リアル鬼神
歌ってみたの収録から数日後。
朝霧カナタは、いつものように自宅から雑談配信をしていた。
「はい、というわけで今日は久しぶりに雑談多めでやっていきます」
画面にはカナタのモデル。
コメント欄には、いつものように大勢の視聴者が集まっている。
『待ってた!』
『最近忙しそうだったね』
『歌ってみたまだー?』
『鬼神との歌コラボ楽しみ』
「そうですねぇ」
カナタはコメントを眺めながら笑う。
「歌ってみた、ちゃんと進んでますよ」
『鬼神との収録どうだった?』
『めちゃくちゃ楽しみ』
『鬼神歌うまい?』
「……」
カナタの手が止まる。
「あー……」
少し考えて。
「そういえば、その話してなかったですね」
『何!?』
『聞かせて!』
「実はこの前、鬼神さんと直接会って収録してきたんですよ」
その瞬間。
コメント欄の流れが一気に速くなる。
『!?!?!?』
『リアルで会ったの!?』
『マジ!?』
『カナタ羨ましい!!』
「はい」
カナタは笑った。
「ちゃんとスタジオで会って、一緒に収録しました」
『鬼神ってどんな人!?』
『怖かった?』
『配信だと結構クールだよね』
「いや、それがですね」
カナタは少し考える。
「結構……印象違いました」
『ほう』
『詳しく』
「まず」
カナタは少し笑って。
「めちゃくちゃ可愛かったです」
『!?!?!?』
『鬼神かわいいの!?』
『待って、どういうこと!?』
『カナタだけずるい!!』
「いや、本当に」
カナタは頷く。
「普通に可愛いです」
『顔!?』
『雰囲気!?』
『服装!?』
「全部……と言ったら言い過ぎかもしれませんけど」
少し考えて。
「服装も似合ってましたし、雰囲気もクールで」
「でも、笑うとすごく可愛いんですよ」
『ギャップじゃん!!』
『それは気になる』
『鬼神ってリアルだとそんな感じなの!?』
「そうなんですよ」
カナタは楽しそうに話す。
「しかも、普通にかっこいいんですよね」
『???』
『可愛いの?かっこいいの?』
「どっちもです」
『強い』
『無敵じゃん』
「私も最初ちょっとびっくりしました」
カナタは収録の日を思い出す。
黒い服がよく似合っていた。
落ち着いた話し方。
少しクールな表情。
なのに。
笑った瞬間だけ、年相応の可愛さが出る。
「配信ではもっと荒っぽい感じもあるじゃないですか」
『あるある』
『鬼神、たまに口悪いしなw』
「でも実際に会ったら全然違って」
「すごく礼儀正しいし、落ち着いてるし」
「……あと、褒めるとちょっと照れるんですよ」
『うわああああ』
『それはズルい』
『カナタ詳しすぎるだろw』
「いやいや!」
カナタが慌てる。
「普通に収録しただけですからね!?」
『本当に?』
『また会いたいとか思ってそう』
「…………」
一瞬。
カナタが黙る。
『あ』
『今の間は何?』
「……まあ」
カナタは苦笑する。
「また一緒に何かやれたら楽しそうだな、とは思いますよ」
『やっぱり!』
『次のコラボ期待!!』
『オフコラボしてほしい!』
「それは本人次第ですね」
カナタは笑う。
「勝手に決められないので」
⸻
その配信から数時間後。
切り抜き動画が投稿された。
【衝撃】朝霧カナタ、鬼神と初対面した感想を語る
そして。
コメント欄は大盛り上がり。
『鬼神、リアルだと可愛いのか……』
『しかもかっこいいって何!?』
『カナタ羨ましすぎる』
『誰か鬼神とオフコラボしてくれ』
さらに。
この切り抜きを見たVTuberたちの間でも話題になっていく。
⸻
とある配信者の配信
「えっ、鬼神ってリアルだと可愛いの?」
配信中の女性VTuberが切り抜きを見ている。
「しかもクールでかっこいい……?」
コメント欄が流れる。
『カナタが言ってた』
『鬼神と会ったことあるのカナタだけじゃね?』
「いいなぁ……」
彼女は羨ましそうに呟く。
「私も鬼神さんとコラボしてみたい」
⸻
また別の配信
「鬼神?」
男性VTuberがコメントを読む。
「魔王杯の?」
『そう!』
『カナタがリアルの鬼神について話してた』
「へえ……」
切り抜きを確認する。
「……なるほど」
少し笑って。
「これは気になるな」
⸻
そして――
鬼神本人。
「…………」
凛は自宅で、その切り抜きを見ていた。
「カナタさん……」
思わず額を押さえる。
「結構喋ったな……」
もちろん。
悪い気はしない。
むしろ。
「……可愛いって言われるの、ちょっと恥ずかしいけど」
凛は小さく笑う。
だが。
その日の夜から。
鬼神のもとへ届くDMの数が。
また少し増え始めた。
「鬼神さん、よかったらコラボしませんか?」
「一度お話してみたいです!」
「今度一緒にゲームしませんか?」
「……増えたな」
凛は苦笑する。
魔王杯。
十万人。
歌ってみた。
そして今回のカナタの何気ない発言。
それらが少しずつ重なって。
鬼宮鬼神という名前は。
ゲーム界隈だけではなく。
VTuber界全体へと。
ゆっくり広がり始めていた。
そしてその頃。
学校では――。
「ねえ白石、昨日の鬼神の切り抜き見た?」
「見た!」
「リアルだと可愛いんだって」
「……え?」
ひよりは目を輝かせた。
「それ、ちょっと気になる……!」
まさか。
その「可愛い鬼神」が。
同じ学校の別クラスにいるとは。
まだ。
知る由もなかった。




