おもしれー女育成編 3
その数日後、エレノアはリリアを昼食の席へ連れていった。
アルフレッドとユリウスも同席する、普段なら三人で囲んでいる席である。
王太子の隣に立ちたいのなら、勉強だけでなく、身分の高い者との会話にも慣れなくてはならない。ここ数日の様子を見る限り、以前のようにわざと無礼な振る舞いをすることもないだろう。
その日の朝にそう説明してから、リリアはずっと緊張していた。
「普通にお話しすればよろしいのですよ」
「その普通が一番難しいんですけど……」
これまで散々、普通ではない方法でアルフレッドに近づいていたのだから、今さらである。
昼食が始まってしばらくすると、話題は授業で取り上げられたばかりの百年前の戦争へと移った。
アルフレッドがリリアにも意見を求めると、彼女は少しためらってから口を開いた。
「第十二代国王って、謝るのが苦手だったんじゃないですか?」
それは先日、リリアが言っていたことだった。
「なぜそう思う?」
「この前、エレノア様に戦争のことを教わってから、気になって調べたんです。第十二代国王って、間違えたときに謝る代わりに、何かあげてることが多いんですよ」
「何か?」
「家臣には領地を。弟君には馬を贈ってますよね。それから、王妹殿下の結婚のときも」
そこまで聞いて、エレノアも知らない話が出てきたことに気づいた。
「王妹の結婚?」
「はい。向こうの公爵家に贈ったものが失礼だと問題になったときです。第十二代国王は、どうしてそれを選んだのかは長々と説明しているのに、最後まで謝ってないんです」
「よく調べましたね」
「気になったので」
エレノアからの称賛に、リリアは少し嬉しそうにしてから続けた。
「最初は、本当に謝るのが嫌いな人なのかなって思ったんです。でも、領地や馬を贈ってるなら、自分が悪かったことはわかってるんじゃないですか? それで、百年前の戦争のときも同じなんじゃないかと思ったんです」
「リリア」
エレノアは口を挟んだ。
「国王が非を認めれば、賠償や領土問題にも影響します。たとえこちらに落ち度があったとしても、国王本人が頭を下げることはありませんよ」
「あ、それは調べました。正式に謝罪しなくても、使者を送ったり、相手の名誉を立てる形で収めたりする方法はあったんですよね?」
「ええ。国王が直接非を認めずとも、外交上の儀礼によって関係を修復することはあります」
「でも、第十二代国王はそれもしなかった。自分には侮辱するつもりがなかったって、ずっと説明してるんです」
アルフレッドが口元に手を当てた。
「つまり、国王としての立場とは別に、第十二代国王自身が謝ることが苦手だったのではないか、と?」
「そうです。家臣を間違って罰したときも、悪かったと思ってないなら領地をあげる必要はないですよね。弟君にも、喧嘩したあとで立派な馬を贈ってる。だからこの人、自分が悪かったことはわかってるんです」
「だが、謝罪はしない」
「はい。もしかしたら、謝るのが恥ずかしかったのかもしれません」
アルフレッドの口元がわずかに緩んだ。
「国王の外交政策を性格で説明するのか?」
リリアが不安そうにアルフレッドを見た。
「……だめですか?」
「いや。続けろ」
リリアはぱっと表情を明るくし、それからは先ほどまでの緊張が嘘のように話し始めた。
エレノアはアルフレッドを見た。
その目がわずかに明るくなっている。
間違いない。
◆
昼食を終えたあと、リリアは午後の授業へ向かい、アルフレッドも生徒会の用事があると言って先に席を立った。
エレノアも教室へ戻ろうとしたところで、ユリウスに呼び止められた。
「何をしているんだ、君は」
「何のことでしょう」
「モーガン男爵令嬢だ」
やはり、そこを見ていたらしい。
「最近、彼女を教育しているそうだな」
「ええ。ご本人も望んでいらっしゃいますから」
「兄上の好みまで教えているとか」
「それは誤解ですわ」
エレノアは本当に心外だった。
リリアに手を貸しているとはいえ、婚約者である自分がアルフレッドの好みを教え、それに合わせて振る舞わせるような真似をするつもりはない。
「では、なぜ兄上との昼食に連れてきた?」
「勉強したことを実践する機会も必要でしょう」
「兄上を教材にするな」
失礼な。会話の練習相手にしただけである。
「それにしても、ずいぶん満足そうだったな」
エレノアは思わずユリウスを見た。
「何がです?」
「兄上がモーガン男爵令嬢に興味を示したときだ。ずいぶん嬉しそうな顔をしていた」
そんなに顔に出ていただろうか。
「……成長を喜んでいただけです」
「なぜ入れ込む」
エレノアは答えなかった。
ユリウスもしばらく黙っていたが、やがて小さく笑った。
「まあいい。君が何を企んでいるのか、しばらく見物させてもらう」
「企んでなどおりません」
「そういうことにしておこう」
ユリウスは先に歩き出した。
その背中を見送りながら、エレノアは少しだけ眉を寄せた。
昔から、彼は妙なところで勘がいい。
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