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いつもの教室

* 神谷かみや 颯真そうま

* 爽やか系イケメン

* 明るくてノリがいい

* クラスの男子とも女子とも普通に話せる

* 乃愛とはよく話す

* 凛とはまだ挨拶程度

* 恋愛にはそこまで興味がない

* 桐生きりゅう れん

* 颯真とは幼馴染レベルで仲がいい

* 颯真より静かで落ち着いている

* 黒髪で少し長め

* スポーツもできて勉強もそこそこ

* 女子からかなり人気がある

* 凛とはほぼ話したことがない

火曜日。


 朝。


 教室に入ると、いつものように何人かがすでに来ていた。


「おはよう」


「おはよー、朝倉さん」


「おはよう」


 軽く頭を下げて、自分の席へ向かう。


 席に鞄を置いて、椅子に座る。


「……」


 窓の外を見る。


 まだ朝の空気が少し冷たい。


 俺は頬杖をついて、ぼんやりと校庭を眺めていた。


「凛、おはよ!」


「あ、おはよう。乃愛」


 後ろから声をかけられる。


 振り返ると、乃愛が笑顔で立っていた。


「今日早くない?」


「そう?」


「うん。私より先に来てるの珍しい」


「ちょっと目が覚めちゃって」


「へえー」


 乃愛は俺の机の横に立つ。


「昨日何してたの?」


「普通に過ごしてたよ」


「また秘密?」


「秘密じゃないって」


「じゃあ何してた?」


「……ゲーム」


「普通じゃん」


「だから普通だって」


 乃愛が笑う。


「凛って、たまに変なところで隠すよね」


「そうかな」


「そうだよ」


 そう言って、乃愛は自分の席へ向かっていった。


 俺はその背中を見送る。


 乃愛は本当に誰とでも仲良くなれる。


 教室に入ってからまだ数分しか経っていないのに、すでに何人ものクラスメイトと話している。


「乃愛、おはよー!」


「おはよ!」


「昨日の宿題やった?」


「やったやった!」


「見せて!」


「自分でやりなよ!」


「お願い!」


「しょうがないなぁ」


 笑い声が教室に響く。


 俺はその様子を眺めながら、少しだけ笑った。


 ――俺とは正反対だ。


 俺は基本的に一人でいる。


 別に寂しいわけじゃない。


 前の人生でもそうだった。


 自分から誰かのところへ行くことは少なかった。


 ただ、今は乃愛が自然に話しかけてくれる。


 それだけで十分だった。


---


「なあ、神谷」


「ん?」


 教室の後ろ。


 男子数人が集まって話していた。


「朝倉さんってさ」


「朝倉?」


「あの窓側の」


「うん」


「可愛くね?」


「あー……分かる」


 神谷颯真は、何気なく凛を見る。


「確かに可愛いな」


「だろ?」


「でも、なんか話しかけづらくない?」


「分かる。ちょっとクールっていうか」


 颯真の隣にいた桐生蓮も、ちらりと凛を見る。


「……確かに」


「お前、話したことある?」


「ほとんどない」


「俺もないな」


 颯真が笑う。


「でも女子人気も高いらしいぞ」


「そうなの?」


「さっき聞いた」


「へえ」


 蓮はもう一度、凛を見る。


 ちょうど凛が乃愛と話していた。


 乃愛が何か言う。


 凛が少し笑う。


「……笑うと普通に可愛いな」


「だろ?」


 颯真がニヤッとする。


「お前、ちょっと気になってんじゃね?」


「いや、別に」


「ほんとか?」


「ほんと」


「ふーん」


 二人はそれ以上気にすることなく、別の話題へ移った。


 この時。


 凛は二人の会話を知らなかった。


---


 一時間目。


 数学。


「では、この問題を……朝倉」


「はい」


 先生に指名される。


 俺は立ち上がって黒板を見る。


 問題を確認。


「……答えは、x=4です」


「正解」


 席に座る。


「すご」


 後ろの席から小さな声が聞こえた。


 俺は振り返らない。


 ――勉強は嫌いじゃない。


 前の人生でも成績は悪くなかった。


 ただ、特別得意というわけでもない。


 今の俺も同じ。


 普通に授業を受けて、普通に問題を解く。


 それでいい。


---


 二時間目。


 国語。


 先生が黒板に文章を書いている。


 俺はノートを取る。


「……」


 静かな教室。


 隣の席から小さな音。


 乃愛が消しゴムを落とした。


「あ……」


 拾おうとしている。


 俺は足元を見る。


 乃愛の消しゴムが俺の机の下まで転がってきていた。


 拾う。


「はい」


「あ、ありがと」


「どういたしまして」


 俺は消しゴムを渡す。


「……」


「……?」


 乃愛が俺を見る。


「何?」


「いや」


 少し笑って、


「凛ってやっぱり優しいよね」


「普通じゃない?」


「そういうところ」


「……?」


 またよく分からない。


---


 三時間目。


 体育。


 男女別の授業なので、女子だけで体育館へ移動する。


「今日バレーだって」


 乃愛が嬉しそうに言う。


「バレー得意?」


「普通」


「凛って運動できそう」


「そんなことないよ」


「絶対できるって」


「期待しないで」


 体育が始まる。


 準備運動。


 そして軽い練習。


「朝倉!」


「はい!」


 ボールが飛んでくる。


 反射的に腕を出す。


 綺麗に返った。


「ナイス!」


「ありがと」


 乃愛が笑う。


「やっぱ上手いじゃん!」


「今のはたまたま」


「絶対嘘」


「本当にたまたま」


 そんな会話をしながら、体育の時間が過ぎていく。


 楽しかった。


 昔の俺なら、女子と一緒に体育をするなんて考えもしなかっただろう。


 今は。


 それが普通になりつつある。


---


 昼休み。


 教室が一気に騒がしくなる。


「凛、お昼一緒に食べよ」


「うん」


 乃愛が俺の席へ来る。


 二人で弁当を広げる。


「今日の卵焼き美味しそう」


「一個食べる?」


「いいの?」


「うん」


「やった」


 乃愛が嬉しそうに笑う。


 その様子を、少し離れた男子たちが見ていた。


「なあ」


「ん?」


「朝倉さんと水野って、仲良いよな」


「仲いいな」


「二人とも可愛いよなぁ」


「分かる」


「でもタイプ全然違うよな」


「朝倉さんはクール系」


「水野は明るい系」


 神谷が二人を見る。


「確かに」


 桐生も頷く。


「水野は誰とでも話すからな」


「朝倉さんは?」


「……一人でいること多いよな」


「でも水野とは普通に話してる」


「へえ」


 神谷が笑う。


「仲良くなってみたいな」


「お前、女子なら誰でもそう言うじゃん」


「失礼だな」


 二人が笑う。


 まだ。


 凛とはほとんど話したことがない。


 ただのクラスメイト。


 それだけだった。


---


 午後。


 五時間目。


 俺は窓の外を見ていた。


 眠い。


「……」


 少しだけ欠伸をする。


 先生が黒板に文字を書く。


 俺はノートを取る。


 そんな普通の時間。


 でも。


 ふとスマホのことを思い出した。


 鬼宮鬼神のアカウント。


 昨日の投稿。


 何人かが反応してくれていた。


 土曜日の配信。


「……楽しみだな」


 小さく呟く。


「凛?」


「……ん?」


 乃愛がこちらを見る。


「何か言った?」


「いや、何でもない」


「そう?」


「うん」


 俺は前を向く。


 ――土曜日。


 また鬼神として配信する。


 まだ登録者は七人。


 でも。


 次はもう少し増えているかもしれない。


 そんな小さな期待を胸に。


 午後の授業は続いていった。


---


 放課後。


「凛、帰ろ」


「うん」


 乃愛と一緒に教室を出る。


「明日も早いね」


「そうだね」


「明日、体育あるよ」


「……忘れてた」


「また?」


「体育着、ちゃんと持って帰らないと」


「凛ってそういうところ意外と抜けてるよね」


「……そう?」


「うん」


 乃愛が笑う。


 俺も笑った。


 廊下を歩く。


 夕方の校舎。


 窓から差し込む光。


 ごく普通の高校生活。


 俺はこの時間を、少しずつ好きになっていた。


 ――そして。


 そんな普通の毎日の裏側で。


 鬼宮鬼神のアカウントには、新しい通知が届いていた。


**『土曜日の配信、楽しみにしてます!』**


 まだ。


 たった一人のコメント。


 けれど。


 鬼宮鬼神の物語は。


 少しずつ、動き始めていた。

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