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それって、私のことじゃないよな?

月曜日。


 ――今日は学校が休みだった。


 理由は創立記念日。


 朝から学校へ行く必要もない。


 つまり。


「…………」


 凛はベッドの上で布団にくるまりながら、スマホを眺めていた。


「休みって最高……」


 昨日まで普通に学校へ行っていたせいか、今日が休みなのが妙に嬉しい。


 時計を見る。


 午前十時。


「……まだ寝れる」


 そう思ったところで。


 スマホが震えた。


 通知。


 SNS。


 鬼宮鬼神のアカウント。


 フォロワー――


236人。


「…………」


 凛は目をこする。


「……また増えてる」


 数日前まで数十人だった。


 それが今では200人を超えている。


「切り抜きってすごいな……」


 昨日、ひよりというVTuberが自分の話をしていたことは知っている。


 ただ。


 本人はまだ、その配信を全部見てはいなかった。


 なんとなく検索してみる。


「あ」


 星乃ひより。


 ちょうど今、配信中だった。


「……ちょっと見てみるか」


 凛は布団の中でスマホを横向きにした。



――星乃ひよりの配信


「はい、ということで今日も雑談していきます!」


 明るい声。


 コメント欄も流れている。


『おはよー!』


『学校休みだから来た』


『ひよりちゃん今日もかわいい』


「ありがとう!」


 ひよりが笑う。


「今日はねー、最近あったこととか話そうかなって」


 しばらく雑談。


 ゲームの話。


 最近食べたもの。


 事務所の同期の話。


 そして。


「そういえばさ」


 ひよりがふと思い出したように言った。


「この前、学校でめちゃくちゃ可愛い子見たんですよ」


 コメント欄が反応する。


『また学校の話w』


『どんな子?』


『ひよりの学校って可愛い子多いの?』


「いや、ほんとに可愛かったんだって!」


 ひよりが少し興奮気味に話す。


「その子ね、めっちゃ綺麗な黒髪で――」


 凛は布団の中で画面を見る。


「……へぇ」


 興味半分。


 ただの雑談として聞いている。


「しかも、普段すごいクールなんだけど」


「たまに笑うとめっちゃ可愛いの」


『ギャップじゃん』


『強い』


『それはモテそう』


「そうなの!」


 ひよりが笑う。


「男子にも人気ありそうだし、女子からも人気ありそうな感じ!」


「でも本人は全然自覚なさそうで」


「なんか……そういう子っていいよね」


 凛は少しだけ眉を上げた。


「……そんな子いるんだ」


 そして。


「まあ、どこの学校にも一人くらいはいるか」


 そう呟く。


 もちろん。


 その「可愛い子」が。


 自分のことだなんて。


 微塵も思っていない。



「あとね!」


 ひよりが続ける。


「その子と一緒にいる女の子も、めちゃくちゃ可愛いの!」


『そっちも?』


「うん!」


「明るくて、誰とでも話せる感じの子」


「その二人が一緒に歩いてると、すごい目立つんですよ」


 凛の動きが止まる。


「…………」


 黒髪。


 クール。


 たまに笑うと可愛い。


 明るくて誰とでも話せる女の子。


「…………」


 何となく。


 頭の中に二人の姿が浮かぶ。


 自分と。


 乃愛。


「……いや」


 凛は首を振る。


「そんなわけないか」


 そもそも。


 ひよりが自分と同じ学校に通っていることなんて、凛は知らない。


 配信者として見ているひよりと。


 学校にいる自分。


 その二つが結びつく理由がない。



 配信は続く。


「でね、その子たちが教室で話してるの見てたら――」


「めっちゃ仲良さそうで」


『青春だな』


『漫画みたい』


「そうなの!」


「なんか、いいなーって思って」


 ひよりが笑う。


「私もああいう友達ほしいなって」


『同期いるじゃん』


「そういう意味じゃなくて!」


 ひよりが笑う。


 凛も思わず笑った。


「……確かに、いい子そうだな」


 画面の向こうの話なのに。


 何となく、その二人に興味が湧いてくる。


「どんな子なんだろ」


 凛はコメント欄を見る。


『その二人って名前なんていうの?』


『気になる』


「え?」


 ひよりが少し困った顔をする。


「それは言えないよ」


「同じ学校の子だからね」


『そりゃそうか』


『身バレ怖いしな』


「うん」


 ひよりが頷く。


「でも、ほんとに可愛いんだよ」


「特にね――」


 少し考える。


「黒髪の子」


「めちゃくちゃ綺麗」


 凛はその言葉を聞いて。


「……へぇ」


 とだけ呟いた。



 その頃。


 ひよりの配信を見ていた視聴者の一人がコメントを打つ。


『鬼神もそういうタイプだよね』


「え?」


 ひよりがコメントを読む。


「鬼宮さん?」


『そう』


『クールだけど笑うと可愛い』


 ひよりが笑う。


「……あー!」


「確かにちょっと似てるかも!」


 コメント欄が盛り上がる。


『鬼神とその子並んだら強そう』


『クール美少女×鬼神』


『絶対映える』


「いやいや!」


 ひよりが笑う。


「鬼宮さんは配信者さんだから!」


「学校の子とは別だよ」


「……まあ、鬼宮さんも可愛いけど」


 ひよりが小さく呟く。


『好きじゃん』


「好きとかじゃないって!」


 ひよりが慌てる。


 そのやり取りを。


 凛はスマホ越しに見ていた。


「…………」


 少し考える。


「鬼神……」


 自分のもう一つの名前。


「……確かに」


 ひよりが言う通り。


 鬼神は配信中、結構荒っぽい。


 でも。


 可愛いと言われることもある。


「……まあ、私とは全然違うけど」


 凛はそう呟いた。


 そして。


 そのまま配信を見続けた。



 昼過ぎ。


 配信終了。


 凛はスマホを置く。


「面白かったな」


 そして。


 少し考える。


「……学校の可愛い子か」


 自分の学校にもいる。


 例えば。


「乃愛とか」


 明るくて。


 誰とでも話せて。


 可愛い。


「……まあ、乃愛は確実に人気あるよな」


 そして。


「あと……」


 自分のことを考える。


「…………」


 数秒。


「いやいや」


 凛は首を振る。


「自分で可愛いとか考えるの、痛いだろ」


 ベッドに倒れ込む。


「……寝よ」


 結局。


 最後まで。


 ひよりが話していた「黒髪のクールな美少女」が自分だとは。


 気づかなかった。



 同じ頃。


 ひよりは配信を終えた部屋で、椅子にもたれながらスマホを見る。


「……今日も話しちゃったな」


 頭に浮かぶ。


 学校で見かける二人。


 朝倉凛。


 水野乃愛。


「ほんと、可愛いんだよね……」


 そして。


 もう一つの名前。


 鬼宮鬼神。


「……鬼神さんも、いつか話してみたいな」


 まだ。


 二人は知らない。


 まさか同じ学校に通っていることも。


 そして。


 毎日のように同じ校舎で過ごしていることも。


 ましてや。


 その二人が。


 ネットと現実で、それぞれ別の顔を持っていることなんて。


 今はまだ。


 誰も知らなかった。

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