おもしれー女発見編 2
そして、エレノア自身はまったくおもしれー女ではなかった。
公爵家の長女として必要な教育を受け、礼儀正しく、成績優秀で、社交にも問題がない。
アルフレッドとは幼馴染に近い関係だったから気安く話すことはできたが、彼を驚かせたことなど一度もない。
もっとも、それについてエレノアは少しも傷ついていなかった。
彼女もまた、アルフレッドを愛してはいなかったからだ。
もちろん、大切には思っている。幼いころからともに育った友人であり、いずれ国を背負う彼を尊敬してもいた。
王となったアルフレッドを隣で支えることにも異存はない。
ただ、それは恋ではなかった。
◆
「また見ていた」
舞踏会の壁際で声をかけられて、エレノアは慌てて正面を向いた。
いつの間にか、第二王子ユリウスが近くまで来ていたらしい。
手にしたグラスを給仕に預け、そのままエレノアの隣に立つ。
アルフレッドより一つ年下のユリウスは、王位継承順位こそ第二位だが、成人後は母方の公爵家を継ぐことが決まっている。
舞踏会では彼の周囲にも人の輪ができていたが、そこから抜けてきたようだった。
「何のことでしょう」
「俺のことだ」
「……自意識がお強いのですね?」
「三曲前からこちらを見ていた女に言われたくない」
エレノアは扇を開いて口元を隠した。
ユリウスのこういうところは苦手だ。何も言わずに見逃してくれればいいものを、彼はいちいち気づいて、いちいち指摘する。
「兄上が探していたぞ」
「まあ。では参りませんと」
「嬉しそうだな」
「もちろんです。婚約者ですもの」
ユリウスはエレノアの顔をしばらく見ていたが、それ以上は何も言わなかった。エレノアは彼の横を通り過ぎながら、ほんの少しだけため息をついた。
アルフレッドとの婚約に不満はなかった。王太子妃となるための教育を受けてきたし、その責務を放棄するつもりもない。
困ったことがあるとすれば、その途中でユリウスのことを、どうにも意識せずにはいられなくなったことだ。
いつからだったのかは、エレノア自身にもよくわからない。
アルフレッドの隣に立つため、できて当然と言われてきたことを、ユリウスだけはよく褒めた。
十二歳のころ、外国語の試験で満点を取り、教師からそれくらい当然だと言われた日のことを、今でも覚えている。
『また満点だったんだって? すごいな』
『この程度は、王太子妃になる者として当然のことです』
『当然でも、勉強したのは君だろう』
それだけのことだった。ユリウス本人は、もう覚えてもいないだろう。
けれど、それからも彼は同じだった。王太子妃として何ができるかではなく、エレノアが何をしたのかを見てくれる。そのことが、いつしか嬉しくなっていた。
想いを告げるつもりはない。エレノアはいずれ王太子妃となる。
その未来を変えるだけの理由など、どこにもなかった。
だからユリウスへの想いは、一生胸の中にしまっておくつもりだった。
そのはずだった。
ピンク色の髪をした少女が、アルフレッドにぶつかるまでは。
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