おもしれー女育成編 2
リリアは意外にも勤勉だった。最初こそ文句を言っていたが、一度理解すると吸収が早い。
ただし、質問が多かった。
「どうして王様が死んだら、長男が王様になるんですか?」
「継承争いを防ぐためです」
「でも、長男がものすごいお馬鹿だったら困りません?」
ずいぶんな言い方だが、疑問としてはもっともである。
エレノアは不適格な継承者を廃する制度について説明した。
すると、リリアはしばらく考え込んだ。
「じゃあ、最初から試験で決めたらよくないですか?」
「……王位を?」
「そのほうが優秀な人が王様になれますよね?」
考えたこともなかった。
王位とは血によって継承されるものだ。それを前提として学んできたエレノアにとって、誰を王にするか試験で決めるという発想そのものがなかった。
「現実には難しいでしょうね。誰が試験を行うのか、その者が公正であると誰が保証するのかという問題もあります」
「ああ。試験する人が一番偉くなっちゃいますね」
納得したらしく、リリアは教本に何かを書き込んだ。
知識は足りないが、教えれば理解する。そして、理解すると必ずと言っていいほど何かを尋ねてくる。
別の日、百年前に隣国との間で起きた戦争について教えていたときもそうだった。
「つまり、隣国の王様は妹を侮辱されたと思って怒ったんですよね。でも、こちらの王様には侮辱したつもりがなかった」
「それだけが原因ではありません。当時はすでに国境をめぐる対立があり、両国の関係は悪化していました」
「でも、戦争が始まるきっかけにはなったんですよね?」
「ええ」
リリアは教本に目を落としたまま、首を傾げた。
「最初に二人で話して、こっちの王様が謝っていたらどうなったんでしょう」
エレノアは答えようとして、少し考えた。
歴史の授業では、この戦争の背景や経過、講和によって変化した国境について学んだ。当然、それぞれの王がどのような外交上の判断をしたのかも知っている。
けれど、謝っていたらどうなったのか、と考えたことはなかった。
「国境問題がありましたから、それだけで戦争を避けられたとは言い切れません」
「そうですよね。でも、この王様、ほかのところでも謝ってなくないですか?」
「ほかのところ?」
リリアが数ページ前を開いた。
「ここ。家臣を疑って罰したあと、間違いだったってわかったのに、謝らないで領地を増やしてます」
「それは功績に対する加増とされていますが」
「その前にも、弟と喧嘩したあと、急に立派な馬をあげてますよね」
「……ええ」
「この王様、謝るの苦手だったんじゃないですか?」
そんな人物評を聞いたことはなかった。
エレノアは改めて教本を見た。少なくとも、リリアが挙げた出来事はすべて事実である。
「王様って、謝れないんですか?」
「リリア。それを殿下の前で言ってはいけませんよ」
「どうしてです?」
「殿下は将来の王様ですから」
「あっ」
どうやら、そこには思い至らなかったらしい。
エレノアは思わず目を閉じた。
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