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朝倉さんって笑ってる?

月曜日。


「……眠い」


 朝の電車。


 俺は窓に映る自分の顔をぼんやり眺めていた。


 高校生活が始まって、もうすぐ一ヶ月。


 最初の頃は女子の制服を着て電車に乗るだけでも落ち着かなかった。


 けど、今ではだいぶ慣れた。


 ……まあ。


 未だに朝起きて鏡を見ると、


 **「俺、女なんだよな……」**


 と思うことはあるけど。


 それ以外は、意外と普通だ。


「凛ー!」


「……ん?」


 駅から学校へ向かう途中。


 後ろから声がした。


 振り返る。


「おはよ!」


「おはよう、乃愛」


 水野乃愛。


 俺が高校に入ってから一番最初に仲良くなった女子だ。


 明るめの茶髪を肩くらいまで伸ばしたボブ。


 大きな茶色の瞳。


 笑うと小さなえくぼができる。


 俺より少し背が低くて、いつも元気そうにしている。


「今日眠そうじゃない?」


「昨日ちょっと夜更かしした」


「珍しくない?」


「そう?」


「うん。凛って毎日ちゃんとしてそうだもん」


「……そんなことないよ」


 俺は笑った。


「ほら」


 乃愛が俺の顔を見る。


「なに?」


「いや……」


「?」


「やっぱ凛って綺麗だよね」


「…………」


 突然言われて、少し困る。


「……ありがとう?」


「なんで疑問形?」


「いや、こういうの慣れてなくて」


「えー、絶対慣れてると思った」


「慣れてないよ」


 俺は苦笑した。


 乃愛も笑う。


「そういうところが面白いんだよね、凛って」


---


 教室に入る。


「おはよう」


「おはよう、朝倉さん」


「おはよー」


 何人かが声をかけてくる。


「おはよう」


 俺も一人ずつ返す。


 なるべく笑顔で。


 明るく。


 前の人生では、こんなことをするタイプじゃなかった。


 だから今は意識している。


 **ちゃんと人と話す。**


 **ちゃんと笑う。**


 高校では、前とは違う生活を送る。


 そう決めたから。


「凛」


「ん?」


 席に座ると、隣の乃愛が俺の顔を覗き込んできた。


「今日さ」


「うん」


「凛、笑ってる?」


「……え?」


「なんか今日、いつもより怖い」


「怖い!?」


 思わず声が大きくなる。


「ほら、今!」


 乃愛が笑う。


「今の反応は普通に可愛い」


「…………」


「でも普段はさ」


 乃愛が俺の真似をする。


「『おはよう』」


「…………」


「『うん』」


「…………」


「『そうだね』」


「…………」


「……ほら、クール」


「いやいやいや」


 俺は慌てて否定する。


「私、結構愛想よくしてるつもりなんだけど」


「え?」


「……え?」


 乃愛が一瞬固まる。


「……凛、本気?」


「本気」


「……ふふっ」


「なんで笑うの?」


「いや、ごめん」


 乃愛が肩を震わせる。


「凛って面白いなぁって」


「……?」


「でも、そういうところ好きだよ」


「……そっか」


 俺も笑う。


「ありがとう」


「……あ」


 乃愛が固まった。


「どうした?」


「いや……」


「?」


「今の笑顔、ずるい」


「……?」


 意味が分からない。


 俺は首を傾げた。


---


 昼休み。


 俺と乃愛は一緒に弁当を食べていた。


「そういえば凛」


「ん?」


「土曜日って暇?」


「土曜日?」


「うん。何人かで遊びに行こうって話してるんだけど」


「……ごめん」


 俺は少し申し訳なさそうにする。


「土曜の夜は予定ある」


「予定?」


「うん」


「何の?」


「……秘密」


「また秘密?」


 乃愛が頬を膨らませる。


「凛って秘密多くない?」


「そうかな」


「そうだよ」


 乃愛は俺をじっと見る。


「もしかして彼氏?」


「違う」


「じゃあ好きな人?」


「いない」


「じゃあ何?」


「……秘密」


「もう!」


 乃愛が笑う。


 俺も笑った。


 こういう時間が。


 最近は少し楽しい。


---


 ――数日前。


 初配信を終えた翌日の夜。


 俺はパソコンの前に座っていた。


 画面には配信結果。


**最大同時視聴者数:10人**


**登録者:7人**


「……七人」


 まだまだ小さい。


 でも。


 七人が自分の配信を見てくれた。


「……次も来てくれるかな」


 そう考えた時。


 ふと思った。


「……あ」


 配信の予定を知らせる場所がない。


 初配信をしたことを知っている人間もほとんどいない。


「そりゃ増えないよな」


 俺はスマホを手に取った。


 配信者が使っているSNSアプリを入れる。


 アカウントを作成。


 名前は――


**鬼宮鬼神**


 プロフィール画像は鬼神のモデル。


 そしてプロフィール欄には、


**『鬼宮鬼神|新人配信者』**


 とだけ書いた。


「……よし」


 初めての投稿。


> 『昨日は初配信、来てくれてありがとう。

> 次回は土曜日の夜に配信予定です。』


 投稿。


「…………」


 しばらく待つ。


 通知。


「……お」


 いいね。


 一つ。


 また一つ。


「……ふふ」


 思わず笑った。


 たった数個の反応。


 それだけなのに。


 嬉しかった。


---


「凛?」


「……え?」


 気づけば、乃愛がこちらを見ていた。


「さっきからニヤニヤしてない?」


「してない」


「してたよ」


「してないって」


「何考えてたの?」


「秘密」


「また!?」


 乃愛が笑う。


 俺も笑った。


「まあ、そのうち分かるよ」


「本当に?」


「たぶん」


「じゃあ楽しみにしとく」


「うん」


 昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。


 俺は弁当箱を片付ける。


 ――学校では朝倉凛。


 友達と話して。


 笑って。


 普通の高校生として過ごす。


 そして家に帰れば。


 鬼宮鬼神。


 まだ誰にも知られていない、もう一人の自分。

乃愛ちゃん

明るめの茶髪

* 肩くらいのふわっとしたボブ

* 大きめの茶色い瞳

* 身長158cmくらい

* 凛より少し小柄

* 制服は少し着崩す

* 私服はカジュアルで可愛い系

* 表情が豊か

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