割のいい仕事があるんだよ。
タオルを腰に巻きつけて風呂場に入る。
くそう、普段ならタオルで隠すことも無いのに。
ぱしゃっ。
「撮んな!」
背後から聞こえてきたシャッター音に一喝するが、おそらく効果は無いだろう。
てか、さっき『撮影許可』っていう張り紙が目に入ったんだが。もし銭湯のおっちゃんの仕業なら、あとで復讐せねば。
「それにしても賑わってんなー」
どこの有名人が来ているのかは知らんが、おかげでこっちは大迷惑だ。
「オウッ、嬢ちゃん!」
「あ。どうも」
湯船から怖いオッチャンが声をかけてきたので、かけ湯を済ませてオッチャンの隣に浸かる。
「なんか今日すごいですね? 誰が来てるんですか?」
「誰がって。何言ってンだ嬢ちゃん?」
「いや、この客の多さですよ。どこぞの有名人でも来てるんすよね?」
「有名人って、オイ。まさか気付いてねェのか?」
気付いてない? って、言われても。全く心当たりがないのですが。
「なにがです?」
「ったく。もっかい周りを見てみな」
「はぁ」
言われてから、ぐるっと首を回してみる。
ぱしゃっ。ぱしゃっ。
「……」
変な音は聞こえたが、それ以外に異常があるとは思えん。
「なにもないですけど?」
「もっかい見渡してみろ」
「はぁ」
言われた通りもう一度辺りを見渡してみる。
ぱしゃっ。ぱしゃっ。ぱしゃっ。
「……」
またも変な音が聞こえてきたが、やはり異常は無い。
「すんません。なんのことだかさっぱりで」
「ハァ、嬢ちゃんも気楽なヤツだ」
「なんかバカにされてる気が」
「してんだよ」
「バカにしてんですか!?」
何故!? と言いたいところだが、聞いたところでわかりそうもない。
これ以上は黙っていたほうがいいだろう。
「なぁ嬢ちゃん、ウチの事務所で働く気はねェか?」
「は?」
なんだ急に。
「割のいい仕事があるんだよ」
「え、えっと、それはどういった仕事で?」
「……青春を売る仕事だ」
「ぶっ!?」
いや言いかたが違う! 僕男だから、青春を売るのとはちょっと違う!
やややややめてこの物語全年齢対象だから! 苦情来ちゃったらどうすんの!?
「じょっ、冗談きついわ!」
「冗談? 俺は本気だ。なんせ風呂に入るだけでこの人気だからな、AVに出ればかなりの金が……」
「AV!」
「あぁ。アクションビデオな?」
AV。なんでやねん。
「んな隠語、すぐバレますから!」
「そうか? じゃぁアニマルビデオで」
AV。変わんねぇ。
「もうなんでもいいですから、変な冗談やめてください」
「冗談じゃねェんだが。ま、その話は借金がチャラにならなかった時にでもすっか」
「何気にイヤなこと言いますね」
一瞬肝が冷えました。
「しかしなぁ、あれから嬢ちゃんの親御さんの足取りが一向につかめてねェんだ。ぶっちゃけそろそろヤバイかもな」
「や、ヤバイと言いますと?」
「嬢ちゃんがアクションビデオに出演しなきゃいけなくなる」
パパ! ママ! 早く帰って来てぇえええええええええええええ!
お婿に行けなくなっちゃうよぉおおおおおおおおおおおおおおおお!
こうして本日の銭湯では、より疲れがたまったとさ。めでたくなし。




