、再びメルの顔に平手打ちをした。
叩かれたメルの右頬は真っ赤に腫れ上がったが、その顔は痛みに恐怖する訳でも無く、力に屈する訳でも無く、誰かが助けに来てくれると信じているかのような、反抗と決意に満ちた表情でアレスの方を睨んでいた。
一方その頃コルネは二人の後を追い、離れた場所で二人の様子を見ていた。
すると、何かもみ合う動作の後に空に一筋の閃光が見える。それは二人が向かったあの古い教会が建っている場所だ。
「メル……!」
無意識にコルネはメルの名前を呼んでいた。
あの光は、おそらくメルにあげた浮遊岩の光。
それが見えたという事は、彼女の身に何か有ったという事だ。
コルネは胸騒ぎを覚えて、光の見えた教会の方へと一心不乱に走り出す。
この時コルネの脳裏にチラついていたある可能性が現実味を帯びてきている事に、彼自身薄々気付き始めていた。
メルは、ただのデミヒューマンのハーフでは無い。『彼女』に関係しているのでは無いかと、コルネは疑い始めていた。
コルネが急いで協会へと向かっている中、メルはアレスに無理やり協会の中へと連れられていた。
古びた建物ながら、綺麗に整備されているらしく、床は埃一つ無い。
外からの太陽光が協会のガラスを通して七色に変わり、内部を燦々と照らしている。
七色の帯状の光に照らされながらメルは、この教会をこのような形で訪れなければならなかった事に対して、非常に悲しくなった。
やがてメルはアレスに無理やり引っ張られる形で、協会の地下へと案内される。
蝋燭に照らされた階段は非常に不気味で、黒い闇がその先を覆い隠している。
メルはこれから自分が一体どんな酷い目に合うのかを、思わず想像して背筋が凍った。
そのまま二人が階段を降りきると、今度は広い空間に出た。天井には沢山の蝋燭が吊り下げられており、暗い地下の部屋を不気味に照らしている。
中央には、神に何かを捧げるための神聖な祭壇の様なものが有り、その隣に一人の男が佇んでいた。
「いや、待ちくたびれたよ。本当に」
その男はそう言って、地下にやってきた二人を歓迎した。
その男は白と赤色の鮮やかな、金の細工で縁取られた修道服を着こなし、およそ六十代から七十代に見える朗らかな印象を感じさせる穏やかな声の人。そう、司祭コーネリウスだった。
アレスは司祭に一礼すると、メルを祭壇の前に連れてきて、その前に置いてある儀式用の飾り付けのされた煌びやかな椅子に無理やり座らせる。
「貴方が司祭様?」
メルが恐る恐る尋ねると、修道服を着た男は『そう、私こそが司祭コーネリウス・トラベイト。長い間、君を探し続けていた男だよ』と言った。
メルが困惑した表情で目の前のコーネリウスと名乗る男を見ると、穏やかな声で彼は言った。
「なぜ? という顔をしているね。話せば長くなる」
そう言って、司祭はメルの前に立つとしゃがんで顔を近づけた。
「君は魔王の血を受け継ぐ、呪われた一族の最後の生き残りなのだ」
それを聞き、メルは驚愕する。そして言葉にならない叫び声を上げた。混乱しているメルを余所目に、司祭は淡々と話を続ける。
「もう千年も昔になるが、かつての勇者とその仲間達は魔王とその一族を滅ぼすために旅立ち、この地を訪れた。そして、国民の恒久的な平和の為に忌まわしい魔女の森に巣食う魔王と、その一族を根絶やしにして帰ってくるはずだった」
司祭は立ち上がり祭壇の前へと歩いていく。そして、メルを背にして話の続きをし始めた。
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