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絶対怒りませんか?

「…うう、首痛ぇ」


言いながら上体を起こす。

うーむ。なんか変な夢を見てた気がするけど、うまく思い出せん。


「あ! 真鍋さん! よかった、生きてました!」

「田中さん?」


田中さんが駆け寄ってきた。何故か半泣き状態で。


「なんで泣いてんすか」

「な、なんでって。真鍋さん、早乙女さんに首を絞められて気絶しちゃったんですよ?」


早乙女? あぁ、咲のことか。

そういえばついさっきアイツの声を聞いた気がする。


えっと、確かいきなり首を絞められて、意識が遠のいたときに聞いたんだっけ。


「ってそうだ! さっき咲のヤツに殺されかけたんだ!」

「思い出しました?」


思い出したよ! あの野郎、いきなり人様の首を絞めるとかあり得ん!


「んで、その咲の姿が見当たらんのだが」


辺りを見渡すが、川のほとりでシャドウボクシングをしているサラダさん以外誰も見当たらない。


「えっと。早乙女さんなら、真鍋さんが気絶した後にくるみちゃんを連れて帰っちゃいました」

「帰った!?」

「は、はい、なんだかすごく怒ってたみたいで。真鍋さん、早乙女さんになにか失礼なことしたんですか?」

「し、してねーよ!」


少なくとも、いきなり首絞められるようなことはしてません!


「それじゃあ、さっきのは一体なんだったんでしょうね?」

「知らんがな」


咲が怒っている理由はよくわからんが、彼女を怒らせたままにしておくのは不味い。

なんたってくるみの面倒を見てもらっている相手だし。ついでに咲さん怖ぇえし。


仕方ない。全くもって不本意だが、明日にでも謝っておこう。


「まぁ咲の件は置いといて、とりあえず飯にしないか? なんか腹減って仕方ないんだ」

「え、あ。その……それが」

「それが?」


僕の提案にたじろぐ田中さん。


「すみません、わたしとサラさんはもう夕飯済ませちゃいまして」

「え?」

「真鍋さんが目を覚ますまで待ってるつもりだったんですけど、中々起きなくて、それで」

「あぁいや、起きなかった僕が悪いんだし。別に気にしてないから。てか僕ってどれくらい気絶してた?」

「……3時間」


3時間!?

ってことは、今8時か! どんだけ寝てたんだよ!


「すみません! 何度も起こしてみたんですけど、あのっ!」

「いやいや別に怒ってもないし、責めてもないから!」


だから謝るのはよしてくれ、とお願いしても彼女の表情は曇ったままだった。


「もしかして、起こせなかった以外の理由で謝ってんの?」

「はうっ!」


そうらしい。


「怒らないから、田中さんが謝ってる理由を教えてくれ」

「絶対怒りませんか?」

「え。あぁ、もちろん」


僕が怒るような理由なんだな。

ま、どんな理由であれ田中さんのやったことなら僕は怒らないさ。


「真鍋さんの夕飯なんですけど」

「夕飯?」

「えっと、サラさんが『食事中に寝るとはバカなヤツだ! 私が世間の厳しさを教えてやるぞ!』と言って、その、真鍋さんのご飯を全部……」

「食べた、と?」

「はい」

「……」

「あの! 真鍋さん! 怒らないでくださっ……ひぅっ!?」


僕をなだめようとした田中さんが、突然怯えた様子であとずさる。


「どうしたの? 田中さん?」

「真鍋さん、顔がとても怖いです! 怒ってますよね今!?」


怒る? 僕が?

ハハッ、なにをバカな。ついさっき怒らないって約束したばかりじゃないか。


「怒ってなんか、ないっすよ?」

「で、でも」

「ごめん。ちょっと僕サラダさんに用があるから、それじゃ」

「うわっ、ダメですって! 喧嘩はダメです! ちょ、ちょっと真鍋さん聞いてますかー!?」


サラダさんの方へ歩き出す僕を、田中さんが必死に止めようとするが。僕の足が止まることはなかった。


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