知らない2人、知ってる2人
翌朝。
凛が教室に入ると、いつものようにクラスメイトたちがそれぞれの席で話していた。
「おはよう、朝倉」
「おはよう」
凛は軽く挨拶を返して席に座る。
すると、少し離れたところから男子たちの声が聞こえてきた。
「昨日の鬼神の配信見た?」
「ミナとのやつ?」
「そうそう」
「普通に面白かったわ」
「鬼神って最近めちゃくちゃコラボしてね?」
「魔王杯から一気に増えたよな」
凛は聞こえてくる会話に、ほんの少しだけ笑う。
(……まあ、確かに増えたな)
そのとき。
「朝倉さん」
「ん?」
女子の一人が話しかけてきた。
「昨日の鬼神見た?」
「見たよ」
「やっぱり?」
「うん」
「最近さ、鬼神って結構人気出てない?」
「そうだね」
「最初はFPSが上手い新人って感じだったのに、今じゃ歌も歌うし、いろんな人とコラボしてるし」
「確かに」
凛は頷きながら、内心で苦笑する。
(本人なんだけどな……)
そんなことを思っていると。
「そういえば、白石さんも鬼神好きなんじゃなかった?」
「そうそう!」
女子が廊下を見る。
ちょうど別クラスから、白石ひよりが友達と一緒に歩いてきた。
「白石ー!」
「なにー?」
「昨日の鬼神の配信見た?」
「見たよ!」
ひよりが笑う。
「ミナさんとのコラボでしょ?」
「やっぱり見てるんだ」
「うん。面白かった!」
「最近、鬼神のこと好きすぎじゃない?」
「えっ?」
ひよりが少し慌てる。
「そ、そんなことないよ!」
「顔に出てるって」
「出てない!」
周りから笑い声が起きる。
凛はその様子を少し離れた場所から見ていた。
(……白石さん、本当に鬼神好きなんだな)
ひよりがこちらに気づく。
「あ」
「?」
「朝倉さん、おはよう」
「おはよう」
凛も軽く笑う。
「朝倉さんも昨日の配信見た?」
「うん」
「どうだった?」
「面白かったよ」
「だよね!」
ひよりが嬉しそうに笑う。
「鬼神さん、最近すごく楽しそうなんだよね」
「そうだね」
「魔王杯のときより、ちょっと雰囲気柔らかくなった気がする」
「……そうかも」
凛は少しだけ視線を逸らした。
(まあ、いろんな人と話すようになったしな)
「じゃあ、私そろそろ戻るね」
「うん」
「またね、朝倉さん」
「また」
ひよりが自分の教室へ戻っていく。
凛はその後ろ姿を見ながら思う。
(……星乃ひよりと白石さん、やっぱりちょっと似てる気がするんだよな)
しかし。
それ以上は考えなかった。
⸻
放課後
帰宅した凛は、制服から着替えてPCの前に座る。
「今日は配信……」
スケジュールを確認。
今日は配信の予定はない。
少し休もうと思った、そのとき。
ピコン。
DM。
送り主は――
星乃ひより。
「……ひよりさん?」
凛はメッセージを開く。
星乃ひより
鬼神さん!
この前のコラボから少し時間空いちゃいましたけど、また一緒に配信しませんか?
「……」
凛の口元が自然と緩む。
鬼宮鬼神
もちろん。
俺もまた一緒にやりたいと思ってました。
送信。
すぐに既読がつく。
星乃ひより
本当ですか!?
嬉しいです!
「ふっ」
凛は笑う。
鬼宮鬼神
今度は何のゲームにします?
星乃ひより
えっと……
実はやってみたいゲームがあって!
鬼宮鬼神
じゃあそれやりましょう。
星乃ひより
やった!
そこで。
凛の手が止まった。
(……なんか)
前より距離が近くなった気がする。
最初の頃は「鬼神さん」と少し緊張した感じだった。
今では、こうして気軽にDMを送ってくる。
凛も。
ひよりとのコラボは嫌いじゃない。
むしろ――
(……楽しいんだよな)
その頃。
⸻
白石ひよりの部屋
「やった……!」
ひよりはスマホを握りしめていた。
今回も鬼神とコラボできる。
それだけで嬉しい。
「次は何のゲームにしようかな……」
机の上に置いたノートに、候補を書いていく。
「これもいいし……こっちも……」
その顔は完全に楽しそうだった。
そして。
ふと学校での出来事を思い出す。
「……朝倉さんも鬼神さんの配信見てたな」
今日、教室で話したこと。
凛の落ち着いた雰囲気。
笑ったときの柔らかい表情。
「……」
ひよりは少し考える。
「そういえば……」
鬼神と朝倉凛。
二人とも、少し落ち着いた雰囲気がある。
でも。
「まさかね」
ひよりはすぐに笑った。
「朝倉さんがVTuberやってるわけないよね」
そして再びスマホを見る。
そこには。
『鬼宮鬼神』
とのDM画面。
「次のコラボ、楽しみだなぁ」
⸻
一方。
凛も同じように画面を見ていた。
「……次は何を話そうかな」
学校では。
朝倉凛と白石ひより。
ネットでは。
鬼宮鬼神と星乃ひより。
二つの関係は。
まだ交わらない。
けれど。
少しずつ。
少しずつ。
二人はお互いのすぐ近くまで――
近づいていた。




