ってなんでカメラ向けてんだよ!?
三人で銭湯にやってきた僕達は、目の前の光景にあんぐりと口を開けた。
「なっ、なんだこれ?」
「うわ。すごい人だかりですね」
銭湯の前にはこれでもかといわんばかりに人が溢れていた。
ただの人だかりではない。よく見ると、殆どの人がカメラを構えている状態だ。
「なんだ! 今日は祭りか!」
流石のサラダさんも驚いている。
「お祭りがあるなんて聞いてないですし、なにかのイベントでしょうか?」
「ったく、迷惑なイベントだ。これじゃ入るに入れん」
「任せろ! 私が皆蹴散らしてやるぞ!」
「蹴散らさんでいいわ!」
それにしても、一体なんなんだこの人だかりは。
「あぁ! 真鍋さんじゃないですか!」
「はい?」
人だかりの前で立ち往生していると、銭湯のおっちゃんが僕達のほうに駆け寄ってきた。
「あの、なんで僕の名前を?」
「田中さんから聞いたんですよ! いやぁ、本日もお越しいただきまことにありがとうございます! ささっ、どうぞ中へ!」
「いや、でも。他のお客さんもいるんで今日は遠慮しますよ?」
「僕達お金払ってないし」と、遠慮した途端に銭湯のおっちゃんが血相を変えた。
「そそそそんな!? お願いします! お願いですから入って行ってください! お願いしますぅぅぅぅううううううッ!」
「ちょ!?」
土下座しおった!? なんでこの人、金も払わない客に向かって土下座してんの!?
「わ、わかりました! 入りますんで、頭上げてください! てか上げろ!」
「ホントですか!?」
「なんかよくわかんないですけど、入っていけばいいんですよね?」
状況が飲み込めないまま承諾すると、銭湯のおっちゃんが僕の両手を握り締めてきた。
「ありがとうございます! ありがとうございます! これからも是非、ウチをごひいきに!」
「はぁ」
「あの、これ……つまらないものですが!」
「は?」
いつの間にか僕の手に『飲み物フリーパス券』が握らされていた。
な、なんすか。これ。もしかしてタダで飲み物貰えるんですか。
「それ半永久的に使えますので! では、どうぞ!」
「……」
なんだこの扱い。
「すごいぞハル! 銭湯のスペシャリストだな!」
「嬉しくねぇ」
「この券、わたしたちでも使えるんでしょうか?」
「風呂上がったら奢ってやるよ」
驚いている田中さん達を引き連れ、銭湯の中へ入った。
「なんかよくわかんねーけど、とりあえず着替えるか」
脱衣所に入った僕は、言いながら上着に手をかけた。
と、その瞬間。
ぱしゃり、とシャッターの音。
「ん?」
その音に振り返ってみるが、誰もカメラを持っているヤツはいない。
こんなところで写真撮るなよ、と思いながらもう一度上着に手をかける。
ぱしゃり。
「はぁ」
またか。一体どこのどいつだ、脱衣所で撮影するヤツは。
ま、僕には関係ないか。人の趣味をとやかく言うつもりないし。
そう思いながらズボンに手をかけると、
ぱしゃぱしゃぱしゃぱしゃッ!
「なっ!?」
なんだなんだ!? すごい有名人でもいるのかここは!?
大量のシャッター音に慌てて振り返る。
「ってなんでカメラ向けてんだよ!?」
……なんと、被写体は僕だった。




