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知ってる?この名前

夜。


 とある配信。


 画面には、明るい茶髪の少女が映っていた。


 大きな瞳。


 柔らかな笑顔。


 白を基調とした衣装。


 胸元には小さな星のアクセサリー。


 彼女の名前は――


星乃ひより。


 VTuber事務所、StellaLive所属。


 デビューから二ヶ月。


 まだ新人と呼ばれる立場の配信者だった。


「はい、ということで今日も来てくれてありがとー!」


 コメント欄が流れる。


『待ってた!』


『今日もかわいい』


『こんばんはー』


「こんばんは!」


 ひよりが笑う。


「今日はねー、まったり雑談です!」


 配信開始からしばらく。


 学校の話。


 最近ハマっているゲーム。


 事務所の同期の話。


 そんな他愛のない話をしていた。


 そして。


「そうそう!」


 ひよりが何かを思い出したように手を叩く。


「最近ね、私が気になってる新人さんがいるんですよ!」


 コメント欄が反応する。


『新人?』


『誰誰』


『また推し増やすの?』


「違う違う!」


 ひよりが慌てる。


「いや、推したいっていうか……普通にすごいなって思った人!」


『誰?』


『企業勢?』


「個人勢の方なんだけどね」


 ひよりは少し照れながら言う。


「鬼宮鬼神さんっていう人」


 コメント欄。


 一瞬。


 流れが止まった。


 そして――


『あー!』


『知ってる!』


『鬼神!?』


『最近切り抜き回ってる子じゃん』


『FPSの人?』


「えっ?」


 ひよりが目を丸くする。


「知ってる人いるの!?」


『昨日見た』


『4キルの切り抜き』


『銀髪角の子』


「そうそう!」


 ひよりが嬉しそうに頷く。


「その子!」


「私、昨日たまたま切り抜き見つけたんだけど――」


 モニターに動画を表示する。


 そこには鬼神の配信の一場面。


『――そこ!』


 敵を倒す。


『っしゃあ!』


「ここ!」


 ひよりが指を差す。


「めっちゃ上手くない!?」


『うまい』


『エイムえぐい』


『新人とは思えん』


「私FPS苦手だから、余計にすごいなって思って」


 ひよりが動画を再生する。


 しばらくして。


『……なんでそこで可愛いになるんだよ』


 鬼神の声。


 ひよりが笑う。


「ここも好き!」


『分かるw』


『急に可愛くなる』


『ギャップいいよな』


「そう!」


 ひよりは楽しそうに笑う。


「最初、怖い人なのかなって思ったんですよ」


「だって名前も鬼神だし、角生えてるし」


『確かに』


「でも喋ってるの聞いてたら――」


 少し間を置く。


「……なんか可愛いんですよね」


『分かる』


『声いいよな』


『ひより鬼神推し?』


「推しっていうか!」


 ひよりが慌てる。


「普通に面白い新人さんだなって!」


『顔真っ赤』


「赤くない!」


 コメント欄が笑いで埋まる。



「でもね」


 ひよりが少し真面目な顔になる。


「鬼宮さんって、まだ登録者そんなに多くないんですよ」


 画面に鬼神のチャンネルを表示する。


「私が見た時は、まだ100人もいなかった」


『今は?』


「えっと……」


 確認する。


「……今、112人」


『増えてるw』


『早くね?』


「え!?」


 ひよりも驚く。


「さっき見た時100人いなかったよ!?」


『切り抜き効果』


『伸びてるな』


「すごい……」


 ひよりは画面を見る。


 まだ小さなチャンネル。


 まだ動画も少ない。


 でも。


 少しずつ人が集まっている。


「なんかこういうの、いいよね」


『分かる』


「まだ何万人とかじゃなくて」


「これから大きくなるかもしれない人を見つけた感じ」


 ひよりが笑う。


「私もデビューしたばっかりだから、なんか勝手に親近感あります」


『ひよりも新人だもんな』


「そう!」


「だから鬼宮さんには頑張ってほしいなって」


 そして。


「いつか同じ配信者として、どこかでご一緒できたらいいな」


 ぽつり。


 ひよりはそう言った。


 コメント欄が一気に盛り上がる。


『コラボ期待』


『鬼神×ひより見たい』


『絶対面白い』


「いやいや!」


 ひよりが慌てる。


「まだ全然そんな関係じゃないから!」


『でもいつか』


「……いつか、ね」


 ひよりが小さく笑う。



 その頃。


 本人。


「…………」


 朝倉凛は、自分の部屋で課題をしていた。


「……ここ、分からないな」


 教科書をめくる。


 スマホは机の端。


 SNSの通知が何件か来ている。


 でも。


 今は勉強中。


「あとで見よ」


 スマホを伏せる。


 だから。


 凛は知らない。


 自分の名前が。


 別のVTuberの配信で語られていることを。


 そして。


 その配信を見た人たちが。


 また鬼宮鬼神の名前を検索していることを。



 翌朝。


 鬼宮鬼神。


登録者:184人。


「…………」


 スマホを見た凛が固まる。


「……なんで?」


 昨日。


 112人だった。


 それが。


 一晩で。


「…………」


 通知を見る。


『星乃ひよりさんの配信から来ました!』


「…………誰?」


 凛は首を傾げた。


 まだ。


 鬼神は知らない。


 星乃ひよりというVTuberのことを。


 そして。


 ひよりもまだ知らない。


 鬼宮鬼神の正体が――


 毎朝同じ電車に乗って学校へ向かう、


 ただの女子高生・朝倉凛


だということを。

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