おもしれー女育成編 4
アルフレッドがリリアとの会話を楽しんでいた。
それ自体は喜ばしい。問題は、なぜうまくいったのかである。
翌日の放課後、エレノアはその理由を考えながら、リリアに王国の税制を教えていた。
「この地方では、葡萄酒を王都へ運ぶ際にも税がかかります。税率はこちらに――」
「エレノア様。この税金、集めるほうがお金かかってません?」
リリアが指したのは、地方の市場で取引される一部の品に課される税だった。
「徴収する人にもお給料が必要ですよね。この税金で集まるお金より高かったりしません?」
「まさか」
否定しかけて、エレノアは口を閉じた。
税率も徴税の仕組みも知っている。けれど、徴税そのものにいくらかかるのかは知らなかった。
「……確認してみましょう」
資料を調べると、税収そのものが費用を下回ってはいないものの、徴収にかかる経費は決して小さくなかった。
「ほら」
「まだ廃止したほうがよいと決まったわけではありません。税には収入以外の目的がある場合もありますから」
「じゃあ、何のために取ってるんですか?」
エレノアは答えようとして、やめた。調べるほうがリリアの勉強になる。
ともに資料を探しながら、ふと気づいた。
リリアに何かを教えるたび、次は何を尋ねられるのかと、いつの間にか楽しみにしている。
知識ならエレノアのほうがはるかに多い。
けれどリリアは、エレノアが考えたこともないところに疑問を持つ。
王位を試験で決めればいいと言ったこと。百年前の国王は謝るのが苦手だったのではないかと考えたこと。そして今は、税を集めるために使う金を気にしている。
「リリア嬢」
「はい?」
「少し、わかった気がします。殿下のことです」
途端にリリアの目が輝いた。
「昨日は殿下、いつもよりいっぱい話してくれましたよね? エレノア様に教えていただいたおかげです」
「ええ。なぜうまくいったのか、考えていたのです」
「やっぱり殿下は普通の令嬢がよかったんですか?」
「そのものさしはおやめなさい」
危うく、また違った方向へ学習するところだった。
「あなたはこれまで、殿下の興味を引くために、ほかの令嬢がしないことをしようとしていましたね。ですが昨日は、知識を前提に、自分の視点でものごとを話しました」
「それがよかったんですか?」
「少なくとも、殿下はおもしろいと思ったのでしょう」
言いながら、エレノア自身もようやく腑に落ちた。
アルフレッドが好むのは、奇妙なことをする女性ではない。皆が同じものを見ている中で、思いもよらないところに目を向ける人間なのだ。
そしてリリアにも、どうやら根っからそういうところがあったらしい。これまでは、殿下の興味を引こうとする振る舞いに隠れて、見えなかっただけなのだ。
「私、殿下に興味を持たれたってことですか?」
「スタートラインには立てたかもしれませんね」
「じゃあ、もう勉強はしなくても――」
「それとこれとは別です」
エレノアは次の本を机に置いた。
「今度は王国地理です」
「増えた!」
「知識が増えれば、考えられることも増えるでしょう?」
リリアは恨めしそうに本を見た。
「それから、もう殿下の前で変わったことをしようとする必要はありません」
「でも、何もしなかったら――」
「あなたは何もしなくても、十分変わっています」
「褒められてます?」
「褒めていますよ」
知識を身につけるほど、リリアのものの見方は広がっていく。
どうやら、おもしれー女の育成は順調らしい。
おもしれー女育成編 完結です!
おもしれー女恋愛編 へ続きます!
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