おもしれー女完結編
アルフレッドとエレノアの婚約が正式に解消されてから、一月ほどが過ぎた。
ここまで来るのは、思っていた以上に大変だった。
ヴァレンティス公爵が婚約解消に同意しても、それですべての貴族が納得したわけではない。次の王太子妃に自家の令嬢をと考える者も現れ、男爵令嬢であるリリアをわざわざ選ぶ必要はないと主張する者もいた。
アルフレッドたちは一つずつ反対意見を退け、ようやくリリアを王太子の婚約者候補として認めさせた。
エレノアとユリウスの婚約も発表され、あとはリリアの王太子妃教育の進み具合を見ながら、正式な婚約の時期を決めることになっている。
久しぶりに四人でゆっくりとお茶を飲めるようになった日のことだった。
「そういえば、皆さんにちょっと相談があるんですけど」
リリアが菓子をつまみながら言った。
「何でしょう?」
「最近、私、光るんです」
三人は黙った。
「もう一度お願いします」
「光るんです」
「何が?」
「手が」
リリアが右手を差し出した。
「怪我をしたところに触ると、こう……ぴかっと」
「リリア」
「はい」
「今すぐ神殿へ行きますよ」
「そんなに大変なことですか?」
「いいから来なさい!」
その日のうちに神官が呼ばれ、リリアの手に現れる光を確認した。
「間違いありません。聖魔法です」
沈黙が落ちた。
聖魔法の使い手は、この国でも数えるほどしかいない。身分にかかわらず神殿の庇護を受け、王家からも相応の地位を与えられるほど貴重な存在だった。
「……つまり」
ユリウスが口を開いた。
「最初からこれがわかっていれば、兄上の婚約者にする話はもっと簡単だったんじゃないか?」
「そうですね」
エレノアは即答した。
「ヴァレンティス公爵家に後ろ盾をお願いして、葡萄を調べて、試験栽培の計画を立てて、貴族の方々を説得する苦労も、かなり減っていたでしょうね」
「……すみません」
「いつから使えたのです?」
「最近です! 本当に最近なんです!」
リリアは慌てて両手を振った。
「この前、侍女が指を切ったので触ったら、ぴかっと光って傷がなくなったんです。でも、そういう魔法もあるのかなって」
「ありますが、誰にでも使えるものではありません!」
「そうなんですか?」
「教えました!」
アルフレッドが笑った。
「殿下?」
「いや。ここまで来てもリリアはリリアだと思ってな。これで、君との婚約に反対する連中の理由はほとんどなくなった」
「本当ですか?」
「ああ」
「じゃあ、王太子妃教育も――」
「それは続けてください」
聖魔法が使えても、外交儀礼や政治を知らなくてよくなるわけではない。
リリアの勉強はそのまま続いたが、正式な婚約については一気に話が進み、ほどなくして、王太子アルフレッドとリリア・モーガンの婚約が正式に発表された。
「結局、あんなに苦労しなくてもよかったんでしょうか」
リリアが尋ねた。
「どうだろうな」
アルフレッドは笑った。
何の役に立つかわからないことを調べ、誰も気に留めなかったところで立ち止まり、二百七十年前に途絶えた葡萄畑まで復活させようとした。
そういうリリアだから、アルフレッドは彼女を好きになったのだ。
これから先もきっと、彼女はアルフレッドの予想もしないことを言い出すだろう。
少なくとも、退屈することだけはなさそうだった。
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これにて全編完結です!
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