おもしれー女恋愛編 3
アルフレッドは昔から、予定調和を退屈に感じることが多かった。
何を尋ねても模範的な答えが返ってくる王宮では、なおさらだった。皆が美しいと言うものを美しいと褒め、王太子である自分が聞きたいであろう言葉を選んで差し出す。
それが悪いとは思わない。宮廷で生きるうえでは必要な能力であり、アルフレッド自身もそうしている。だからこそ、ときどき予想もしないことを言う人間が現れると、おもしろいと思った。
馬の足が一本多いと指摘した令嬢とは、その絵について話した。珍しい果実を焼こうとした令嬢には、なぜそう思ったのかを尋ねた。けれど、その場で会話が終われば、それきりだった。
王立学院へ入学してからも、それは変わらなかった。隣には幼いころからの婚約者であるエレノアがいて、学院でも申し分なく振る舞っていた。翌年にはユリウスも入学し、アルフレッドにとってはいつもどおりの日々が続いていた。
そんな中で、ピンク色の髪をしたリリア・モーガンは目立っていた。
もっとも、最初の印象は非常に悪かった。
廊下でぶつかり、食事に文句をつけ、水をかける。どれも無礼なうえ、アルフレッドの反応を期待しての行動だとすぐにわかった。
ところが、しだいにそのようなことをまったくしなくなった。エレノアが見かねたのか、礼儀作法や教養を教えているらしい。面倒見のよい彼女らしい振る舞いだった。
するとリリアは、奇妙な行動の代わりに、妙なことを尋ねてくるようになった。
『第十二代国王って、謝るのが苦手だったんじゃないですか?』
『税金って、集めるのにもお金がかかりますよね?』
『でも、この地方って葡萄育たないですよね』
一つ答えれば、また一つ疑問が出てくる。答えを知らなければ自分で調べ、次に会ったときには新しい話を持ってくる。
気づけば、アルフレッドも同じことをするようになっていた。王宮で古い記録を見つければリリアに見せようと思い、授業で妙な制度を知れば、彼女ならどう考えるだろうと思う。
それがいつから始まったのかは、アルフレッドにもわからなかった。
その日の昼休みも、食堂へ向かう途中でリリアの姿を探している自分に気づいた。やがて中庭にピンク色の髪を見つけたが、彼女は男子生徒と話していた。
同じ学年の子爵家の次男だったはずだ。二人の間には本が開かれており、何かについて議論しているらしい。リリアが笑うのを見て、アルフレッドは足を止めた。
「兄上、どうした?」
「いや」
リリアが誰と話そうが彼女の自由なのに、妙に気になった。
「モーガン男爵令嬢なら、今日はあちらで昼食を取るんじゃないか?」
「聞いていない」
「そう」
ユリウスはそれ以上何も言わなかったが、口元がわずかに笑っている。
「何だ」
「別に」
腹立たしく思いながら食堂へ向かおうとすると、背後から声が飛んできた。
「あ、殿下!」
振り返ると、リリアが先ほどの男子生徒に何かを告げ、本を抱えてこちらへ駆けてくる。
「ちょうどよかったです。聞きたいことがあったんですけど」
「彼との話は終わったのか?」
「彼?」
リリアは振り返ってから、ようやく誰のことかわかったらしい。
「ああ。授業でわからなかったところを教えてもらってただけです」
先ほどまで引っかかっていたものが、あっさり消えた。
「それで、殿下。この前の葡萄なんですけど――」
リリアが本を開いた。アルフレッドがその話を聞きながらユリウスを見ると、弟は何とも言えない顔でこちらを見ている。
「何だ」
「いや。兄上にもそういう顔ができるんだなと思って」
それだけ言い残し、ユリウスは先に食堂へ向かった。何のことかわからないまま、アルフレッドは再びリリアへ向き直る。
「それで、ここなんですけど」
リリアは何も気づかず、本の一節を指していた。
その日の午後、アルフレッドは授業を受けながら、ユリウスの言葉について考えた。
なぜ、リリアがほかの男と話していることが気になり、自分のところへ来た途端に気にならなくなったのか。
答えはそれほど難しくなかった。ただ、認めるまでに少し時間がかかった。
これまで、次に会いたいと思った令嬢はいなかった。何かを見つけるたびに話したいと思ったことも、ほかの誰かと話しているだけで気になったこともない。
アルフレッドは小さく息を吐いた。
自分は、リリア・モーガンに惹かれている。
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