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鬼神、雑談する

日曜日。


 午後五時。


「…………」


 俺はパソコンの前に座っていた。


 画面には配信ソフト。


 その横には昨日のFPS配信のデータ。


 最大同時視聴者――18人。


 登録者も、昨日より増えている。


「……21人」


 昨日まで7人だった。


 それが、一晩で21人。


「……すご」


 たった14人。


 だけど。


 俺にとっては大きな数字だった。


 スマホを見る。


 昨日投稿した切り抜きにも反応がついている。


『この新人V、FPSうまくね?』


『声かっこいい』


『怒ってるのにかわいいの何なんw』


「…………」


 最後のコメントを見て、俺は眉をひそめる。


「……可愛くねぇって」


 誰もいない部屋で呟く。


 でも。


 少しだけ嬉しい。



 今日の配信は雑談。


 昨日の配信中に、


『明日は雑談やる?』


と聞かれて。


俺が、


「じゃあやるか」


と言った。


 だからやる。


「……何話せばいいんだろ」


 ゲームならゲームの話をすればいい。


 でも雑談は違う。


 自分のことを話さなければならない。


「……まあ、質問でも拾えばいいか」


 配信タイトルを設定する。


【雑談】鬼神と話そうぜ。【新人V】


「……よし」


 午後六時。


 配信開始。



「よぉ」


 画面に鬼神が映る。


「鬼宮鬼神だ」


 コメントが流れる。


『こんばんは!』


『待ってた!』


『雑談きたー!』


『昨日FPS見て登録しました』


「お」


 俺は少し嬉しくなる。


「昨日から来てくれた奴もいるのか」


『いるよ』


『4キル見てきた』


「……あれは上手かったな」


『自分で言うなw』


「事実だろ」


『調子乗ってて草』


「うるせぇ」


 笑い声が漏れる。



「じゃあ今日は、質問でも拾っていくか」


 コメント欄を見る。


『鬼神って何歳?』


「……」


 最初から来たか。


「秘密」


『えー』


「女性に年齢聞くな」


『女性なんだ』


「……鬼だ」


『逃げたw』


「逃げてねぇよ」


 コメントが流れる。


 次。


『好きな食べ物は?』


「……甘いもの」


『意外』


「なんでだよ」


『辛いもの好きそう』


「辛いものも好きだけど」


「甘いものも好き」


『何が好き?』


「……プリン」


『かわいい』


「…………」


 止まる。


「……うるせぇ」


『プリン好き鬼』


「その呼び方やめろ」


『鬼なのにプリン』


「いいだろ別に!」


 コメント欄が笑いで埋まる。


 俺も思わず笑った。



 次の質問。


『普段何してるの?』


「ゲーム」


『それ以外は?』


「……寝る」


『草』


「いや、普通だろ」


『インドア?』


「まあ」


『外出しない?』


「必要ならする」


『友達いる?』


「…………」


 俺は少し考える。


「いる」


 乃愛の顔が浮かんだ。


「……まあ、普通に」


『何人くらい?』


「……」


 答えに困る。


「そこまで多くない」


『少なそう』


「うるせぇ」


 またコメント欄が笑う。



 配信開始から一時間。


 いつの間にか。


同時視聴者:24人


「……24?」


 俺は数字を二度見した。


「昨日より増えてる」


『口コミで来た』


『FPSから来たよ』


『昨日面白かったから』


「……そっか」


 胸の奥が少しだけ温かくなる。


 誰かが。


 自分のことを楽しみにしてくれている。


 それだけで。


 こんなに嬉しいとは思わなかった。



 そして。


『鬼神って彼氏いる?』


「…………」


 コメントを見た瞬間。


 俺は固まった。


「……いない」


『即答w』


「いないものはいない」


『好きなタイプは?』


「……」


 これは困る。


 元男子だった俺にとって。


 この質問は難しい。


「……優しい人」


『普通だw』


「うるせぇな」


『じゃあ可愛い子と美人どっち?』


「…………」


 少し考える。


「……どっちも」


『欲張り』


「だって可愛いのも美人なのもいいだろ」


『女の子好きじゃん』


「…………」


 俺は画面の端を見る。


「……まあ」


 小さく呟く。


「可愛い子は好き」


『www』


『鬼神様、正直』


「うるせぇ!」


 顔が熱い。


 コメント欄がさらに盛り上がる。



 そして。


 最後の方。


『これからどういう配信者になりたい?』


 俺は少し考えた。


「……うーん」


 最初は。


 ただ何となく始めただけだった。


 新しい人生。


 新しいこと。


 それくらいだった。


 でも。


 今は少し違う。


「……見てる人が楽しめる配信者」


 言葉にすると、少し恥ずかしい。


「ゲームでも雑談でも」


「俺の配信を見て、ちょっとでも楽しいって思ってくれたら――」


 少し間を置く。


「……それでいいかなって」


 コメントが流れる。


『応援する』


『いいこと言うじゃん』


『これからも見る』


『推すわ』


「…………」


 胸が少し熱くなる。


「……ありがとな」


 今度は誤魔化さずに言った。



 午後八時。


 そろそろ終わりの時間。


「今日はここまでにするか」


『おつかれ!』


『楽しかった!』


『また雑談して!』


「うん」


 少し笑う。


「またやる」


 そして。


「……来週も配信するから」


 少しだけ間を置く。


「……みんな、来てくれる?」


 一瞬。


 コメント欄が一気に流れた。


『行く!』


『絶対行く』


『待ってる』


『もちろん』


「…………」


 俺は画面を見つめる。


 そして。


 小さく笑った。


「……そっか」


 少しだけ照れながら。


「じゃあ――また来週な」


 配信終了。



 静かになった部屋。


 俺は椅子に座ったまま、画面を見る。


最大同時視聴者:31人


登録者:38人


「…………38人」


 初配信から。


 まだ一週間も経っていない。


 それなのに。


 七人だった登録者が。


 38人になった。


「……増えたな」


 俺はスマホを手に取る。


 SNSを開く。


 通知がいくつも届いている。


『今日の雑談楽しかった!』


『鬼神のことちょっと分かった気がする』


『次回も楽しみにしてます』


「…………」


 俺は画面を見ながら。


 静かに笑った。


 学校では。


 朝倉凛。


 まだただの高校生。


 クラスでは、一人でいることも多い。


 友達は少ない。


 でも。


 画面の向こうには。


 少しずつ、自分を待ってくれる人が増えている。


「……不思議だな」


 そう呟いて。


 俺はパソコンの電源を落とした。


 まだ。


 鬼宮鬼神は無名だ。


 けれど。


 その名前を知る人間は。


 確実に増え始めていた。

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