6話 (右平次)
ーー右平次ーー
三日振りに村に戻ってきた。
「右平次、ようやくに立ち帰りたるか。里長は倉におはすぞ」
村人に見つかると声を掛けられた。
「田助殿も倉に?」
「呼びて参らん。暫し待っておれ」
連れて来た馬を木に繋ぎ、里長の家に向かう。敷地の口にて田助に会った。
「おう、来たか。今呼びて参らん。中にて待っておれ」
「忝い」
倉の周りに集まった村の男達の嫌な視線を感じる。
(面白がりおって)
里長の家に入り、入口の脇にて正座して待つ。三人の足音が近づいてくる。
(いみじう腹を据えかねておるな)
「おのれ、不届き者めが!」
入ってくるなり里長の息子に押し倒され、上に跨られて殴られる。
(一つ、、、二つ目が参らぬ)
目を開けると、田助が息子の上半身を抑え込んでいる。
「よさぬか! たわけ者が!」
里長が怒鳴ったことでひとまず場が落ち着く。一度立ち上がり、土を払ってから田助と並んで座り、正面に里長と息子が座った。
「して、右平次よ、向こうにて何事のありしか申せ。田助より粗方聞き及びておるでの」
「山を下りて直に人を集め、西の天宮神社と、その一つ手前の山の口にて待ち伏せ仕りたれば、米俵を担ぎて下り来る賊を搦め捕りて候。里まで参りたれど、、、皆殺しにて候し」
「なんと惨き事を、、」
里長が息をつく。
「貴様らが役目を果たさぬればこそ、斯様な事とならんか!」
「当の里よりも深山にありて、麓の村々とも疎かりければ、治行の手ぬるかりしにこそ。十五年ばかり前より少しずつ人が移りて、ようやく年貢を納めらるるようになりたるところを、狙わるるとは」
「刀を扱うことも能わず、揃えさえも叶わねぇよ。んで、あの母子は如何すんでぇ?」
「寺に入ることになりなん。女手一つにて、元の里へ差し戻すわけには参らぬ」
「男手なら一つあるじゃねぇか」
田助が言うと三人がこっちを見る。
「そ、某は深山にて百姓などに、、、」
「そこまでは申さねぇだろうよ」
「御告げじゃろう?」
「はっはっは、御告げにこそ」
三人が笑い始めた。場が和んだところで大事なことを思い出し、居を正して頭を下げる。
「此度は拙身の一存にて、勝手なる振る舞いを仕りしこと、御詫び申し候。埋め合わせとして馬を一頭借りて参りたれば、平に御容赦下されよ」
静寂に包まれた。
「気が利きおるではないか。これならば赤子の一人なりとも、構わぬことであろうよ」
「戯れ言は、はや止さぬか。右平次や、儂はそこまで腹を据えかねてはおらぬぞ。そなたは御告げの真なりしことが、いかほどに恐ろしき弁えておるか?」
「恐ろしき木にこそあれば、、」
「はぁ、心して聞け。もしあの母子を見出だし得なんだら、山の神の逆鱗に触るることとなりておったのじゃぞ。御告げを賜りしといっぱ、神に遣わされたるにこそ。あの童を守り奉らねば、祟られも仕らん」
「祟りとはいかなるものぞ?」
「分からぬ。ただ一つ申せるは、神は人の命など、塵ほどにも意に介さぬことは真なり」
「あの母子を助け出だしたるではないか」
「何か、あるのじゃろう。神の御心に掛かる何かがの。弘法院の和尚を知っておるであろう?」
「雨降り和尚のことに?」
「三年ほど前より、御告げを賜りておるそうよ。天の中川が溢れる数日前に、’川が暴るる’と聞こえるそうじゃ」
「生臭坊主の偽りにてこそあらめ」
「耳を貸せ。今のところ違いておらぬし、むやみやたらに吹いておるわけでもなかりしぞ。この話の肝要なるは、神が荒魂の暴れ竜と化し、それを事前に伝え給うということよ。和尚のおかげをもちて、この二年は死人も出でざりけれど、何時神が御心を替え給うかは、誰にも量り知れぬ」
「心して仕らん」
(あの木の事を念じ去らんとせし故、気付かざりける)
「語らいが長うなったな。男子は傷跡が残らんずれど、果つることはなからん。母も赤子も健やかじゃ。最後の俵を運ぶに合わせ、連れて参るが良い」
礼を言い、田助と家を出ると里長の息子もついてきた。
「痩せ馬を借りて参りたるわけにはあらじな?」
そう言うと先に行く。
「痴れ者めが」
田助が吐き捨てるように言った。
外に出ると、今日運ぶ俵が倉より出され並んでいた。連れて来た馬の両脇に一つずつ背負わせる。男二人で俵を持ち上げ、もう一人が肩に担ぐ。心構えをする前に自分の番になった。
(くっ、気を抜かば、瞬く間に引き倒れされんほど重い)
「落とさぬ先に代わりおれ。いざ、参らん」
最後の俵を担いだ田助が声を張る。里長の息子は揚揚と馬を引いている。




