おもしれー女暗躍編 5
それからのことは、すべてが順調だったわけではないが、一つずつ進んでいった。
まず、ヴァレンティス領で葡萄の試験栽培が始まった。
二百七十年前とまったく同じ品種は残っていなかったが、南部から近い品種の苗木を取り寄せることができた。かつて葡萄畑だった土地は現在も栽培に適しているとわかり、最初の苗木が植えられた。
収穫までには時間がかかる。
それでも、古い記録から失われた産業を見つけ、その復活を提案したこと自体がリリアの実績となった。
ヴァレンティス公爵は約束どおり、リリアの後ろ盾となった。
モーガン男爵家にも話が伝わった。
東部で蜂蜜や果実の加工を行っていた男爵家にとって、新しい仕事が増えるのはありがたい話だったらしい。
「お父様から、何をしたんだって手紙が来ました」
リリアは少し困っていた。
次に、アルフレッドとエレノアの婚約について、正式に王家との話し合いが行われた。
国王と王妃は当然驚いた。
十歳から続いてきた婚約である。しかも王太子と公爵令嬢という、政治的には申し分のない組み合わせだった。
けれど、ヴァレンティス公爵が解消に同意していること、エレノアとユリウスが互いに婚姻を望んでいること、アルフレッド自身がリリアを望んでいることから、話し合いは婚約を維持するかではなく、解消した場合に何が問題になるかへと移っていった。
問題は、一つずつ潰された。
ヴァレンティス公爵家と王家の関係は、エレノアとユリウスの婚姻によって維持できる。
リリアの家格については、公爵家が後ろ盾となった。
王太子妃としての教育については、すでにエレノアが始めていた。
「始めたつもりはなかったのですが」
エレノアはそう言ったが、リリアが学んできた内容を確認した王妃には十分通じたらしい。
もちろん、それですべてが解決したわけではない。
アルフレッドとエレノアの婚約解消には、王家と公爵家だけでなく、それぞれに連なる貴族たちへの説明も必要だった。リリアが男爵令嬢であることを不安視する者もいたし、エレノアとユリウスの婚姻によって二人の周囲に力が集まりすぎるのではないかという意見も出た。
そのたびに四人は集まった。
エレノアが問題を整理し、アルフレッドとユリウスが王家の立場から解決策を考え、リリアが時々、誰も考えていなかったことを言った。
その中には役に立たないものもあった。
たまに、とても役に立つものもあった。
そうして季節が一つ変わるころ、アルフレッドとエレノアの婚約は、双方の合意によって正式に解消された。
十歳から七年続いた婚約だった。
「長かったですね」
手続きを終えたあと、エレノアが言った。
「ああ」
アルフレッドもそれだけ答えた。
二人とも、寂しくないわけではなかった。
恋ではなかった。それでも、互いが隣にいる未来を当然のものとして長く過ごしてきたのだ。
「これからも、よろしくお願いいたします。殿下」
「もちろんだ」
二人の婚約は終わった。
ほどなくして、エレノアとユリウスの婚約が発表された。
そしてリリアは、王太子の新たな婚約者候補として、正式に王太子妃教育を受けることになった。
「候補なんですか?」
「まだ候補です」
エレノアが答えた。
「葡萄もまだ実っておりませんし、あなたの教育も終わっておりません」
「結構がんばったと思うんですけど」
「ええ。ですから、あと少しです」
リリアは少し考えてから、アルフレッドを見た。
「殿下、待っててくださいね」
「待つのは構わないが、俺も一緒にやる」
「では、がんばりましょう!」
王太子妃への道は、もう少しだけ続くらしい。
――おもしれー女完結編へ続く――
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