鬼神さん先行ってください
土曜日。
午後八時。
鬼宮鬼神の配信が始まろうとしていた。
今回のコラボ相手は――
星乃ひより。
魔王杯やこれまでのコラボを通して、すっかり仲良くなった相手だ。
配信開始の少し前。
凛のスマホにDMが届く。
星乃ひより
鬼神さん……!
一つ言っておきたいことがあります。
鬼宮鬼神
どうしました?
星乃ひより
私、ホラーゲーム本当に苦手です……。
「……」
凛は少し笑う。
鬼宮鬼神
大丈夫ですよ。
無理そうなら途中でやめましょう。
星乃ひより
ありがとうございます……!
でも、頑張ります!
鬼宮鬼神
じゃあ頑張りましょう。
星乃ひより
はい!
そして。
配信開始。
⸻
『【コラボ】鬼神、ホラーゲームやります【星乃ひより】』
「こんばんは、鬼神です」
『こんばんはー!』
続いて、明るい声。
「星乃ひよりです!」
『ひよりきた!』
『鬼神×ひより待ってた!』
『今日は何するの?』
「今日はですね」
凛が説明する。
「二人で協力型のホラーゲームをやります」
「……」
「ひよりさん?」
「……はい」
「大丈夫ですか?」
「怖いです」
『開始前からw』
『ひよりちゃん頑張れ!』
『鬼神がいるから大丈夫』
「鬼神さん、絶対先に行ってくださいね」
「なんでですか?」
「怖いからです!」
「協力ゲームですよ?」
「だからです!」
『wwww』
コメント欄が一気に流れる。
⸻
ゲーム開始
二人が暗い廃屋の中を進んでいく。
「……」
「……」
静かだ。
足音だけが響く。
「鬼神さん」
「はい」
「……後ろにいます?」
「いますよ」
「本当に?」
「本当に」
「よかった……」
『ひより完全に鬼神の後ろw』
『もう保護者じゃん』
『鬼神さん頑張って』
凛は苦笑する。
「ひよりさん、ちゃんと探索してください」
「してますよ!」
「俺の後ろを歩いてるだけですよね?」
「……」
「図星じゃないですか」
「鬼神さんが先に行ってくれるから!」
「俺を盾にしてません?」
「してません!」
『してるw』
⸻
そのとき。
廊下の奥から。
――ガタン。
「……」
「……」
二人とも止まった。
「今の何?」
ひよりの声が小さくなる。
「何か落ちたんじゃないですか?」
「……見に行ってください」
「なんで俺が?」
「鬼神さんのほうが強そうだから」
「ゲーム関係ないですよ」
『正論w』
凛が先へ進む。
「ほら、何も――」
その瞬間。
バンッ!!
「うわっ!」
凛が珍しく声を上げた。
「きゃああああああ!!」
ひよりの悲鳴が重なる。
画面いっぱいに突然現れた化け物。
「……」
「……」
二人とも固まる。
『wwwwww』
『鬼神も叫んだwww』
『ひよりの声やばいw』
『鬼神さん普通にびっくりしてて草』
「……」
凛が黙っている。
「……鬼神さん?」
「……今のは」
「はい」
「……反則じゃないですか?」
「ふふっ」
ひよりが笑い出す。
「鬼神さんも怖いんじゃないですか!」
「怖くないです」
「絶対怖かったですよね!」
「驚いただけです」
「同じじゃないですか!」
『鬼神、必死w』
⸻
その後。
二人は慎重に探索を続ける。
しかし。
ひよりは完全に鬼神の後ろ。
「ひよりさん」
「はい」
「近いです」
「怖いんです」
「……」
「鬼神さん、先行ってください」
「またですか?」
「お願いします!」
「分かりましたよ……」
凛が先へ進む。
「……何もないですよ」
「本当ですか?」
「はい」
「じゃあ私も――」
ひよりが一歩進んだ瞬間。
ガタッ!
「きゃっ!」
「うわっ!」
二人同時に後退する。
『仲良すぎw』
『同じ反応してるw』
『これもう夫婦漫才だろ』
「今のは俺もびっくりしました」
「ですよね!」
「ひよりさんだけじゃなかったです」
「よかったぁ……」
ひよりが安心する。
「……でも」
「はい?」
「鬼神さんがいると安心します」
「……」
凛が少し黙る。
「そうですか?」
「はい!」
『おおおお』
『ひよりちゃん!?』
『鬼神照れてる?』
「……まあ」
凛は少しだけ笑った。
「じゃあ、ちゃんと守りますよ」
「お願いします!」
『てえてえ』
『この二人強い』
⸻
それから約一時間。
二人は何度も驚きながらも協力してゲームを進めていった。
「ここ、鍵が必要ですね」
「私、探します!」
「じゃあ俺はこっちを」
「分かりました!」
最初は鬼神に頼りきりだったひよりも、少しずつ自分から動き始める。
「ありました!」
「本当?」
「はい!」
「ナイスです」
「えへへ」
そして。
最後の謎を二人で解く。
画面に表示される――
CLEAR
「……」
「……」
「やったー!」
ひよりが声を上げる。
「クリアしました!」
「よかったですね」
「鬼神さんのおかげです!」
「ひよりさんも頑張ってましたよ」
「本当ですか?」
「はい」
「……嬉しいです」
『クリアおめでとう!』
『めっちゃ面白かった!』
『この二人またやってほしい』
『次のコラボ待ってる!』
⸻
配信終了後
「今日はありがとうございました!」
「こちらこそ」
「楽しかったです!」
「俺も」
「……あの」
「はい?」
「また一緒にゲームしたいです」
凛は少し考える。
「もちろん」
「本当ですか?」
「うん」
「やった!」
ひよりが嬉しそうに笑う。
「じゃあ、また誘いますね!」
「待ってます」
「お疲れ様でした!」
「お疲れ様」
通話終了。
凛はヘッドホンを外した。
「……」
思わず笑う。
「楽しかったな」
⸻
翌日――学校。
「白石、昨日の配信見た!」
「見た見た!」
「鬼神とホラーやってたよね?」
「うん!」
ひよりは楽しそうに話している。
「最初は本当に怖かったんだけど、鬼神さんが一緒だったから大丈夫だった!」
「めっちゃ仲良くない?」
「そうかな?」
「そうだよ!」
少し離れた場所。
凛はその会話を聞いていた。
(……昨日のこと話してる)
そして。
「朝倉さんも見た?」
ひよりがこちらを見る。
「うん」
「どうだった?」
「……面白かったよ」
「本当!?」
「うん」
ひよりは嬉しそうに笑った。
「鬼神さん、優しいんだよ!」
「……そうだね」
凛は笑う。
「そういう人だと思う」
白石ひよりは知らない。
今、自分の目の前で笑っている少女が。
昨日、自分を怖がらせないように先頭を歩いていた――
鬼宮鬼神本人だということを。
そして凛も知らない。
昨日「鬼神さんがいると安心します」と言っていた少女が。
今、自分の目の前で笑っている――
星乃ひより本人だということを。
二人の距離は。
また一歩。
近づいていた。




