鬼神、FPSを始める
土曜日。
朝。
「…………」
俺はベッドの上でスマホを眺めていた。
鬼宮鬼神のSNSアカウント。
フォロワーは――
**32人。**
「……増えてる」
初配信の時は、ほとんど誰もいなかった。
それが今では32人。
たった32人。
でも。
「……結構嬉しいな」
俺は小さく笑った。
今日は二回目の配信。
昨日の夜に告知を出しておいた。
> **『本日20時から配信します。
> 今回はFPS「BULLET RUSH」をやる予定です。
> よかったら遊びに来てください。』**
投稿した時は少し緊張した。
でも。
すぐに反応がついた。
**『楽しみにしてます!』**
**『FPS配信きた!』**
**『初見ですが見に行きます』**
「…………」
スマホを見ながら、少し口元が緩む。
「……よし」
今日はちゃんとやろう。
---
午後。
俺は自分の部屋で配信準備をしていた。
マイク。
ヘッドホン。
ゲーム。
配信ソフト。
全部確認。
「……問題なし」
ゲームを起動する。
『BULLET RUSH』
最近発売されたばかりの5vs5チーム制FPS。
俺は少し前から気になっていた。
「……FPSか」
前の人生でもFPSは結構やっていた。
得意だったわけじゃない。
でも。
エイムにはそこそこ自信がある。
「……まあ、何とかなるだろ」
時計を見る。
19時50分。
あと10分。
「…………」
やっぱり緊張する。
初配信の時とは違う。
前回は誰も期待していなかった。
でも今回は。
待ってくれている人がいる。
「……よし」
19時59分。
配信タイトルを確認。
**【FPS】鬼神、敵を全員倒す。【BULLET RUSH】**
「……ちょっと強気すぎたかな」
まあいい。
20時。
配信開始。
---
画面に鬼神が映る。
「――よぉ」
少し低い声。
「鬼宮鬼神だ」
コメントがすぐに流れる。
**『きた!』**
**『こんばんは!』**
**『待ってた』**
**『初見です』**
「お」
俺は少し驚いた。
「……結構来てるな」
右上の数字を見る。
**同時視聴者:6**
初配信の開始直後より多い。
「ありがとな」
自然と笑う。
「今日は予定通り、FPSやるぞ」
ゲーム画面を映す。
「これが今日やるゲーム」
タイトルロゴ。
**BULLET RUSH**
「5対5のチーム制FPSな」
コメント。
**『やったことある?』**
「ない」
**『え?』**
「今日が初めて」
**『大丈夫かw』**
「大丈夫だろ」
俺は笑った。
「FPSなら何とかなる」
**『フラグ』**
「うるせぇ」
コメント欄が笑いで埋まる。
---
「じゃあ、ゲーム説明な」
チュートリアルを開く。
「基本は5対5」
「攻撃側と防衛側に分かれて、目標を取り合う」
「武器は――」
説明しながら画面を見る。
「……結構種類あるな」
**『鬼神どれ使う?』**
「分からん」
**『初心者じゃんw』**
「初心者だからな」
堂々と言う。
「とりあえず一番使いやすそうなのにする」
武器を選ぶ。
「これでいいか」
準備完了。
「じゃあ――」
一瞬だけ黙る。
「……やるぞ」
---
マッチング開始。
数秒。
ゲーム開始。
「……」
俺は画面を睨む。
「よし」
ラウンド開始。
味方と一緒に進む。
「……右いる」
敵が一人。
銃声。
俺は反射的に照準を合わせる。
「――っ!」
撃つ。
**KILL**
「……お」
コメントが一気に増える。
**『うま』**
**『初見でそれ?』**
**『エイム良くね?』**
「……まあ」
少し得意げになる。
「これくらいはな」
次の瞬間。
横から敵。
「うわっ!」
撃たれる。
「待て待て待て!」
慌てて逃げる。
敵を倒す。
「……危な」
**『今の焦ってて草』**
「うるせぇ!」
笑いながら返す。
---
数ラウンド後。
完全にゲームに入り込んでいた。
「右!」
「一人!」
「詰めるぞ!」
味方に指示を出す。
敵を一人。
二人。
三人。
「あと一人!」
敵が角から出てくる。
「――そこ!」
ヘッドショット。
**4 KILL**
「っしゃあ!」
思わず声が出る。
「どうだ!」
コメント欄。
**『鬼神つえええ』**
**『初心者とは?』**
**『FPSうますぎ』**
**『声荒くなるの好き』**
「……」
俺はコメントを見る。
「声荒くなるのは仕方ねぇだろ!」
**『かわいい』**
「…………」
止まる。
「……なんでそこで可愛いになるんだよ」
**『怒ってる鬼神かわいい』**
「うるせぇ!」
顔が熱くなる。
---
その後も試合は続いた。
勝ったり。
負けたり。
時には、
「なんでそこにいるんだよ!」
と味方に叫んだり。
「ごめん!」
と自分のミスを素直に謝ったり。
気づけば。
最初の緊張は完全になくなっていた。
ゲームに夢中になっていた。
コメントも増えている。
**同時視聴者:14**
「……14?」
俺は数字を見る。
初配信の最大は10人だった。
「……増えてる」
嬉しい。
でも。
今はそれ以上にゲームが楽しい。
「よし、次ラスト!」
**『もう一戦!』**
「今日はここまで」
**『えー!』**
「明日もあるからな」
**『明日もやる?』**
「いや、明日は雑談でもしようかな」
**『雑談きた!』**
「……需要あるのか?」
**『ある』**
**『鬼神の話聞きたい』**
「……そっか」
俺は少し照れた。
「じゃあ明日は雑談な」
---
最後の試合。
勝利。
「……よし」
俺は満足そうに息を吐いた。
「今日はここまで」
コメント欄が流れる。
**『おつかれ!』**
**『楽しかった!』**
**『FPSまたやって!』**
**『鬼神強かった』**
「ありがとな」
少しだけ間を置く。
「じゃあ――」
いつものように。
「またな」
配信終了。
---
「…………」
部屋が静かになる。
俺は椅子に座ったまま、画面を見る。
**最大同時視聴者:18人**
**新規登録者:11人**
「……11人」
初配信より増えた。
登録者も。
そして。
「……18人か」
少しだけ嬉しくなる。
「……楽しかったな」
俺は配信中の録画を見返す。
そして。
「……ここ」
4キルした場面を見つける。
「これ、切り抜きにしたら面白いかな」
自分で短い動画を作ってみる。
タイトル。
**『新人鬼V、初見FPSで4キルした結果』**
「……こんな感じか」
SNSに投稿。
「よし」
スマホを置く。
すると。
すぐに通知が鳴った。
「……もう?」
一件。
二件。
三件。
反応が増えていく。
「…………」
俺は画面を見ながら、少しだけ笑った。
まだ小さな数字。
まだ誰も知らない。
だけど。
鬼宮鬼神という名前が。
ほんの少しだけ。
誰かの記憶に残り始めていた。




