おもしれー女暗躍編 2
「君のそういうところに怒ってるんだ」
エレノアには、なぜユリウスが怒っているのかわからなかった。
「わたくしの、どういうところでしょう?」
「何でも自分ひとりで解決しようとするところだよ」
「ですが、わたくしの家にも関わることですから」
「それはそうだが、婚約を解消して一番不利益を受けるのは君だろう」
「それは承知しております」
「本当に?」
ユリウスは呆れたように息を吐いた。
「じゃあ聞くけど、婚約を解消したあと、君はどうする?」
エレノアは答えに詰まった。
アルフレッドとリリアのことばかりで、そのあとの自分については考えていなかった。
アルフレッドが急に立ち上がった。
「では、俺は先に失礼する」
「殿下?」
「明日、続きを話そう」
それだけ言うと、アルフレッドはさっさと部屋を出ていった。急に取り残されたエレノアは、閉じた扉とユリウスを交互に見る。
「それで?」
ユリウスは追及をゆるめなかった。
「君はどうするんだ」
「……それは、今すぐ決める必要のあることでしょうか」
「ある」
「なぜです?」
「君がまた、自分以外の全員がうまくいく方法を考え始める前に聞いておきたい」
「そのようなことは――」
「してるだろう。今まさに」
否定できなかった。
その言葉に、エレノアは十二歳のころを思い出した。試験で満点を取り、王太子妃になる者として当然だと言った自分に、ユリウスだけが「勉強したのは君だろう」と言った。
昔からユリウスは、エレノア自身を見てくれていた。
「わたくしが殿下との婚約を解消しても、ユリウス殿下のお立場が変わるわけではございません。それなのに、なぜそこまでお怒りになるのです?」
「君が心配だからだ!」
エレノアが目を瞬く。
「昔から、何でもできて当然みたいな顔をして、誰より努力しているのを知ってる。兄上の婚約者だから何も言わなかったし、君が王太子妃になるつもりなら、それでいいと思おうとしてた。でも今回は、兄上とモーガン男爵令嬢のために、自分のことを後回しにして婚約まで解消しようとしてる。そんなのを見て、黙っていられるわけがないだろう」
ユリウスはそこまで一息に言うと、さらに続けた。
「僕が伴侶に望んでいたのは、君なのに!」
言った本人も驚いたらしい。ユリウスは気まずそうに口元を押さえた。
「……わたくしと?」
「そう言ってる」
「なぜ今まで何もおっしゃらなかったのです?」
「兄上の婚約者に何を言えと?」
もっともだった。
ユリウスが自分を大切にしてくれていることは知っていた。幼いころから親しくしてきたのだから、自分も彼にとって大切な幼馴染の一人なのだと思っていた。それ以上を望んだことはある。けれど、望んでも仕方がないことだと思っていた。
胸の奥が、じわりと熱くなった。
「……わたくしもです」
「何が?」
「わたくしも、ユリウス殿下をお慕いしております」
今度はユリウスが動かなくなった。
「いつから?」
「おそらく、十二歳のころには」
二人は顔を見合わせた。
婚約が解消されたわけでもない。ユリウスと結婚できると決まったわけでもない。ただ、ずっと叶わないと思っていた気持ちが、実は同じ方向を向いていたとわかった。
先ほどまでの張りつめた空気が、いつの間にかやわらいでいた。
「では、なおさらだ。君一人で何とかする必要はない。兄上もモーガン男爵令嬢も、僕もいる」
アルフレッドはリリアを望んでいる。リリアもアルフレッドを望んでいる。そして、自分とユリウスも。
確かに、これはエレノア一人の問題ではなかった。
「だったら、四人で何とかすればいい」
あまりにも簡単に言うので、エレノアは思わず笑ってしまった。
「王家と公爵家との婚約を解消して、男爵令嬢を新たな婚約者にするのですよ。簡単なことではございません」
「だから四人で考えるんだろう?」
ユリウスは当然のように言った。
エレノアはもう一度笑った。
「では、明日、殿下とリリアにもお話しいたしましょう。まずは、何が問題になるのか整理しなくてはなりませんね」
言いながら、エレノアはすでに考え始めていた。
王家とヴァレンティス公爵家の関係。リリアの家格。王太子妃としての資質。そして、貴族たちを納得させるだけの理由。
「エレノア」
「何でしょう?」
「もう一人で考え始めてるだろう」
エレノアは口を閉じた。
「……癖のようなもので」
ユリウスは呆れたように笑った。
「せめて、これからは僕も入れてくれ」
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