増えすぎたDM
魔王杯から数日。
鬼宮鬼神の登録者数は、ついに十万人を突破していた。
そして。
「……多い」
凛はPCの画面を見ながら呟いた。
DM。
コラボ依頼。
ゲーム大会への招待。
企業案件。
歌ってみたの誘い。
画面をスクロールしても。
スクロールしても。
終わらない。
「……これ、全部返信するの?」
凛は椅子にもたれた。
配信を始めたばかりの頃。
DMが一件届いただけで嬉しかった。
今では。
一晩放置しただけで数十件。
「人気者って大変なんだな……」
そのとき。
「凛ー」
「ん?」
部屋の外から父親の声。
「ご飯できたぞ」
「今行く」
凛はPCを閉じる。
そしてリビングへ。
────────
「最近忙しそうだな」
夕食を食べながら父が言った。
「うん。なんか急に増えた」
「魔王杯優勝したからな」
「……そうだけど」
母も笑う。
「よかったじゃない」
「まあ……嬉しいけど」
「じゃあ頑張らないとな」
「うん」
父は楽しそうに笑った。
「人気者は大変だな」
「他人事みたいに言わないでよ」
「ははは」
凛も笑った。
こういう時間は。
以前と変わらない。
────────
翌日。
学校。
「凛!」
「おはよう、乃愛」
「聞いて!」
「何?」
「鬼神の新しい切り抜き見た!?」
「……また?」
「また!」
乃愛がスマホを見せる。
そこには。
『魔王杯優勝後の鬼神、10万人突破について語る』
という動画。
「昨日配信してたんだよ!」
「そうなんだ」
「すごくない?」
「……うん」
「しかもね!」
乃愛は嬉しそうに続ける。
「コメント全部見てるらしいよ」
「……まあ、できるだけ」
「え?」
「……なんでもない」
凛は誤魔化した。
「それでさ」
「ん?」
「鬼神、次に何すると思う?」
「さあ……」
「歌とかやってほしいな」
「歌?」
「うん!」
乃愛は楽しそうに笑う。
「声かっこいいし」
「……なるほど」
凛は少しだけ目を逸らした。
────────
放課後。
帰宅。
PCを起動。
「……よし」
今日は配信の予定はない。
届いたDMを整理する。
「これはコラボ」
「これは大会」
「これは……案件」
一件ずつ確認していく。
そして。
「……ん?」
一通。
少し雰囲気の違うDMがあった。
差出人。
朝霧カナタ
「カナタさん?」
魔王杯で同じチームだったVTuberだ。
開く。
> 鬼神さん!
>
> 魔王杯お疲れ様でした!
>
> それで、もしよかったらなんですけど――
>
> 今度、一緒に歌ってみたやりませんか?
「……歌ってみた」
凛は画面を見つめる。
「……俺が?」
FPS。
ゲーム。
雑談。
それが鬼神の活動だった。
歌。
そんなもの。
考えたこともなかった。
すると。
もう一件。
星乃ひより
> 鬼神さん!
>
> 10万人改めておめでとうございます!
>
> それと、祝勝会の詳細決まりました!
「……あ」
凛はそちらを開く。
> 参加者は私、ユナちゃん、レオさん、セナさん、ガクさん……
>
> あと暁さんも来ます!
「暁さんも?」
さらに。
> みんな鬼神さんに会いたがってます!
「…………」
凛は少し笑った。
「なんか……」
魔王杯に出る前とは。
明らかに違う。
自分から何かをしなくても。
誰かが声をかけてくれる。
そして。
その中心に。
自分がいる。
「……不思議だな」
凛は画面を眺める。
そのとき。
新しい通知。
「……また?」
今度は。
企業からだった。
有名ゲームタイトルの名前。
「…………」
凛が開く。
> この度、弊社新作タイトルのプロモーションに関しまして、
> 鬼宮鬼神様にぜひご出演いただきたく――
「…………」
凛はしばらく黙っていた。
そして。
「……これ」
小さく笑う。
「本当に俺に来てるんだよな?」
誰に聞くでもなく。
一人で呟く。
PCの画面には。
大量のDM。
大量の可能性。
そして。
一つの新しい依頼。
「鬼宮鬼神、歌ってみませんか?」
これまで。
ゲームでしか知られていなかった鬼神。
だが。
次に広がろうとしているのは。
FPSだけではなかった。
――鬼神の新しい一面が。
少しずつ。
姿を見せ始めていた。




