鬼神に会いたい
朝霧カナタの雑談配信から、数日。
その切り抜きは、予想以上に広がっていた。
『鬼神、リアルだと可愛いらしいぞ』
『しかもかっこいいらしい』
『カナタだけずるい』
SNSでもそんな投稿が増えている。
そして、その影響はVTuberたちにも及んでいた。
⸻
とあるVTuberの配信
「えーっと……?」
配信中の女性VTuber――月城ミナは、コメント欄を眺めていた。
『鬼神の切り抜き見た?』
「見た見た」
『リアルの鬼神、気にならない?』
「めちゃくちゃ気になる」
ミナは即答した。
「だって、カナタちゃんがあんなに褒めるんだよ?」
『可愛いしかっこいいって言ってたな』
「そう!」
ミナは身を乗り出す。
「しかも魔王杯優勝して、歌も上手いんでしょ?」
『そうだぞ』
「……強すぎない?」
コメント欄が笑いで埋まる。
「私も一回コラボしてみたいなぁ」
⸻
別の配信
「鬼神さん?」
男性VTuber――黒瀬レイがコメントを読む。
『最近鬼神が気になる』
「俺も気になってる」
『カナタがリアルの鬼神について話してた』
「へぇ」
レイは切り抜きを再生する。
『めちゃくちゃ可愛かったです』
『あと普通にかっこよかったです』
「……なるほど」
少し笑う。
「これは会ってみたいな」
『コラボしようぜ』
「機会があればな」
⸻
そして――
そんな話題とは関係なく。
凛は自宅でPCに向かっていた。
「……なんでこんなにDM来てるんだ?」
画面には大量のメッセージ。
『鬼神さん、よければコラボしませんか?』
『今度ゲームご一緒しませんか?』
『歌ってみたのお話をしたいです!』
「……カナタさんのせいだな」
凛は苦笑した。
もちろん、嫌なわけではない。
むしろ嬉しい。
以前なら、コラボの誘いなんてほとんど来なかった。
それだけ自分の名前が広がったということだ。
「……でも、予定が」
凛はカレンダーを見る。
学校。
配信。
歌の収録。
そして新しいコラボ。
「忙しくなってきたな……」
そう呟いたとき。
ピコン。
新しいDM。
送り主を見て、凛が少し驚く。
「……月城ミナ?」
最近、何度か配信を見たことのあるVTuberだった。
月城ミナ:
鬼神さん!
もしよかったら、今度一緒にゲームしませんか?
「……」
凛は少し考える。
そして。
鬼神:
ぜひお願いします。
送信。
⸻
翌日――学校。
「朝倉、おはよう」
「おはよう」
教室。
いつもと変わらない朝。
凛は席につき、窓の外を見る。
すると廊下の向こうから、女子たちの話し声が聞こえてきた。
「白石!」
「なに?」
「昨日の鬼神の切り抜き見た?」
「見たよ」
凛の耳が少しだけ反応する。
「やっぱり気になるよね?」
「うん!」
ひよりの声。
「鬼神さんって、実際どんな人なんだろうね」
「会ってみたい?」
「……ちょっとだけ」
凛は思わず振り返りそうになる。
(……会ってみたい、か)
しかし。
ひよりは当然知らない。
その「鬼神」が。
今、自分の教室から数十メートル離れたところにいることを。
「でも、いつか会えるといいね」
「うん」
ひよりが笑う。
⸻
昼休み。
凛が一人で弁当を食べていると。
「朝倉さん」
「ん?」
クラスの女子が話しかけてきた。
「昨日、鬼神の歌聞いた?」
「聞いたよ」
「どうだった?」
「……結構よかった」
「だよね!」
女子は嬉しそうに笑う。
「私、最近鬼神好きなんだよね」
「そうなんだ」
「ゲーム上手いし、声かっこいいし」
「うん」
「でもカナタさんの話聞いたら、リアルだと可愛いらしいじゃん?」
「……みたいだね」
凛は少しだけ目を逸らす。
「なんか、会ってみたくならない?」
「どうだろう」
「朝倉さんなら、鬼神と会ったら仲良くなりそう」
「なんで?」
「なんとなく!」
「……そう」
凛は苦笑する。
(俺なんだけどな)
そんなことを思いながら。
今日も秘密を抱えたまま、学校生活を送る。
⸻
その日の夜。
鬼宮鬼神の配信開始。
「こんばんは、鬼神です」
『きた!』
『今日何するの?』
「今日は……」
凛が画面を見る。
「ちょっと新しいコラボの話をします」
『おお!』
『誰!?』
「月城ミナさんと、今度ゲームをすることになりました」
『ミナ!?』
『新コラボきた!』
「はい」
凛は少し笑う。
「せっかくなので、いろんな人と遊んでみようかなと思ってます」
コメントが流れる。
『鬼神の交友関係どんどん広がってるな』
『次は誰とコラボするんだろ』
『カナタとの歌も楽しみ』
「歌も頑張ってます」
凛が笑う。
その頃。
同じ配信を見ている一人のVTuberがいた。
星乃ひより。
「……」
画面の中で笑う鬼神を見ながら。
「やっぱり、面白い人だなぁ」
そして。
ほんの少しだけ。
「……いつか、直接会ってみたい」
そう呟いた。
まだ。
その願いが叶ったとき。
目の前にいる人物が、学校で毎日見ている――朝倉凛だと知ることになるとは。
ひよりは知る由もなかった。




